第36話 最終話
最終話
「田 中 花 っと……」
僕は彼女の名前を記入した。
いつもの様に何気ない放課後をいつもの様に二人きりで過ごす。空気は入れ替わりキリっとした風が半分開けた窓から侵入し彼女の髪を揺らす。
季節はめぐり秋に移ろい、学祭のシーズンになった。毎年3年A組が担当する、『ミス旭第一』の投票用紙に花さんの名前を書く。投票用紙は毎年全校生徒に配られるのだけれど、記入するかどうかは自由で、僕は今まで誰にも投票はしなかった。
今年初めての投票は勿論、僕の恋人で。
「今年も麗華さんっすかね」と隣の席の花さんが言う。
「どうかな、僕の中では花さんしかいないけどね」と言うと赤くなって目を逸らした。
「中西くーん、田中さーん」と言う声と共に野口さんとパンダちゃんが教室に入って来た。彼女らとはあの一件以来、こうして薄い関係を続けている。
「もう投票用紙書いた?」
「え? 書いたけどなんで?」
「私達が実行委員なんだよ」
あ、そうか、彼女達はA組だったな。
「良かったら預かるよ」
「え? 中身見ない?」
「見ないけど、二人が誰を推したかなんて分かるじゃん」と野口さんがケタケタと笑って言う。
「因みに、私も飛鳥も中西君の名前書いたからね」とニヤッとして言うと花さんがピクっとした。
「あ、田中さん、心配しなくていいの。これはあくまでイケメン投票であって、誰が好きかの投票じゃないんだから、ね!」と花さんを安心させるように言う。
「それは、そうっすけど……」と花さんが肩を落とすと、
「やきもち焼いてるんだ?」と野口さんがからかう様に言うとコクリと頷いた。
「ふふふ、まだ全部集計終わってないけど、結構田中さんにも票入ってるよ」と今度は僕がピクっとしてしまう。
「あ! 中西君、今ちょっと焦ってる」
「そ、そりゃあね……」
「心配しなくても、中西君と田中さんが付き合ってる事はもう殆ど知れ渡ってるし大丈夫だよ」
そう言うと、彼女達は僕たちの投票用紙を受け取って去って行った。その姿を見送った後、花さんは申し訳無さそうに切り出した。
「あ、あの……ごめんなさい……」
「どうしたの?」
「私、白紙投票にしました」
「え? そうなんだ。まあ別にいいけど」
「あなたが人気者になると嫌なんすよ。目立って欲しくないんすよ……大好きなんすよ……」
「うん」
別に心配しなくても、僕が人気者になる事なんてないんだけど。まあ、そうやって心配してくれるのも悪い気はしない。
「僕は靡かないし、揺るがないよ。ずっと花さんの側にいるから」と言って彼女の手を握る。
「私、あなたが、大好きなんですよ……」
「うん、解ってるよ。僕も大好きだよ……」 ずっとね……
そう言って僕は、もう何回目になるか分からない口づけをした。
花さん。偏屈な僕だけれど、好きになってくれてありがとう。僕はずっと君だけを見つめて想っていくから傍にいさせてね。
花さん。メンドクサイ僕だけれど、ずっと君を守って行くから見捨てないでね。僕が再び道に迷ったら導いて欲しい。僕はずっと君に付いて行くから。
花さん。君に出会えた事は、僕の一番の幸せで奇跡なんだ。君に恋をして本当に良かったよ。
花さん。僕はずっと君を愛して行くから……
花さん…………大好きだよ……
◇
「星ちゃん、早く投票結果見に行こう!」
「そうだね!」
私は星ちゃんの手を取って投票結果が張り出されている掲示板に向かった。
「やっぱり女子の部は九条先輩かなあ」
「1位は堅いだろうね」
「去年は1位が九条先輩で2位は望月先輩だったってお兄ちゃんが言ってたよ」
「ああ、望月先輩も綺麗だよねー」
「あの二人、1年生の時からワンツーだったんだって。知名度の無い1年生がランクインでしかもワンツーなんて偉業らしいよ」
「それはそうと、星ちゃんは誰に投票したの?」
「とーぜん、中西先輩だよ」
「ちょっと、星ちゃん、お義姉さんに聞かれたらまた落ち込んじゃうよ?」
「だってしょうがないじゃん。カッコイイものはカッコイイんだからさ」
兄がこんなに評判が良いのは悪い気はしない。それにこれは好きな人の投票ではない。カッコイイ人の投票なんだ。
「朱は? 誰に入れた?」
「え! 私?」
私は……
「内緒!」
「え? なにそれー!? 自分だけズルイ」
掲示板に到着すると凄い人だかりが出来ていた。人をかき分けるように進み掲示板を見た。
「あっ!」
『ミス旭第一投票結果 上位10名』
一位:九条麗華 3-C
同率一位:田中花 3-B
三位:中西朱 1-D
四位:望月飛鳥 3-A
五位:野口想羽 3-A
・
・
・
――おしまい――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
長い間、太郎と花を温かく見守って下さりありがとうございました。皆さまのおかげで二人の恋も実ったようです。
今後も、私の大好きな太郎と花を宜しくお願いいたします。
――折葉こずえ――
気怠い春に移ろいて 折葉こずえ @orihakze
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