虹色のユニコーンがお受験するアイマスクはきっと押し花の匂い

ちびまるフォイ

大多数が見ている世界が真実

やっとたどり着いた町もすでに荒廃していた。


「ここも復興してないのか……」


すると、町に入ってきたのを見つけた人が

いやにハイテンションで話しかけてきた。


「やぁこんにちは! 見慣れない顔ですね!

 あなたもこの町で最高にハッピーになりにきたんですね!?」


「あ、いえ……終末戦争のあとで地元に住めなくなって。

 ここは復興していると噂を聞いてきたんですが……」


「なるほど! この町はすでに復興どころか

 終末戦争以前よりもさらに豊かになってますよ!!」


「そうは見えませんが」


「そのように見ようとしてないからですよ! はっはっは!」


町のあちこちはガレキの山で、壊れた水道から水が吹き出している。

荒れ果てた町にも関わらず住んでいる人々は幸せそうにしていた。


「……あの、あっちの人は壁に話しかけてますよ」


「あなたには見えないんですか」

「ゆ、幽霊とかはちょっと……」


「幽霊じゃありませんょ。もう一つの世界です。

 ああ、そうか。外の世界の人だからまだトリップできてないんですね」


「ちょっ……なにを!?」


いきなり口にホースを突っ込まれ中からガスが噴射してきた。

目の前がチカチカしたあと、妙な浮遊感に体がつつまれた。


「ふわぁ……なんだこれぇ……」


「いい気分でしょう? この町ではこのガスが町のあちこちで出ている。

 この町にいる限りみんなハッピーな幻覚の中にいられるんですよ」


「そうですねぇ。ふふ、あははは……」


終末戦争後に晴れることを失った灰色の空は、

パステルカラーになってユニコーンが飛んでいる。


ついさっきまでガレキの山だった風景は一変して、

お菓子の家が立ち並ぶ夢のある町並みになっていた。


頭がつねにボーッとして深いことは考えられなくなり、

毎日が楽しくてハッピーな気分になった。


町の暮らしに慣れると友達も多くできた。


「あはは。こんにちはーー」


相手から返事はない。でも口は動いている。


「はれぇ? なんで声が聞こえないんだろう」


相手はニコニコしながら喋り続けている。


「ああ、そうかぁ。この人は幻覚なんだぁ」


自分が現実と幻覚の2つの世界を重ねていることに自覚はある。

でもそのどちらなのか区別することはできない。


「こんにちはぁ~~。あははは」


「コンニチハ」


「あ、おヒゲのちょうちょさんが挨拶してくれたぁ。

 これは幻覚じゃないんだぁ。うふふふ」


実在するのかどうかは声をかけて返事があるかないかでわかる。

この町に来るまでは内気な自分も積極的になれた。


この町では恥ずかしいとかを感じられる感覚も薄らいでいく。


「今日は何して遊ぼうかなぁ。

 太陽を捕まえてお洋服を作ったらおへそがケンカしちゃいそう~~♪」


スキップしていたそのとき、何かに足を取られて思い切り転んでしまった。

倒れた拍子に地面から突き出ていた鉄骨が脇腹を貫通する。


「痛ったぁあぁぁ!!!」


急所こそ免れたが体全体に稲光のような痛みが流れた。

あまりの痛さにゆるふわだった世界は一気に現実へと引き戻される。


足を取られたのは地面に転がっている死体。

ガスで空腹すらも感じられないまま餓死したのだろう。


なんとか鉄骨を体が引き抜いたが、激痛とともに出血は止まらない。


「だれか! だれか助けてくれーー!」


すぐに町の人がかけつけてきた。


「どうしたんですか? おひとりですか?

 それならよかった。私達はこれから温泉の宝くじを作りにアリの巣へ行くところです。よければ一緒に……」


「それどころじゃないんですよ! 病院に! 病院に連れて行ってください!」


「どうしてですか?」


「どうしてって見ればわかるでしょ! 怪我してるんですよ!」


「それは大変。すぐにお医者さんを呼びますね」


連れてきたのは野生化していたヤギだった。


「お医者さんを連れてきましたよ。

 この人の体から出ているりんごジュースを止めてさしあげて」


「メェ~~」


「バカやってないで助けてくださいよ! ごふっ!!」


ついに口から血が吹き出る危険な状態。

なのに町の人達はニコニコしながら集まるばかりで治療してくれない。


「わぁすごい。この人口から虹が出せるんだぁ」


「ちくしょう! どいつもこいつもアテにならない!!」


傷口からはとめどなく血が流れ続けている。

あまりの痛みに限界を迎える。


「もう治療はいいから、あの幻覚ガスをもってきてくれ!

 せめてこの傷のことを忘れたい!!」


「幻覚ガス? なんのことですか?

 町にあるのはハッピー空気清浄機だけですよ」


「名前なんてどうでもいい! 早くしてくれ!

 痛みで今にも気を失いそうだ!」


それは大変とばかりに町の人は幻覚ガスのホースを取りにいった。

ホースの先端をもってくると、口へと突っ込んだ。


「さぁ、これでまたハッピーになれますよ」







「あれ? もしもーーし? どうしたんですかぁ?

 お口は動いているのに声が聞こえませんよぉ」


ホースを突っ込まれたままの体は力なくただガスを受け止めていた。



「なぁんだ、声が聞こえないってことは幻覚だったのかぁ。

 まったくもう、人騒がせな幻覚だなぁ。あはははははは♪」

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