167.近づいてみる

「きさ、マ! 生きテいた、のカ!」


 さすがの神魔獣、さすがのシオンもファンランが平気な顔して自分の足を縛ったことには驚いている。まあ、こっちは多分大丈夫だろーなあとは思ってたけどさ。めちゃくちゃ元気で何よりである。結界、よく頑張った。


「ふはははは! 神獣テム殿とランディス殿の結界に護られたこのファンラン・シキノ、たかだか神魔獣の一撃ごときで死ぬわけがないでござるよーーーー!」


「あーうん、そうかも知れないけど一人じゃ不利だ! 多分!」


 ハイテンションのままファンランが叫んだので、一応ツッコんでみた。セリフだけでなく、自分も突っ込む必要があるな、これ。


「テム、結界ガン積みして体当たりとかできるか」


「我を何だと思うておる」


 任せよ、とテムはふんと鼻を鳴らした。背中の翼がばさばさはためいていて、いつでも突撃可能だと言っているようだ。

 多分、あの神魔獣と決着つけるのは自分だ、とか考えてるんだろうな。俺も付き合うよ、テム。


「エークちゃん、いけますか?」


「ぐわあお!」


 シノーペが、エークの返事を待たずにその背中に乗り込む。ううむ、あっちもやる気か。止めても止まらないな、うん。


「妾も行かねばならぬな。サファード殿」


「援護ならいくらでもいたしますよ。ご武運を」


「うむ、かたじけない。参るぞ、メティーオ」


「くおう!」


 王帝陛下に至っては、サファード様と言葉をかわしていつでも行ける態勢になっていた。まあ、あまり多数で突入しても逆にあれか、神魔獣の魔力の元になるだけだろうし。

 万が一やられたとしても、数が少なければ被害は少ない。後からゴルドーリア軍本隊がきっと来てくれるだろうから、そちらに任せるって手もあるしな。

 だけど、やられないに越したことはないので少ない魔力をかき集めて、皆に結界を張った。


「防御結界、タイプ全般! 行ってくれ、テム!」


「おおう!」


「くおーーーあああ!」


「ぐわおーう!」


「みうー」


 ……何か、ビクトールの声が紛れて聞こえたけど……シノーペ、連れてきたのか。ま、仕方ないな。戦場で置いとく事もできないしっていや、普通に豹に戻れよお前。

 なんてことを考えているうちに、神獣や魔獣たちの足が速いおかげであっという間に神魔獣の目の前まで来た。ああ、最初にでてきたのを見たときよりはだいぶ小さくなっているな、これ。最初に会ったメティーオより二まわり大きいくらい、うん十分でかいけど。


「そおれ神魔獣よ! そなたの敵がここに来たぞ!」


「大宰相シオン、働きが見事であったことは認めるが、都と民を滅ぼすような愚か者は放っておけぬ!」


 神魔獣に因縁のあるテム、シオンと縁のある王帝陛下がそれぞれ、相手に向かって叫ぶ。そんな中で「ファンランさーん、大丈夫ですかー!」と叫ぶシノーペはさすがというか。


「もちろんでござる! 皆様方の結界と防御魔術が、自分をガッチリ守ってくれたでござるからね!」


「そりゃ良かった。はい縄追加」


「おお、助かるでござる」


 収納魔術でまだ残ってた縄を渡すと、ファンランはきらきらと爽やかな笑みを浮かべてみせた。あーうん、ほんとに大丈夫だこれ。

 そのくらいになって、上から怒りの声が降ってきた。うん、たった今までファンランがかけた縄外そうと必死になってたもんな。

 『神』魔獣とか何とか言っても、中身が人間だとこんな感じなのかも知れないな。


「ほざけほザけホざけえええ! 貴様らを食らって、神魔獣としての力ヲ更に強固なもノっ!?」


「うるさいです」


「がるるるるる」


 そして、長たらしいセリフを全部言わせる前にエークが頭突きを下顎に食らわせた。長々とわけわからないこと言いまくるのって、たしかにただうるさいだけだものなあ。


「どのようなことを言おうと、そなたは既にベンドルの民でも何でもない! 国と民を滅ぼそうとした反逆者ぞ!」


「きしゃあああああ!」


 王帝陛下はあんまり攻撃力とかがないから、攻撃はメティーオが一身に引き受けている。ぶっ放した衝撃波は、うまく神魔獣の右目を切り裂いた。


「いたイでは、ないカあぁあ!」


 シオンも痛かったらしく、後ろ足だけで立ち上がるとひとまとめにされたままの前足を地面に叩きつけた。まあ、全員かわしたけど。


「当たらないでござる!」


「あの状態じゃな。風魔術、タイプ射出、上から!」


 俺も見てるだけってわけには行かないし、神魔獣が自分より小さい俺たちを見下ろしているのをいいことに上から風の刃を背中めがけて降らせた。大きいから、漏れて俺たちにまで降ってくる確率は低くて助かる。


「あぎャあああアあ!」


 思わずふわり、と浮かびかけた神魔獣がバランスを崩して、そうして着地した。ズズンと響く地鳴りが、地面にヒビを入れる。

 そうして俺たちは、おもわずほんの僅かに距離をとった。

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