しょっぱいケーキ

貴音真

涙味(なみだあじ)

 出会いは突然だった。

 別れも突然だった。

 ただ、あなたと出会ったことに後悔はしていない。別れたことにも後悔はしていない。

 それでも、別れる前にもっと何か出来たんじゃないかと思うと、別れる前の私達に対しては少し後悔がある。

 それでも、あなたと出会い、あなたと別れたことに後悔はない。

 あなたと出会い、あなたと過ごし、あなたと別れた。その巡り合わせに感謝します。

 始まりと終わりは突然だった。

 でも、その間にある日々は突然ではなく、自然だった。気がついたらあなたがいた。気がついたら私がいた。

 その日々は消えない。私が忘れ、あなたが忘れたとしても、消えることはない。

 後ろを向かずに前を向く。

 それは振り返らないことじゃない。

 それは過去を消すことじゃない。

 過去というがあるから、これからというを向く。

 私は今、自分の誕生日ケーキを独りで食べています。

 あなたと一緒に食べた私の誕生日ケーキ、その味は思い出せないけれど、今食べているこのケーキは少しだけしょっぱいです。

 私はもうあなたの誕生日にケーキを食べることはないけれど、私は今、私の誕生日にケーキを食べています。

 あなたと一緒に食べたあなたの誕生日ケーキの味は思い出せないけれど、今食べているこのケーキは少しだけしょっぱいです。

 出会えてよかった。あなたと別れてもそう思います。

 別れは少しだけ寂しいけれど、出会えてよかったと思います。

 あなたは今、何をしていますか?

 私は少しだけしょっぱいケーキを食べています。

 もし、いつかどこかで再会することがあれば、一緒にケーキを食べましょう。

 今日の涙味なみだあじのケーキの味は忘れないと思うけど、いつかどこかで再会した時のケーキの味は忘れると思います。

 互いに互いを忘れても、涙の味は覚えています。

 元気で頑張って!

 私は元気です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しょっぱいケーキ 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