第16話 「勘弁して」



「そういえばさ。…………さっきの話聞いて思ったけど、涼太くんってマザコンなの?」


「は?」


 二人は一息ついたあと涼太の奢りによって缶の蓋を開けていた。先程の話が終わったあと、涼太は慌ててペンチを立ち、トイレ等の理由を付けたついでに飲み物も買いに走った。

 10分後。

 先程の会話の勢いが収まるには良いタイミングだと考えた涼太は、そうして今に至る。

 ────だが。動揺の勢いや余り、思わず強く缶を開けてしまい、軽く飲み物が吹き出す。

 涼太はいちごみるくの缶、玲菜はブラックコーヒーの缶をチョイス。玲菜は小銭を飲み物を奢ってもらった涼太に渡そうとするが、手振りでそれを彼は拒否する。


「これありがと、涼太くん。え、お金いいの?」


「………………お、おぅ。いや、こんくらい別にバイトしてっからいいけどよ」


 それよりも先程の発言。涼太としては恣意しいが気になって仕方がない。ちょっと待て。誰がマザコンだと?


「待て待て。ていうかサラッと流すな。誰がマザコンだ」


「えっ……………違うの?」


「えっ?」


「えっ?」


「………………………………えっ?」


 …………。何故お互いに「えっ?」を交互にキャッチボールする。要らんわこんなボール。

 ボールがもし仮に目に見えるとする。

 それならば今すぐにでも、あの河川の向こうへどこぞの野球選手もビックリな速度でぶん投げてやりたいところだ。そんな衝動に少年は駆られる。

 

「誰がマザコンだ!!?」


「えっ!? だって、えっ!?」


「ええっっ!?」


「いやそんな「えっ!?」を連発するのやめてもろて!?」


「違うの!?!?!?!?!?」


「えっそんな驚く? そんな驚いちゃう? え?」


「だって男はみんなマザコンでしょ!?」


「いや風評被害ッッ!!」


 風評被害甚だしい。誰しもが当てはまるとは限らないだろう。

 確かに? 確かによく言うそれは世間においては当てはまるのかもしれないが、少なくとも俺はそんな絵に書いたようなマザコンではない。

 のん、マザーコンプレックス。

 そのはずだ。涼太は何度か自問自答した結果、全てにおいてその回答に至る。


「ていうかさっきの話聞いててマザコンだなーって思わない女子なんて居ないよ?」


「いやどこのどの部分を聞き損じたら貴方そうなるの!? やめて!? 俺のライフはもうゼロよ!?」


「いやぁ正直な感想だよマザコンさん♡」


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!」


 れいなのこうげき! かいしんのいちげき!

 りょうたのせいしんに10まんのダメージをあたえた! りょうたは(せいしんてきに)しんでしまった!

 さながらどこかの王道RPGのターンバトルの様なコマンドが脳内を右から左へと駆け抜けては消えてゆく。そしてお馴染みの戦闘時に行動不能になってしまったBGMもセットで頭の中で流れている。


「いや死ぬかぁぁっ!!! 死んでたまるかぁ!!」


「勝手にアナウンスを流すな玲菜あぁぁぁ!!」


「やーいマーザコンマーザコン♡♡」


「いちいち語尾にハートつけんな鬱陶しい!!!」


 ─────閑話、休題。もう、勘弁して。内心、そう叫ばずにはいられなかった。

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