174.神獣としては
何のかんので戻った俺は、テムに一応文句を言った。それに対する神獣様のお答えは、首を軽くかしげての一言。
「我が悪いのか?」
「悪いに決まってる……とはちょっと言いにくいかも知れないけどさ。神獣の思考で、人間関係引っ掻き回すなよ」
「む」
テムは人間の世界に来てから長いけど、考えてみたらつい最近までは王城の地下にいたんだもんな。ぶっちゃけ、人間には全く詳しくないわけだ。
なんであんまり責めるわけにもいかないんだけど、さすがに俺を『ランディスブランド』の子種の元とか思われるような発言はどうかと思うわけだ。
なので一応ツッコんだら、さすがに頭を下げてくれた。猫仕様なのでめっちゃ可愛い、いや違う。
「……確かに、我とそなたらでは考え方に違いがあるからな。その点では済まなんだ」
「うん」
いや、やっぱり猫テムは可愛いよな。耳ぺたん、しっぽぺたん、翼しんなりと分かりやすくしょげている、翼の生えた猫。神獣様だけど。
「だが、我がこの地にいる限り『ランディスブランド』に絶えてもらっては困るからなあ。そうなったら我、任務終了ということで神のもとに戻るぞ」
「そこまでかよ」
「そこまでだよ」
いや、開き直ってはっきり言われてもなあ。というか、『ランディスブランド』ならブラッド公爵家がいるだろうが。しかも、もうすぐお子が生まれる状況だぞ。セオドラ様だっておられ……あ、セオドラ様は俺狙いっぽいんだっけ。うわお。
「とはいえ、確かにブラッド公爵家や他にもランディスの血を引く者はおるからの。マスターにばかり子を作らせるのも大変であろ」
ぱったんぱったんとしっぽを振りながら、テムはテムで考えているらしい。あーうん、アシュディさんとかも血は引いてるからね。他にもそういう一族はいるそうで……大元の魔術師ランディス、身内が多かったのかな?
あと、人間としてはちょっと困ったこともあるわけだ。『ランディスブランド』がここまで広まってる理由として身内の子孫、とかを俺が挙げる理由。
「……まあ、そういうことでいいよ。それに、人間はあまり近い血同士で結びつくと身体の弱い子が生まれる、って話を聞いたことがある」
「ああ、それは我も知っている」
「なんで、ほどほどにしてくれ。テムも、『ランディスブランド』が身体の弱い一族になったらそれは嫌だろ?」
「嫌であるな」
そういう方向性で説明したら、テムはちゃんと理解してくれた。ある程度血が薄まってもランディスの一族ではあるし、たまに集まり直したり先祖返りしたりで新たに『ランディスブランド』がでてくることだってあるんだから。
「それに……」
あと、これは平民だからこその望みと言うか、何というか。
「俺だって、どうせ誰かと結ばれるなら自分の好きな人と結ばれたいし。貴族じゃないから、そういうしがらみはあんまりないしな」
「そういう部分、人は面倒であるのう」
「俺もそう思う」
メルランディア様とサファード様は、『ランディスブランド』の中でも遠目の親戚ということで結ばれたようだ。その血を絶やすことなくつないでいくため、とか何とからしいけど、遠くの親戚って結構数少なくないかな、と思うわけだ。
でも俺としては、そういうんじゃなくてちゃんと自分で伴侶を選びたいなあ、とは思っている。……あーうん、今んとこの選択肢が既に出されたものばかりであることは否定しないけどな!
「あー。我が人の子であったなら、問答無用でそなたを娶るのだが」
「テム……」
テムの戯言を、俺は笑えない。テムが人間の女の子だったら、かなりの確率で選択肢の第一番には入ると思うんだ、俺。お仕事とは言え、五年ばかり二人っきりの機会が多かったわけだしな。
「しかし、そなたが誰を娶ろうと我は歓迎するぞ。それに我は、いずれにしろそなたが神のもとに去るまで一緒であるからな」
「はは、ありがとう」
いや、なんでここまでなつかれたのかはわからないけれど……まあいいさ、悪いやつじゃないからな。
ひとまず、目の前の現実を先になんとかしないと。
「とりあえず、バート村には戻らないとな。村長さんだし、俺」
「ベンドル復興に助力するのであろ? そちらは大丈夫なのか?」
「シオンの封印チェックもあるんだし、テムも来てくれるんだろ?」
「それは、責任者として当然だな。事情を知るシノーペやファンランにも、同行してもらうことになるか」
「クジョーリカも忙しいであろうが、ゴルドーリアからも文官を派遣するらしいからな。良い国になると良いが」
「まあなー」
テムと色々話しながら、今後の計画を立てていく。セオドラ様やリコリス様……というかブラッド公爵家やドヴェン辺境伯家とも、しっかり協力していかなくちゃならないだろう。
「今後ともよろしく。神獣システム様」
「うむ、よろしゅうな。我がマスター、キャスバート・ランディス」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます