第8話エピローグ
「それはそれはご愁傷さまでした。で、それからどうなったの?」
「叔母さんがその後すぐ、警官を連れてきたんだけど、現場検証やら事情調書やらで、結局その日は警察にお泊り。で、その後は今日まで近くのビジネスホテル住まいだったわけ。まあ、お店が派手に壊れたんで、修理してる間、一週間も休めたんだけどね」
あれから一週間が経ちました。
今日は日曜日。
今、私は前の学校の同級生で、幼馴染の高島屋ガラリアちゃんと秋葉原のワクドナルドで昼食を取りながら、彼女に私が体験した驚異の物語を話しています。
「でも良かったじゃない。ヒカルも同僚の人たちも怪我がなくってさ」
「まあね。でも、知らなかったよ。日本でも拳銃の個人所持が認められてたなんて」
そうなんです。なんでも数年ほど前、「世界一の超大国」の大統領に、元俳優で、全国ライフル乱射協会会長だった人が選ばれたそうなんですが、その人、選挙公約で「全人類に銃を持つ権利を保障させる!」という、とてもまともなオツムの持ち主とは思えない公約を実行に移したそうで、当時日本の首相だった「世界一の超大国」のケツにくっついて歩くのが何よりも好きだったムカデ人間総理が、周りの反対を押し切って強行採決して、日本の国会で法案を通しちゃったんだそうです。で、それ以来、日本でも個人の拳銃所持が認められるようになったんですが、当然銃を使った犯罪発生率は急上昇。でも、その元総理は「銃が犯罪を起こすのではない!銃はちょっと持つ人間の気持ちを大きくさせるだけだ!」とか、これまた無責任極まりない発言を残してさっさと政界から引退しちゃったそうです。
まったく、いい迷惑ったら、ありゃしませんよ!
「あんた、一応高校生なんだから、たまには新聞のテレビ欄以外も見みなよ」
「失礼な、ちゃんと見てるわよ!」
「どこを?」
「天気予報のとこ」
「あんたねぇ~」
まあ、ガラちゃんは呆れてますが、私に言わせればマスコミなんて所詮サービス業なんですよね。
マスコミの代表格の新聞だって、「中立、公正」とか建前抜かしてますが、実際自分のところの読者が喜ぶように事実を「解釈」して報道してるわけですし。まして、民放のニュースなんか、ほとんどバラエティー番組みたいなもんで、視聴率を取るためにいかにニュースを面白おかしく報道するかしか考えていませんよ。
あんなもん見るくらいなら、「今日の料理超ビギナーズ」や「日曜マジカル園芸」でも見てたほうが、よっぽどためになります。
ニュースなんて、「何時どこで誰が(何が)何をした(起こった)のか」最低限客観的事実だけ抑えておけば、十分だというのが私の持論です。
といっても、日本で拳銃の個人所有が認められたという事実を知らなかったわけですから、あんまり偉そうなこと言える立場じゃないんですけど。
一通り話しが済んだので、私たち二人はワクドから出て、叔母さんのお店に向かいました。
確か叔母さんの話では、昨日でお店の修理が終わったんで、今日から営業を再開するとか言ってたんですが。
「結局その先輩さん、正当防衛ってことで無罪放免になったんでしょ?」
「うん。そうみたい」
「でも、二人も殺して、警察はともかくよく二人の親とかに訴えられなかったよね」
あの日の夜、秋葉原署から戻ってきた叔母さんとベネットさんは、すぐにお店の内部の異変に気づいて、叔母さんはベネットさんに「何もしちゃだめよ」と言い残して、警察にとって返したそうです。
でも、当然あのベネットさんが、こんな面白いイベントを指を咥えて見てるはずがありません。
駅前の工事現場からローラー車を拝借するとともに、近くのアダルトショップの店頭に飾られてたあの「クルミたん」を窓ガラスをぶち破って、持ち出し、あとの事はご承知のごとく、あの大惨事です。
「まあ、どう考えてもあいつらの方が悪いわけだし、それにどうもあの連中、どっかのいいとこのボンボンだったみたいで、向こうの家もなるべく表沙汰にしたくなかったみたいなんだよね」
「ふ~ん」
「だから叔母さんなんか、逆に連中の親から店の修理費用出させたみたい。しっかりしてるよね、うちの叔母さん」
「あはははは、まあ、そのくらいじゃないと、女手一つでお店なんか切り盛りできやしないわよ」
「まあ、そうかもね」
そんな感じで10分ほど歩き、私たちは叔母さんのお店の近くまでやってきました。
「そういえば、何だっけ?そのお店の店長のアリアスちゃん。その時、どうしてたの?」
「いや~、それがさぁ、あいつ近くの雀荘でご近所さんと徹マンしてたんだって。徹マンだよ、徹マン!いやはや、ホントに何なのかね、あの生き物は……って、ガラちゃん、どうしたの?」
ガラちゃんの様子が変です。
顔から血の気が失せていき、斜め上方を凝視しています。
「ヒカル、あ、あれって、あんたのお店のあるビルだよね」
「うん、そうだけど……ああっーーー!!」
私は思わず、大声を上げました。
なんと、叔母さんのお店がある五階建ての雑居ビルの屋上で、叔母さんが片手でベネットさんの足をつかんでいて、ベネットさんを空中に中ぶらりの状態にしてるじゃありませんか!
