第2話 新しい友達

翌朝僕らは早速塔の下のベンチに集合した。

早朝の静かで澄み渡る様な空気は、この時期じゃ少し寒いけれど、気分が良い。

昨日僕はフレディに、太陽が昇る頃、塔の下のベンチで待ってると伝えたが、正直なところ、フレディが来る保証は無かった。それは他の皆も分かっているようで、ベンチに座りながらも仕切りにあの塔の上の小さな窓を振り返っている。


フレディを待つ時間は、随分と長く感じた。降りてくる気配は未だにない。

来ないかなと、肩を落とし始めていたその時、不意に塔の扉が開く音がした。

僕らはすっかり驚いて、危うく声を出しそうになったが、寸でのところで踏みとどまった。こんな所で声を出して、大人達に見つかったらとんでもないことになる。

開いた扉の向こうから、少年が現れる。昨日僕が塔の上で見た時と同じ、簡素な服装に長い金髪だけが美しく光り、ひょっとすると女の子と見紛うような姿。間違いない。フレディだった。

1つ昨日と違うのは、ちゃんと靴を履いているところだろうか。とは言え、その靴もかなり粗末なものだった。僕だってそんなに良い靴を履いている訳じゃないが、少なくともフレディの靴程粗末ではない。

しかし、そんな事はどうでも良かった。僕らがずっと会いたがっていた塔の上のあの子が、今目の前にいる。余計なことを考えている暇はない。

それより早く、大人達が起きる前に、城下町の外に出ないと。

僕は昨日約束したフードをフレディに渡して、 そして彼の手を掴んで城下町の外へ走った。



「ここまで来れば大丈夫さ」

城下町を抜けて、開けた平原に出る。平原には細い道が1本あるが、基本的には殆ど誰も通らない。だから、安心だ。

ふとフレディの方を振り返ると、随分と疲れた様子で息を切らしていた。さらりと綺麗な金髪が、少し乱れている。だが――気の所為だろうか、その髪質は、心做しか僕の髪とよく似ているような気がした。

僕の方がもう少し色が濃いし、僕の髪はフレディの髪よりずっと短い。だけれど――もし僕が髪を伸ばしたら、多分、フレディみたいな髪型になる。

そう思いながら、彼の方をぼうっと見ていると、ぜぇぜぇ言いながら下を向いていたフレディが、やっとこさこちらを向いて、勘弁してくれよ、もう何年も走ってなかったんだぞと少し不機嫌そうに言った。

よくよく考えてみたら、掴んだ彼の腕も、ズボンと靴の間から覗く白い足首も、どれもかなり細かったし、ずっと塔にいたのだから、走り慣れていないのも当たり前だった。

僕はごめんごめん、と言って、取り敢えず一旦休憩しようと、皆で輪になって座った。

それから、皆口々に気になることをフレディに聞いて行く。


最初こそ皆の質問に答えるのを渋っていた彼だったが、段々打ち解けていった。フレディは元々あの城の王子として育てられたこと、近寄って来るカラスや黒いアゲハチョウなどに触って遊んでいたら、どういう訳だが地下牢に入れられ、それでも飽き足らず塔に放り込まれたこと、塔に入ってから、カラスも黒いアゲハチョウも来なくなって何だか寂しくなったこと、それから、僕らに出会ったこと。僕らはそんなフレディの話をわくわくしながら聞いた。

まず、王子なんてお姫様の物語の中でしか聞いたことがなかったし、自分の元にカラスや黒いアゲハチョウが近寄ってくる事なんて1度もなかった。それどころかアイツらは、僕らが近付こうとした瞬間に逃げるし、それが大人達に見つかれば、魔女の呪いがうつるから、そんな不吉な生き物に触るなんて絶対に駄目だと叱るのである。


その日から毎日、僕らは決まった時間に塔までフレディを迎えに行き、空が暗くなるまで一緒に遊んだ。

フレディはその間、いろんな話をしてくれた。城での生活の話、地下牢の太っちょネズミの話、王様のつまみ食いの話、それから、塔の上から見る街の風景が美しい話――どれもまるで おとぎ話のような話ばかりで、僕らはすっかり夢中になっていた。男の僕らでさえこんなにわくわくするのだから、おとぎ話が大好きな女子達が聞いたら、きっと物凄く喜ぶに違いなかった。

親には友達の家に泊まって来ると嘘をついて、フレディと一緒に塔で1晩を明かしたりもした。最初は何かと突っかかるような態度のフレディだったが、次第にそれも、柔らかい態度に変わっていった。

だが、僕には1つ、どうしても気になることがあった。

それは、彼が時折、酷く辛そうな顔することだった。彼は僕ら程スポーツが得意じゃないようで、少し動いただけでもとても疲れたような顔をすることが多かった。だが、それとは別に、体を動かして疲れた時とは明らかに違う、何か物凄く苦しそうな顔をする時がある。

さり気ない動作ではあるが、そう言う時には決まって心臓の付近を抑えていた。

けれどそう言う格好をするのは飽くまで一瞬だったから、多分、僕らには見られたくなくて、隠しているつもりなのだろう。

だから僕も、何も言わなかった。

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孤高の塔と"魔女"の呪い みやび @natuyu_tan

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