168.一方、
なぜだ。
俺は、神魔獣に喰らわれた結果その肉体に宿った俺は、『偽王国』の兵など一蹴できるはずではなかったのか。
十二分に溜め込んだ魔力をこの身に蓄え、ちっぽけな民を殺して喰らい更に強くなる、はずだったのに。
「放て、メティーオ!」
「くおーああああっ!」
せっかく王帝に祭り上げてやった小娘と、神魔獣のかけらであるはずの魔獣は俺に歯向かい、風の刃を突き立ててくる。くそう、痛いではないか。
「新品の縄は、生身には軋んで痛いでござるよお!」
「死に損ナいのくセに、やめんかアああ!」
縄やら網やらを俺に引っ掛けてきてうっとうしかったのでふっ飛ばしたはずの……忍びか? よくわからん小娘はあっさり復活し、さらに新しい縄を俺の前足に引っ掛けてくる。動きが制限されて、面倒なことこの上ない。
更に、だ。
「土魔術、タイプ杭」
「効果範囲、及び攻撃力増強」
「みゃーん」
『いけっ!』
「ガッ! あ、ぐゥ、小僧ドも、がっ!」
赤毛の憎たらしい魔術師と、それに従っている小娘……こちらも魔術師か。奴らの魔力さえ食えれば、俺は勝てるはずなのに!
当然のように俺の攻撃を避け、足元をチョロチョロ走り回り、そうして魔術で俺の腹をぐさぐさと刺しまくる。くう、血とともに魔力が漏れ出していくではないか。貴様らの生命で、その魔力を返せ!
「ぐわあおう!」
「愚か者おおおお!」
どこぞの名も知らぬクズ魔獣と、我が宿敵神獣システムが同時に衝撃波を放ってくる。とっさに避けようとしたのだが、足がうまく動かない。
……まさか。
「杭が生えたので、縛り付けたでござる!」
忍びのような小娘が、憎たらしくも満面の笑みでそうのたまう。『偽王国』の民の分際で、この神魔獣に逆らうな!
「神獣め! 魔獣共、クズ兵士共がア! この神魔獣ニ、逆らうナど!」
「神魔獣より、あんたに逆らってるんだよ! シオン・タキード!」
こちらも衝撃波を放ったのに、それらは全てあらぬ方向へ弾き飛ばされた。次の瞬間、上から降ってきた巨大な岩の杭が、慌てて動かした俺の頬を半ばえぐり取る。また、また、魔力が漏れ出て行く。俺の力が、抜けていく。
「シオン。そなたがいてくれたからこそ、ベンドルの民はこれまで生きてこられた。そのことには、長として礼を言う」
魔獣の背中にコソコソと隠れながら、白い髪の小娘が偉そうにそんなことを言う。
馬鹿な。ベンドルの人間を生かしておいてやったのは、神魔獣に全て食らわせるためだったのに。この小娘も全て食らい尽くしてしまえば、俺はこの世界の帝となり、人間を従え、魔力を喰らいながらのんびりと生きていけたのに。
「だが、そなたのやったことを妾は王帝として看過できぬ。よって、ここでそなたを滅ぼす」
「オノレで出来ヌくせに、偉そうなコとを!」
「国の長は、一人で国を治めるものではないからな! メティーオ!」
「きしゃしゃしゃしゃああああああお!」
クズ魔獣に命じて、衝撃波を撃たせることしかできない小娘が、長などとは笑わせる。貴様などが、国の長を務められるはずがないだろうに。
たかがお飾りのくせに偉そうに、俺を敵とみなし敵軍に混じってやってくるとはな。この裏切り者め。
「神魔獣よ、シオン・タキードよ。そろそろ、己の無様さに気づいてみてはどうだ?」
白い神獣が、そのようなことを抜かしてくる。誰が無様だ、誰が。
……四肢は土から生えた杭に縛り付けられ、体毛を魔力で強化して構成されていたはずの棘は全てが体毛に戻っている。
「ぐああわおうっ!」
「ぎぃっ!」
クズ魔獣が今、俺の背の翼をへし折った。い、いたい、いたいいたいいたい!
「風魔術タイプ射出、一点集中!」
「ぎゃっ!」
魔術師の小娘が放った風が、もう一枚の翼を切り飛ばし、た。いたいいたいいたいいたいいたい!
「参るぞ、マスターよ」
「うん、テム」
赤毛の男は神獣を愛称で呼ぶ、何と無礼で傲慢な魔術師か。
その魔術師が神獣を己の乗り物とし、そして我が目の前に浮かび上がる。よし、俺に喰らわれに来たのか。良い心がけだぞ、下郎。
おお、自分たちから突入してくるとは。俺は口を開けて待てば、いいのだな?
「愚かな反逆者は、この場にて潰えよ!」
「風魔術、雷魔術、タイプ射出……一点集中、全力!!」
くち、の、なかに、かぜと、いかづちが、あな、あなをあけて。
い、いたい、いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいいいいいいいい!
「おやすみなさい。もう、寝ろ」
やめろ、俺は寝たくない、貴様らを食って俺は、世界を、人間が下僕、魔力を食らって、やめろやめろやめろやめろおおおおお!
ぶつん。
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