第27話手放したくない
時間は想像を超える早さで進んでいった。
診断結果を家族と友達に伝えるのは勇気が必要だったけど、夢がいてくれたから打ち明ける事ができた。先生達も理解してくれて優しく無理をさせないようにしてくれた。けど、こんな風に過ごせる日々は段々と終わりへと向かっていった。
1ヶ月がたった頃僕にはもう高校生としてつくった思い出を失った。
「晴人無理に学校に行かなくても良いんだよ」
優しい声音を向けてくれる夢の表情は少しだけ心配そうだった。
「大丈夫だよ。確かに僕にとって大切な記憶がなくなったのは体が感じてるけど、今この瞬間だって新しい思い出をつくれてるから」
少しだけ嘘くさい笑顔だったかもしれない。僕だって嘘をついたつもりはないけど、体が反応のしてしまう。
「ほんとに?」
「ほんとだよ。僕には夢だっているから」
いつまで続くかわからない日々に必要最低限のメモをとって毎朝起きてチェックする。忘れたことを忘れないように
「学校行こっか」
「うん」
夢がいて良かった。今の僕には全ての希望だから
学校に着くと友達がおはようと手を振ってくれる
僕らはそれに応じて、手を振っておはようと返す
席について雑談をかわす。みんなが話すのは前のことじゃなくて、本当に最近のここ数日のことだけ。気を遣ってくれているんだろうな。
授業が終わって、学校が終わって、家路について
今日はまだ何も忘れてない。そうやって心の安定を保つ。夢はなるべく一緒にいてくれて、放課後も僕と過ごしてくれる。
「土曜日にでも遊園地に行かない?」
「あ~良いね僕らあんまりデートスポットには行ってないからね」
「だから行こ!」
「わかった。じゃあ土曜日に駅集合で」
土曜日になった。ピンクの蛍光ペンで印しつけられた手帳を確認して駅へと向かう。
「お待たせ」
「私も今来たところ」
「それ言うの本当は僕の方だったね」
「そうだよ、だから次は晴人がはやく来てね」
「わかった。次ね……」
電車に揺られて数駅。遊園地についた。入場券を購入して中へと入る。
「なんか久しぶりだな」
「晴人も?」
「体がそう言ってる」
「なにそれ変なの」
「それじゃあ何から乗る?」
「まずは~ジェットコースター」
「いきなりだね」
実はジェットコースター苦手で乗ったことがほとんど無い。でも夢の前で怖いって言うのは情けないし、気合入れて行きますか。
結果をいえば絶叫して喉が痛い。やっぱり苦手なままだったし、夢に凄い笑われた。その後も色んな乗り物に乗ってはしゃいでいたらいつの間にかもう暗く成っていた。
「時間が経つのははやいね~」
「楽しかったからな」
「最後はやっぱり観覧車に乗る?」
「そうだね。乗っていこう」
数分待って僕らの番が回ってくる。ずっと同じ速度で回り続ける観覧車に乗り込んでゆっくりと地上から離れていく。
「晴人ってジェットコースター苦手なのに観覧車は乗れるんだ」
「確かに何でだろう。はやくないからとか?」
「何で疑問形」
「でも、観覧車って1番記憶に残る気がするんだ。乗るときはいつも最後だからかもしれないけどこのゆっくりと最後の時間を終わらせていく感じが」
「わかるかも」
観覧車はいつの間にか1番上まで上がっていた。
外を覗けば月明かりと家々の明かりが夜の世界をつくっている。この瞬間が一生続けば良いのに
「ねぇ晴人」
「ん?どうしたの」
「キスしても良い」
言葉で答える変わりに夢を引き寄せてキスをした。伝わる熱と伝える熱きっとここが1番暖かい。離したくない。手放したくない。ずっとそばにいてほしい。ずっとそばにいてあげたい。高ぶる感情が涙に変わって閉じた目からこぼれる。
「晴人?」
「嬉しくて、悲しくて、やっぱり忘れたくないよ」
驚いた表情を見せた夢はすぐに優しい表情になって僕を抱き寄せて包みこんでくれる。けれども夢の瞳からも涙はこぼれていて、僕の頬に伝わる。
「私も忘れてほしくないよ……ずっとそばにいてほしいよ……」
2人の時間は観覧車が下がりきったときに強制的に終わりを迎えさせられた。
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