173.多いほうが嬉しいらしい

「王帝陛下も国王陛下も、程々になさってくださいね」


「う、うむ。すまんかった」


「わしも、ついうっかり」


「きゅう」


「この場でのお話ですからついうっかりで済みますが、万が一ドヴェン辺境伯義父が乱入でもしてきたらどうする気ですか。俺にはとても止められません」


 現在、王帝陛下と国王陛下がラッツェン司令官にお説教を食らっている。国王陛下もそうだけど、王帝陛下もドヴェン辺境伯家の強さは知っていてその身内、ということを聞いたのでおとなしくしております。その隣でメティーオも。

 本来は不敬罪とかになるんだろうけれど、状況が状況なだけにふたりともそこら辺を追求する気はなさそうだ。双方ともに国の長何だから、もう少し物事をしっかり考えてくれ、頼む。

 で、俺やアシュディさん、マイガスさんは見届人とやらを任されている。……ただの見物人ともいう。俺は当事者なので、二人の反省の度合いを見て許すか許さないかを決めてくれ、とラッツェン司令官に頼まれております。何だかしっかりしてんなあ、うん。


「というか、辺境伯の名前が上がるのってやっぱりリコリス様絡みですか」


 ボーッと見てるのも何なので、お茶を淹れてもらった。ゴルドーリアから持ってきたやつだけど、あったかくて美味しいなあ。


「何だかんだ言っても、子供は可愛いものねえ」


 俺の感想に、アシュディさんがため息をつく。……あーあれか、ファンラン曰くリコリス様も俺にどうやら興味持ってるとのことで、その邪魔したら親が乱入してくるってか。大丈夫なのかゴルドーリアもベンドルも。


「まあ、辺境伯閣下が暴れられても、夫人がしばき倒して終わると思うんだが」


「それ、終わるまでの被害が洒落にならないからやめてえ」


 マイガスさんも言ってるけど、あの一族で最強なのは辺境伯夫人だということで。……そのご息女であるリコリス様がお強いのも、まあ分かると言うか。

 さて、実はここに見届人がもうひとりいたりする。というか、お茶を持ってきてくださったのがこの方なわけだが。

 ぶっちゃけ、サファード様である。


「まあ、あちらはおまかせしておくとしてですね、キャスバートくん」


「あ、はい」


 書類作業なり帝都復興の手配なり、地元が近いのでいろいろやってるらしいんだけど、なんか俺に向き直って真面目な顔をする。あ、これ、なんか押し付けられる感じだ。


「今後、ベンドルはゴルドーリアの属国のような形で存続することになります。でまあ、ベンドル国民の生活環境の向上に協力することになりまして」


「ああ」


 サファード様が走り回ってる理由、それ聞いて分かった。ドヴェン辺境伯家も絡むんだろうけれど、あちらは軍事とか建築メインだろうなあとは思うんだ。得意分野が、それぞれ違うから。


「ブラッド公爵領は、ベンドルから見たらお隣ですしね。それで、サファード様が」


「そうです。で、ベンドル側……まああそこで怒られている王帝陛下なんですが、彼女から協力者として君を派遣してもらえないか、と」


「はひ?」


 「あら」「おや」と目を丸くしてるアシュディさん、マイガスさんの視線に晒されて俺も多分目が丸い。つーか王帝陛下直々にご指名ですか、俺。一介の村長なんですが!


「もちろん、常駐というわけではありません。君にはバート村をお任せしていますし、ベンドルに行ったままではセオドラがすねますので」


「は、はい……」


 こっちはこっちでセオドラ様の義理の兄上だから、司令官と違う方向に圧が来る。いや、俺、どうすりゃいいんですか。ゴルドーリアには一夫多妻制度はないです! ……ベンドルはどうか知らないけど!


「まあ、お互いに人材交流ということで人の行き来を頻繁にしたいんです。ですから、基本的にはバート村でベンドルの人たちを受け入れていただいて、その代わりにベンドルに人を派遣するといった感じですかね」


「はあ……」


「ああ、結婚や婚約は自由ですよ。それと、神獣様からは『ランディスブランド』が増えると嬉しい、というお言葉を頂いております」


『ぶふうっ』


 いやもう、伝達されたテムの言葉にサファード様以外全員が吹いた。もちろん二人の陛下や、ラッツェン司令官もである。

 つーかやめろ、人間としては色々あるんだよう。ああもう、頭抱えさせてくれ。


「やめてくださいよ……テムは神獣だから、人間とは考え方違うから……」


「まあ、未来のことを考えると神獣様のお気持ちも分かるんだけど、ねえ」


 アシュディさんは呆れ顔になっている。で、マイガスさんはというと。


「まあ、ファンランもいるから不注意なことにはならんと思うが……というか、サファード殿も『ランディスブランド』ですが」


「ええ。間もなくひとり増える予定ですよ?」


 サファード様とにこにこ笑いながら実質にらみ合いするのはやめろ、頼むから。

 あと、マイガスさんはファンラン派か……もともと部下だしな……つまりアシュディさんはシノーペ派?

 いやもう、勘弁してください。俺はひとりです。


「あーうん、妾としてはベンドルに増やしてもらっても構わぬぞ?」


「こちらとしては、ゴルドーリア側にできるだけ……」


「お二方。もう少しお話しますか」


 そこの王帝陛下と国王陛下は、司令官にたっぷり絞られてください俺はもう限界です!

 あとテム、怒るぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る