【2011年 実写化映画】奇跡のようなタイミングでうまれた映画。

『郷倉』


 さて、そろそろ2011年をまとめましょう。

 倉木さんのお話も伺った上で、重要になりそうだなと思ったのは「岳」でした。


「岳」はまさにプロフェッショナルに長澤まさみがなる話で、プロになる為の失敗が丁寧に描かれていました。

 ただ、手放しで最高と言えないのは、山の素晴らしさを映像では描いているけれど、エピソードとしては語っておらず、また山を使ったエンターテイメントにする必要があった為に、プロらしからぬ危険行動を容認してしまっている箇所が散見される点でした。


 なので、小栗旬が大人役を演じたこと、そして、「世界の中心で、愛をさけぶ」や「タッチ」といったヒロインを見事に演じ、守られる女性像として認知されていた長澤まさみを男社会に放り込み、挫折させ、悪態をつかせながら成長させる過程を描いた「岳」は小栗旬、長澤まさみにとって新たなイメージ獲得の挑戦となった一本だと思います。


 が、2021年から振り返るなら、弱い立場の人間がひたすらに食い物にされる姿を恋愛というフィルターを通して描ききった「モテキ」をやはり僕は推したいです。


『倉木』


 岳は、面白いけど、個人的には無人島に持っていきたい映画ではないんよね。

 長澤まさみの魅力が出てるのも、モテキのほうやしな。


『郷倉』


 無人島に持っていきたい映画のベスト3はぜひ、この連載の中のどこかで発表していただきたいですね。


 モテキも長澤まさみですね。

 公開の順番としては岳が2011年5月7日、モテキが2011年9月23日となっています。


 ちなみに、インタビューに載っていたことですが、モテキで長澤まさみが演じた松尾みゆきは映画の監督の大根仁いわく「すごくビッチな役」だったそうです。

 ただ、決定稿ができる前に長澤まさみ自身が抱えているものを役に投影したい、と提案され「本当は自分に自信がない」ことを長澤まさみが伝え、モテキの松尾みゆきが出来上がったようです。


 その為、松尾みゆきは「すごくビッチ」な女の子ではなく、「自分に自信がない」が故に、男性との関係の中で自己肯定感を保とうとする女の子になったのだと思います。


 個人的に松尾みゆきは奥行のあるリアルなキャラクター造形になっており、感情の揺れ動きも細かな部分まで描かれていました。

 とくにラストのフェスで彼氏と藤本幸世(森山未來)を前にした瞬間の松尾みゆきの混乱からの、逃走は実に滑らかでした。


 モテキを見る際は、どうしても藤本幸世(森山未來)視点で見てしまうのですが、中盤から松尾みゆきが抱えているもの、感情の揺れを把握しておくと、ラストそりゃあ、二人から逃げるわってなります。

 地獄めぐり的に言えば、松尾みゆきがはじめて地獄から逃げ出した瞬間が、ラストです。


 漫画の実写映画という枠組みの中で、モテキが異質なのは、映画オリジナルであること、そして、長澤まさみ自身が当時、抱えていたものが投影されている映画という点で、僕は2021年から振り返っても重要な作品だと考えていますし、今回の企画の全体をも渡してもモテキが「無人島に持っていきたい漫画の実写映画」ベスト3には入ってくる作品になっています。


『倉木』


 個人的に、すごくビッチな女の子という枠組みに入れられるような、ステレオタイプな人物にならなくて、良かったと思う。


 万人受けの映画になればなるほど、ステレオタイプのほうが受け入れやすくなる。それは、万人に向けてるから、そうなるよねって当たり前のことやけど、同時にそれは物足りなさを生む要因になってるんちゃうかな。


 ステレオタイプからの脱却として、長澤まさみという役者自身の投影というのを作品にいかしたのは大きい。

 つまり、それってヒロインがどんな女優が演じても、いいわけではないってことやろ。


 とある役者が、この演技しかできない、こういうイメージだから脚本を変えるのとは訳がちがうってのも重要な点やね。


 小説として、一人で名作をつくる訳ではなく、映像化にあたって本当に動いて命を吹き込む立場の女優が、自身の問題と向き合える作品ってのも貴重や。その問題や課題ってのは、ほとんどの場合、時間とともに形を変えていくのでしょう。

 だから、当時の瞬間だからこそ、奇跡のようなタイミングでうまれたからモテキは振り返ってみても、重要な作品なのでしょうね。


 ただ、漫画原作という枠組みでは卑怯だか異質だかの部分があるので、そことのバランスから名作映画が次の年以降にはないかなってのも気になるところです。


『郷倉』


 確かにモテキは現実から見ると、いるいる、こういう人ってなる人物造形のキャラクターが多いんですが、物語的なステレオタイプは森山未來が演じた藤本幸世くらいだったかも知れません。


 奇跡のようなタイミングで生まれた、というのは、おっしゃる通りなんだと思います。


 モテキは長澤まさみが差し掛かっている悩みを含んで、また、その当時に流行っていたカルチャーを取り込んだ映画で、あの瞬間にしか撮れないものが詰まっています。


 漫画原作という枠組みからみると、異質な為、次の年にある「るろうに剣心」とかとは、少し別けて考える必要があるように思えます。


 ただ、漫画原作の枠組みでモテキだけが浮いているのではなく、この時代性を反映させて、奇跡のようなタイミングで生みだされた漫画原作の映画は他にもあります。


 2013年で言えば、「すーちゃん まいちゃん さわ子さん」で震災から二年後という時代性を掴んで作られた傑作ですし、「海街diary」はテン年代が凝縮されたような傑作ですが、それはその時に語りたいと思います。


 まとめとしては、僕は言いたいことは言った感じがありますが、倉木さんの方はいかがでしょうか?


『倉木』


 編集後にもの足りんかったら喋るんで、いまは満足です。



“編集後記”


 【郷倉】 実は「ツレがうつになりまして。」という映画が2011年で、語ろうと思っていたんですが、今回はカットしました。また別の機会に語れればと思います。


 【倉木】 本年の紹介した映画は、ホテルのビデオ・オン・デマンドで観た作品がいくつかありました。当時、むちゃくちゃ便利やんと思ったので、Netflixとアマプラを利用する現状は必然だったのかもしれない。


“紹介した映画一覧”


・GANTZ 監督:佐藤信介


・GANTZ PERFECT ANSER 監督:佐藤信介


・スマグラー おまえの未来を運べ 監督:石井克人


・モテキ 監督:大根仁


・岳-ガク- 監督:片山修


・ワイルド7 監督:羽住英一郎


・カイジ2~人生奪回ゲーム~ 監督:佐藤東弥


・いまを生きる 監督:ピーター・ウィアー


・太陽 監督:入江悠

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