第10話 訓練 2229年5月


入隊式から一月が経過した。この一ヶ月間はひたすら基礎的な訓練が行われていた。筋力、体力トレーニング、射撃、格闘訓練、戦場での意思疎通方法などなどだ。そして俺たちは次のステージへ移行しようとしていた。




カール教官が俺たちの前に立つ。隣には謎の白いスーツが置いてある。


「これから君たちには新たな訓練に入ってもらう。ここから先は死人が出ることもあるだろう。指示にはしっかりと従い、安全には細心の注意を払うように……これから君たちにはこのスーツの使い方を学んでもらう。これは『純エネルギー式汎用機動スーツ』通称『パーシアス・ギア』だ。殊に対カタグリフ戦において最重要となるものだ。これは……」


つまり要約すると、カタグリフは人間より圧倒的に身体能力が高いので、そこのハンディキャップを補うために開発されたスーツなのだそうだ。具体的には地上から数十メートルほどの高さまで上昇し。自由に空間機動だ出来る。




訓練用のパーシアスを支給された俺たちは始めにその場で浮遊、静止するという課題が渡された。これがまた難しかった。地面からの支えがないせいかバランスを取るのが難しい。浮遊するのは一メートル程度だがそれでも恐怖感がある。


「あぁいぃってぇぇ!!」


同じ班のテオが真っ直ぐに浮遊できず、ひっくり返って頭を打ったようだ。同じような目にあっているやつが他にもたくさんいる。幸い俺はなんとか浮遊には成功しているが未だ真っ直ぐに静止できずにいる。テリスと夜風もなんとか浮いているようだった。


「あははは!お前今の転び方はヤバいわ!!」


「うるさいな!テオだって似たようなもんだろ!」


テオとボーデンがしょうもないことで競い合っている。どちらかというとテオの方が無様だ。


「征魁、お前よくできるよなあ。俺たちはまともに浮くこともできねーよぉ。レイのやつはどんな調子だろうな?いつもすかしてる分ひっくり返ってたら思いっきり笑ってやろうぜ……っ!?」


テオが驚いた顔をしたので俺とボーデンもレイハンの方を見る。


「マジかよ……」


「あれはすごいな」


なんとそこには空中でピタッと静止しているレイハンの姿があった。余裕の表情すらしているように見える。カール教官も感心しているような様子だ。テオが不満そうな声をもらす。


「なんだよあいつなんかムカつくなぁ。おーい、セイヤたちはどうだ?」


少し離れていたところで同じくホバリングの練習をしていた同じ班メンバーのカリンとミカ、誠也せいやがこちらを向く。


「ん〜だめ。後もう少しな気がするんだけど……」


「私はなんとかって感じ」


「俺は怖くて飛べてもいないよぉ」


皆、出来はまちまちといったようだ。


「そっかそっか」


テオはなぜか嬉しそうだった。そして思いついたように言う。


「おい、皆でレイにコツでも教えてもらいに行こうぜ!」


その後俺たちはレイハンにコツか何かを教えてくれと頼んだが「めんどくさい」の一言で漏れなく全員断られてしまった。凌雅は一人「くっ、こんなはずではっ!?」とか言いながらひっくり返っていた。




訓練が終わったあと俺はテリスと夜風に会いに行った。


「さっきの訓練どうだった?」


「しんどかったよぉ〜」


夜風が疲れたように言う。


「そう?けっこう面白かったじゃん!」


逆にテリスは少し物足りなそうだ。


「そうだ!シュタレホンって奴、お前のルームメイトだろ?凄かったな!」


「あ!私も見た!」


どうやらレイハンのことは他の部屋でも話題になっているようだ。


「あーあいつか、実は俺も意外に思ってたんだよね」


いつもめんどくさそう手を抜いているレイハンの実力は全く不明だった。今回その一端を目の当たりにしたように感じる。


「頼んだら教えてくれるかしら?」


夜風そんなことを言い出すので俺はやめておけと言っておく。


「あいつ面倒臭がりだから辞めとき、ルームメイトの俺らも断られたよ」


「えーそっか、残念」


テリスが言った。お前もか。


「じゃあまた後でな!」


二人と別れ、俺は次の訓練場へ向かった。




ここでは訓練の他に座学も行われている。座学ではカタグリフについて現在判明している事柄を学ぶことになっている。分布や行動、習慣、身体構造など叩き込まれることになる。