「ベネットちゃん~、私、前に忠告したわよね~。今度お店を壊したらお店から永久追放するって~」
「言ったよ!確かに言ったよ!大佐!」
「良かった~。じゃあ~、この手を離しても当然文句ないわよね~」
「け、けど、大佐、店から永久追放するんだろ!この世とは言ってねーだろーが!」
「ああ~~、そう言われて見ればそうよね~」
「じゃ、じゃあ、」
「う~~~ん。あれは~、嘘!」
「え?ぎゃああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
叔母さんが手を離すと、ベネットさんは絶叫を上げながら地上へと落下していきました。
「ああ~、もう!ごめん、ちょっとここで待ってて」
私はガラちゃんにそう言うと、お店まで走り始めました。
お店に向かって走ってる途中、私は若い女の子の肩にぶつかってしまいました。
「あっ、すみません!」
「大丈夫です。心配なさらないで」
私は頭を下げて、その人に謝罪してから、また再び走り出しました。
私は走りながら、ちょっと気になったので、さっきぶつかった女の子の方にチラリと目をやりました。
その子は、知り合いかどうか分かりませんが、黒い髪の小柄な女の子と会話しているようでした。
「あのコが「アキバ13」のニューフェイス。「アキバ13」のカルロ」
「あら、あなたもいらしてたの。「杏」の羅那さん」
「そっちこそ、敵状視察にしては増分ごゆっくりですね。「TNT」のクラリス」
「あんな小汚いお店、わざわざワタクシが来ることもなかったのですが。まあ、たまたま時間が空いてましたので来てみたの」
「……そういうことにしておきます」
「何ですの!その言い方、気に入りませんわね。あんなチンケな店、ワタクシたち「TNT」グループが本気を出せば、すぐに叩き潰してやりますわ」
「あまり連中を甘くみない方がいいですよ。「TNT」のお姫様」
「ふん!まあいいですわ。とにかく今やこのメイド喫茶の聖地秋葉原で、「TNT」と「杏」のチェーン店以外のメイド喫茶はあの店だけ。あの店を店じまいに追いやるまではワタクシたちは同志」
「分かってます。だから、そのための一時休戦」
「なら結構。まあ、今回は失敗しましたが、他に方法はいくらでもありますわ。せっかくですから楽しみましょう、「杏」の魔女さん。「アキバ13」をこの地上から抹殺するその時を想像しながら」
私が走る先には私の叔母さん、ベネットさん、サリーちゃん、クックちゃん、そして店長のアリアスちゃんがいるメイド喫茶「羽の生えたカヌー」、通称「アキバ13」があります。
これからも毎日こんなことが起こるのかと思うと気が重くなりますが、悩んでいてもしかたありません。
人生前向きにいかないと、何をやっても上手くいきませんよね。
ほら、だれか偉い人(?)も言ってたじゃありませんか。
「神は天にいまし すべて世は事もなし」って。
つまり人生なるようにしかならないってことですよね(多分)。
なら思いっきり 不条理で、不確実で、非常識な人生を少しの間歩むのも悪くないんじゃないでしょうか。
私こと、山田ヒカル、メイド名「カルロ」のアキバ13での生活は始まったばかりなんですから。
「ベネットさーーーーん!!生きてますかーーー?!」
第八話・「アキバ13のカルロ」
end
要塞喫茶アキバ13 南極ぱらだいす @nakypa
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