第28話誰よりもあなたを想って



家を出る5分前にピンポーンと、インターホンが鳴った。急ぎ足でドアを開くとそこにはノートに書いてあった通りの子が制服を着て尋ねてきた。


「おはよう星川さん」

「……おはよう晴人」


あれ?星川さんって僕のこと名前で呼んでいたっけ。


「やっぱりノートに書いてなかったんだね」

「何を?」

「私と晴人が付き合ってること」

「え?」


星川さんの顔は嘘をついていない。僕は本当に高校生の間に星川さんと付き合っていたらしい。

じゃあ……愛衣のことは……10年の約束は……

頭によぎった約束を僕は破ってしまったのかそれとも愛衣自身が覚えていなくて、僕のことをふったのか……わからないけど喪失感だけが胸にこべりついた。朝からなんなんだよ。いきなりアルツハイマーになって記憶がなくなっているとか、もう高校生で10月とか星川さんと付き合ってるとかわけがわからない。手一杯だ。


「大丈夫?」


おかしいな……初めて聞いた声音なのに何度も聞いたことがあるみたい……


「だ、大丈夫だよ。学校に行こう」


***星川夢


遊園地デートから1週間たった頃。晴人は今生きてる記憶も明日には忘れてしまうようになった。

そして、1か月も経つと高校生の記憶を無くした

私と付き合ったことも亮太が亡くなったことも高校でできた友達もみんな全部忘れてしまった。

悲しかった、それでもいつか思い出してくるって信じて1か月たった。毎朝向かいに行っても晴人の見ている私は中学生の私で友達の私だった。毎朝付き合っていることを伝えると何かを考えて悲しそうな顔をして無理矢理つくった笑顔で私に学校に行こうと言ってくる。ねぇ晴人いつかあなたのノートに私を彼女だって書いてくれる?


「うん。学校に行こっか」


晴人は必ず聞いてくる。僕はどんな生活を送っていたのかどうして私と付き合ったのか。彼の疑問を埋めていく。もうやめて、私の心をえぐらないで思い出せば出すほど大切すぎて眩しすぎて愛おしすぎて、戻ってきてよ!ってはやく全部思い出してよ!って叫んでしまいそうになるから


「星川さん僕と愛衣って友達?」


この質問は何度目だったけ……毎朝記憶がなくなるたびに聞いてくる。晴人の事情だってわかる。初恋の相手でずっと約束をしていたことを聞いたことがあったから。それでもお願いだから私の前であなたの口から愛衣の名前を言わないで、どうして愛衣は名前で私は苗字でさん付けなの?愛衣は悪くないのに嫌いって思いそうになる私が嫌い



「仲の良い友達だよ。同じクラスで良くグループで話すよ」

「そっか……」


やっぱりか……なんて顔しないでよ……


「そういえば亮太も同じ学校だよな」

「ノート全部読んでない?」

「今日寝坊しちゃって全部読めてないんだ」


何日かに1回晴人は全部読んでなかったりして河合くんのことを聞いてくる。


「実は河合くん交通事故で亡くなってるの」

「は?え?」


晴人は取り乱してカバンに入っていたノートをめくる。そして絶望したように嗚咽を吐く

もう見てられないよ。どうして晴人がこんな目に合わないといけないの。記憶と大切な親友を失わないといけないの。


「あぁそっか……そうなんだ。ごめん僕今日休む学校には行けないや」


今日も学校には行けないんだね。もう私にとって日課となってしまった。晴人の泣き顔。私にはもう救うことなんてできない。助けてあげたい。心の支えになってあげたいそれなのにどうしようもなく私は無力だ。朝だけは日々がループしてるみたいに感じる。

私が学校に着いてドアを開けると愛衣と中村くんが一瞬だけ期待している顔をして悲しそうな顔になる。


「今日もダメだったか……」

「いつか学校に来られると良いんだけど」

「私もそう願ってる」


信じているから耐えられる。私のことを知っていてくれるから耐えられる。あなたを今日も待っています。


***


そんな日がまた2か月が経って、晴人は中学校生活をなくした。もう私のことを覚えていない。それでも何日も毎朝向かいに行っている。心を犠牲に自分の体をナイフで刺すような朝を送っている。最近はいっそう記憶を忘れられるのがはやくなった。医者はストレスが原因だと言った。もういつまで持つかわからない。いずれ全ての記憶をなくしたら決断しなければいけません。晴人くんをどうするのかそう言った。そんな話を彼の両親と共に聞いた。


もう、決断すべきなんだろうね。私。

誰よりもあなたのことを想っているから


そっと心の中でそう告げて覚悟を決めた



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