教室で教官が話す。


「奴らがいったい今までどこにいたのかは判明していない。突然降って湧いたように現れたからだ。やつらの行動パターンなどは次第に分かってきているがその起源は未だ以て不明のままだ。」


現在もっとも多く数が確認されているのは亜人系カタグリフらしい。特に物語に出てくるようなゴブリンやオークが多いだとか。6年前街に現れたのも確かにそんな見た目のがほとんどだったように思う。見た目は恐ろしいものが殆どだが所詮命ある生き物らしい。大抵のカタグリフは心臓、脳などを損傷することで即死することが確認されている。しかしそういった常識が全てに通用するのかは疑問である。




教室を出るとメールが届いていることに気づいた。テリスが一緒にご飯を食べようとのこと。俺は食堂に向かうことにした。




「よお、テリス」


「あ、やっと来たか」


テリスが席をとっておいてくれていた。席に着くと早速食事を始める。


「ネットってやっぱ便利だな」


しばらく食べていると、テリスが視界に表示されているであろうホログラムをいじりながらそんなことを言い始めた。


「なんだよ急に」


「いや、一昨年まで全く使えなくなってたじゃん?やっぱ便利だなぁと今、身をもって感じたのさ。ネット使えなかったら、部屋も班も違う征魁と連絡とって一緒に夕食なんて無理だからな」


「そうだな、迷惑なカタグリフが居たもんだ」


「やっぱAEMPシステム様様だな」


「そういえば海外とは未だに連絡取れないのか?」


「そうらしいよ。なんたって日本海にはC5、空はC3以上がうじゃうじゃいるんだぜ?まぁ無理だよな」


「C5っていつになったら倒せるの?」


「倒せないからC5なんだろ?」


「そんなこと言ってる場合じゃ無いだろ」


「僕に言うなよ」


「それは言えてる」


二人で少し笑う。


すると同期と思われる4人組が近づいてきた。その内のガタイのいい坊主頭が声をかけてくる。


「よぉ、テリス!そっちは友達か?」


「そうだよ。僕の幼馴染だ」


とりあえず挨拶しておく。


「征魁だ。よろしく。テリスのルームメイト?」


「そうだ。俺はラインハルト。で、こいつらは俺と同じ班のメンバーだ」


坊主頭、改めラインハルトの後ろに居た3人も自己紹介してくる。長い金髪を後ろで結んでいる長身のヨーロッパ系女子が真依まい。同じく女子で黒髪をショートにしているのがミアというらしい。で、もう一人いたちょっとチャラい系の男がシンと言う名前だ。


「それじゃ、俺らも飯食ってくるわ」


ちょっとした世話話をするとそう言って4人は去っていった。


「頼りがいのありそうなヤツだな」


そういうとテリスが同調する。


「そうなんだよ。体力も馬鹿みたいにあるヤツでさ?班員の中には『アニキ』って呼んでる奴もいるくらいだ」


「ほーそれはまた凄いな」




テリスと夕食を食べ、部屋に戻るとレイハンとテオが珍しく二人で何かをしていた。テオが頭を悩ませている様子だ。するとちょうどボーデンも帰ってきた。ボーデンは面白そうに口を挟む。


「おぉーチェスか?あとで僕にもやらせてくれよ」


「なんだチェスって?これは将棋だぞ」


そう言うとテオが一つ駒を進めた。


「え?あぁ将棋か」


ボーデンが首を傾げながら言う。さっきまでテオの一手に即答していたレイハンは手を止めた。


「そういえば北欧の方にチェスってゲームがあるって聞いたことがある」


レイハンがそんなことを言い始める。そしてコマを進める。


「へえ〜チェスね」


テオがそれ所ではないと言うようにテキトーな返事をする。


その後、凌雅が最後に帰ってきた。凌雅が二人の将棋をみて馬鹿にするも、後でレイハンにコテンパンにされたようだった。その間俺はボーデンと駄弁っていた。




まあこんな調子で半年が過ぎていった。そして俺たちは訓練期最後の訓練に臨む。


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