【2011年 実写化映画】ノワール作品としての映画「太陽」。

『郷倉』


 まとまっていると思います。

 というか、とんでもない作品を紹介してくださいましたね。僕は倉木さんの紹介で、すでに「いまを生きる」のキャプテンが大好きです。


 倉木さんから青春小説を書く際の映画紹介として、素晴しい一本を選んでいただけたので、僕はほとんどしなくて良いかな? とも思うんですが、せっかくなので何か書きます。

 

 青春って、というか映画(とくに上映されるもの)って、何か起きなければならない、という先入観があると思うんです。

 エンターテイメントでなければならない、という強迫観念みたいなものですかね。


 けど、実際のモラトリアム、青春時代を過ごしている人、過ごした人たち全員が、映画になるような体験ってしていないと思うんです。

 青春映画って、あるいは青春物語って、今この瞬間を過ごす君たちの為の物語だ、みたいな当事者性を押してくることってあるんですが、いやいや僕たちの日常に堀北真希や橋本環奈みたいな美少女はいないし、山﨑賢人や佐藤健みたいな王子様もいない。

 というか、いても話しかけられないし、仲良くなることだってない。


 現実を生きる僕たちの日常なんて、それくらい地味なものなんですよね。だから、ドラマティックで哲学的な思慮深い名作な青春映画を見る度に、現実との距離を感じて切なくなったりするんですよね。

 高校生くらいの僕って青春映画とか、同世代が頑張っている話ってあんまり惹かれなかったのを覚えています。何をどんなに頑張っても僕は家を出る以外に幸せになれる方法が思い浮かばなかったから。


 頑張れば報われるってことも、この世界では起るのだろう。

 けれど、それは僕とは別の世界だ。

 そんな捻くれた考えを抱えて高校生の僕は生きてました。


 そんな捻くれた過去の僕に勧めるなら、ノワール作品になるんだと思います。

 その定義にもっとも近かったのは、入江悠監督が「ビジランテ」に関するインタビューの際のものなので、引用させてください。


 ――僕が10代の頃、生きることの残酷さや、主人公が報われることのない現実を描いた作品に救われるものがあったんです。自分の苦しさを映画が引き受けてくれているような気がして。

 

 (中略)

 

 お客さんにどう受け取っていただけるかは分かりませんが、この映画が誰かの救いになれば嬉しいです。


 当時の僕は母や弟が呆れるくらいドラマの「白夜行」を見ていたんですよね。今思えば、僕は「白夜行」の主人公、桐原亮司に自分の苦しさを引き受けてもらおうとしていたんだと思うんです。

 そういう風に自分の辛いものを引き受けてくれる、って言う作品も青春映画の側面にはあります。


 ということで勧める映画としては、入江悠監督の「太陽」です。あらすじを調べると、コロナウィルスが蔓延している今だからこそ、見るべき作品とも言えるかも知れません。


 ――21世紀初頭、ウイルスによる人口激減から、なんとか生き残った人類は、心身ともに進化しながらも太陽の光に弱くなり夜しか生きられなくなった新人類「ノスク」と、ノスクに管理されながら貧しく生きる旧人類「キュリオ」という2つの階層に分かれて生活していた。


 この、あらすじでどこに青春感があるのか、また、どのような参考になるのか。その辺は、ご自分で確認いただきたいと思いますが、一人の人間が達成しうる範囲なんて、結局はこんなもんなんだ、という絶望の後の清々しさを感じていただければ幸いです。


『倉木』


 なんか、あらすじから見た記憶があるので、You Tubeで予告を確認してきました。

 予告の最後らへんで、道なき道を進むボロい車を見て、オチを思い出しました。

 鑑賞後、僕は北野映画のキッズ・リターンのラストの名言を思い出したかな。その名言とは、ご存知の方も多いでしょうが、以下の通り。


「俺たちもう終わっちゃったのかな?」

「バカ野郎まだはじまっちゃいねぇよ」


 なるほどな。郷倉くんの言うところの「絶望のあとの清々しさ」という言語化は納得かもしれん。


 てか、いまさらですが、青春小説を描くならば、「キッズ・リターン」も観てほしいな。

 郷倉くんに、Vシネマ大好き認定をされた(?)倉木ですが、極道映画のアウトレイジよりも、キッズ・リターンのほうが北野映画で好きっす。


 そして「太陽」の話に戻りますが、本作はウィルスが蔓延したあとの世界の一つを描いた物語です。だからこそ、コロナのいまってことやね。

 作中に登場する新人類「ノスク」と、旧人類「キュリオ」の二つの階層。戦争に勝った側と負けた側に通じるものがあると、僕は鑑賞中に感じたような気がする。ちょい、記憶が曖昧やけど。

