庭のくま

@kumakuma0801

第1話

桜の花が散って、木が緑色に変わってきたころ、その子はやってきた。

初めは目を疑った。

だってあまりにも自然にそこにいるから。

なにやらこっちを見ているようだ。

陽が差し込んで薄いブラウンの瞳がきらきらと不思議な光を放っている。

首元にはうすいピンクのリボンが綺麗に蝶々結びされており、まるでぬいぐるみのようにちょこんと腰掛けて子グマがそこに座っていた。

しばらく見つめ合ったあど、僕はその子ぐまに手を伸ばした。

子ぐまはまだ動かない。

少しの恐怖はあったものの、あまりの愛くるしさに手を伸ばさずにはいられなかった。

太陽に照らされて輝いて見えるブラウンの毛先に指先が少し触れる。

まるで、干したてのお布団のようなやさしい温かさを感じた。

しあわせの温度ってこのくらいなのかなって考えながら目を閉じた。お腹のあたりに温かなものが溜まっていくような気がした。

優しく目を開けるとそこにはもう子グマはいなかった。

でも驚きはなかった。

なんとなくそんな気がしたから。


こんなに天気がいいからどこかに行こうかな。

街の様子はどんなふうに変わっているのだろう。

まだ、あのおいしい苺大福の和菓子屋さんはあるのだろうか。

手を繋いで連れられて歩いた夕暮れの商店街。

あの手の温かさ。

変わらないな。


うん、

もう大丈夫。

ちゃんと生きていけるよ。

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