163.足止めをしよう
「強化魔術、かけましょうか?」
ファンランの縄、もとい網を見てぽかんとしていた中、いち早く立ち直ったシノーペがそう声をかけてきた。あーうん、網っつーたら何か捕まえる用だもんな。そりゃ、強化要るか。
「ぜひ、お願いしたいでござる」
「はあい。強化魔術、とついでに防御魔術、タイプ全般でどうぞ!」
めっちゃ喜んで頷いたファンランの網に、シノーペはがっつりと魔術をかける。防御魔術って、アイテムにかけるのは強化とさほど変わりなくないか。ま、いいけど。
「かたじけないでござる」
ペコリと頭を下げて、ファンランはがっつり強化された網を抱えた。だいぶ重そうなんだけど、元が縄だから平気なのかも知れないな。
……と、いうか。
「つーかファンラン、その網であれ捕まえるのか? ちょっと無理があるぞ」
「完全に捕縛は無理でござるね。しかし、足止めにはなるでござろう? 何しろ、魔術でなく縄でござるからね」
「……まあ、うん」
えっへんと胸を張って言ってのけたファンランの意見に、俺は納得するしかない。
確かに、たかだか普通の縄を使って作った網であの神魔獣、しかもかなりでかい奴を捕まえきるのは無理だ。だけど強化や防御の魔術をかけたそれは、少なくともちょっとした足止めにはなる。
そういった『ちょっとしたこと』が、戦では重要になるんだ。それは、サファード様も分かっておられるから。
「ファンラン、隙を見てその網を使ってください。我々が一斉攻撃をかけます」
「おまかせあれでござるよ、サファード様」
だから、そうお言葉をかけられた。いくらやたらとでっかい相手とはいえ、こちらに動いてくるところを狙うより、少しでも動きを止めたほうが当てやすいのは言うまでもないし。
「なれば、もう少し待つが良い。のっしのっしと歩んで来ておる」
自分で展開した結界を更に強化しつつ、テムがそう言ってきた。ばしんばしんと魔力の壁に当たるのは……棘?
「身体から生えた棘をどんどん撃って来てますね。元々羽か毛っぽいですけど、かなり固いみたいです」
「それなら、そのうちハゲて……はくれないか」
「おっきな魔獣ですからねー」
ついついシノーペと軽口を叩き合いつつ、こちらも結界を強化。体表の棘が元は羽なり毛なりなら、どんどん撃って来るうちになくなってくれればいいんだけどそれは無理そうだ。どうせ、魔力で生成してんだろうし。
「各自、結界が耐えてくれているうちに矢と魔力の補給をしてください。足止めをしたところで、一斉攻撃に出ます。伝達を」
「はっ」
ブラッド公爵軍の方は、サファード様の指示が行き渡っていけば大丈夫だろう。相手は今のところ一体とはいえ巨大な魔獣だ、無理に攻撃撃ち込んでもいまいちだったし。
だから、時を見て一斉攻撃、という手段に出るんだよな。俺たちは。
「大丈夫か? マスター」
「ん、平気」
テムがちょっと心配げにこちらを伺ってきたので、頭をなでて応える。うん、シノーペとか皆が手入れしてくれてるから、とてもつやつやしていていい肌触りだ。戦が終わったら、また皆で手入れだな。
一瞬だけ意識が現実から引き離されたところで、ファンランの「そろそろ、行くでござるよ」という声で戻ってきた。いかんいかん、今戦の真っ最中。
「はいよ。防御結界、タイプ全般」
「助かるでござる。いざ!」
神魔獣に網掛けに行くってことはつまり目の前に出るということなので、しっかり結界を作った。ファンランが飛び出すと同時に、メティーオがずんと足を踏み出す。
「援護しようぞ。メティーオ、放て!」
「くおあーーーーーーーーーーーーおう!」
王帝陛下の声に呼応して、魔獣が吠えた。無数に生み出された風の刃が、ファンランの両側をかすめるようにしてまっすぐに、神魔獣を狙って飛んでいく。
「親に逆らウか、出来損ナいメ!」
それに対し、神魔獣も同じように風の刃を放つ。あー、きっちり相殺してやがる……しかもあれ、多分まあまあ余裕があるな。気持ち的に。
魔力は微妙に足りなさそうな感じがするんだよね。飛んでくる棘の数が減ってきたから。その辺りは結界や魔術の減衰具合で分かるのが、魔術師としては助かるよな。
……その間にファンランは地面を蹴り、大きく飛び上がった。メティーオの風の刃がまたも放たれ、彼女の周囲をうまく取り囲んで盾になる。
「失礼するでござああああああある!」
「なにをぐふっ!?」
ばさり、と広げられた網は神魔獣のくちばしにかぶさった。そうして、根本のあたりをきゅきゅきゅっと締め上げる。あー、巾着みたいな。どこまでいつの間に作ったんだ、本気で。
ついでに言うと、だ。神魔獣のくちばし、ファンランを一口でいけるくらいのサイズだって分かったんだが。本気であの網いつ作った、そんなでかいくちばし包めるサイズとか。
「さらに、失礼するでござある!」
そのまま、足元に落下。暴れる太い四肢を器用にかいくぐりながら、その足にほいほいと縄を絡めていく。ああうん、たしかにそれなら足止めになるな、と思ったとき。
「…………っ!」
神魔獣が思いっきり振り上げた足にかかっていた縄が、離れようとしたファンランの背中を直撃した。
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