 いまの時事に当てはめるならば、コロナウィルスという戦争に勝った国と、負けた国。勝った国は、負けた国を植民地化している、と。


 まぁ、そこまで難しく考えなくても、都会と田舎の話として語れそうな物語やったよな。

 個人的に、その田舎っぽさが、本当の田舎をバカにした感じがあって、ちょい苦手やったのも思い出したぞ。

 マジで人が少ない集落の人間は、季節と共に色んなことをして生活しているからな。作中のジジイみたいに元気があるんなら、もっと自分らの生活のために仕事してるわ。

 ああ。そうか。大人があんなんだから、キュリオの子ども達も、あんな風に育ったわけか。

 決定権は大人にあり、子供は巻き込まれる。それもまた、青春。


 近未来SFと邦画のかけ算が好きな方にも観てもらいたいね。


『郷倉』


 倉木さんの感想を踏まえると僕がオススメしたかった理由が少しズレてしまうことに気づきました。

 これは間違いなく、僕の言葉足らずな部分が多々あったからです。本当に申し訳ありません。

 他の作品ならスルーするのですが、「太陽」に関してだけは下方修正させてください。


「太陽」は青春映画のような側面があることは確かです。しかし、「太陽」は「いわゆるヒーローやヒロインが不在であるにも関わらず、SFであり、青春ドラマであり、ラブストーリーであり、究極の家族の物語として成立させている、まごうことなき傑作な」んですね(https://realsound.jp/movie/2016/04/post-1491.html参照)。


「太陽」という映画そのものが、とても多面的な作品なんです。その上で、僕は「生きることの残酷さや、主人公が報われることのない現実を描いた作品」で、「自分の苦しさを映画が引き受けてくれ」るノワール作品として、「太陽」を挙げました。


 その際に簡単なあらすじだけで、あとは自分で見て確認してください、と書いたのは、倉木さんが「いまを生きる」のような大衆が広く感動するような名作を紹介してくれたからこそ、その名作に背を向けた人に手を差し伸べるような力が、ノワール作品としての「太陽」にあると思ったからなんです。


 倉木さんは「都会と田舎の話として語れそう」と書かれていましたが、重要なのは語れそうだけれど、語れない点なんです。

「太陽」はどこまで行ってもSF作品で、SFとは現実にはない仮定の設定で語られるので、現実と虚構の丁度真ん中に置かれ続け、昇華されないものなんですよね。


 都会と田舎の話として「太陽」を語ろうとしても語れませんし、語る意味がありません。そういう答えを出してしまうと意味がなくなってしまう映画なんですよね。

 ここで描かれているのは、「運命の歯車が動き出したら、もう周りが何を言っても止まらない(入江悠談)」時、人はどう動くのか、という人間の根底にある普遍的な恐れだったり、混乱なんです。

 それは青春物語として定義するのは無理があったな、と思います。申し訳ありません。

 ただ、ノワール作品として、人間の根底にある普遍的なもの(苦しみ)から、私/僕を救ってくれる物語ではあるんです。


 究極の話をすれば、入江悠の「太陽」や「ビジランテ」をエンタメの枠組みで語ろうとすると、結論は面白さが分からない、なんです。だって「いわゆるヒーローやヒロインが不在」な物語なんですから。


 とはいえ、入江悠がエンタメを分かっていないかと言えば、そんな訳はなくて、「日々ロック」や「ギャングース」は良質なエンターテイメント作品ですし、今ドラマをやっている「ネメシス」なんてポップで軽快なノリが楽しい十代も見れる傑作です。


 入江悠はあえて、人を楽しませる物語のルールから背を向けて、届く人だけに届けばいいタイプのノワール映画を撮っていたんだと思うんです。

 だから、映画を紹介する対談の中で、致命的なことを言いますが「太陽」を見ても、楽しいとか面白いと思うことは殆どありません。

 ただ、楽しいとか面白いと感じない映画だから、見なくて良い作品となる訳ではありません。不快になって、もう止めてくれ、とのたうち回って、キャラクターに憤りを覚えたとしても、見るべき映画というのがあります。

 その一つが「太陽」です。


 青春というジャンルを考える時、例えばポンコツ探偵の櫻井翔と優秀な助手の広瀬すずみたいなエンタメ作品(ネメシス)であっても、その根底にはノワール的な、一筋縄でいかないものが含まれていてほしい、と僕は思うんです。

 そして、その一筋縄でいかないものを作品の中に忍ばせる為には、「太陽」のような映画を見たり、あるいは古今東西の文学作品なんかを読む他ないと思って、今回は少々場違いな作品を紹介させていただきました。

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