162.お前には食わせない
神魔獣、というかどう見ても怪物、と呼びたくなるあの獣。
遠くにいるはずなのに姿がはっきり分かる、という時点でその大きさに気がついた。
「あれ、大きいですね?」
「神獣様の倍以上はありそうですね。いや、もっと大きいですか」
思わずサファード様に確認取ったら、大きく頷いて答えてくれた。ああやっぱり、めっちゃ大きくなってんだ、あれ。
何というか……
「あれは魔力を吸収するようですから、魔術師は直接魔力をぶつける攻撃は控えてください!」
「はっ!」
サファード様の指示は、あっという間に全体に広がる。まあ、魔力で直接攻撃しなくても攻撃方法なんて、いくらでもあるけどな。
「風魔術、タイプ乱舞!」
「同調します!」
例えば、この風の魔術。魔力を使って風の刃を作り、それで敵を切り刻む。風自体はただの強い風なので、まあ魔力じゃないよねという感じ。
俺の魔術にシノーペが重ねてくれて、威力は倍増。ただし、神魔獣にまでたどり着いたそれを敵は、「ぐあおう!」というひと吠えで難なく吹き飛ばしてくれた。まあ、風だし。
と、ゆっくりと足を動かしながら神魔獣が、声を上げた。人の。
「滅びヨ、ニセのおうこくメ」
「っ!」
途端、王帝陛下の顔色が変わる。うん、そりゃそうだ。彼女がいつも、一番近くで聞いていただろう声だものな。
つか、そのままくちばしを開きっぱなしってのはつまり、そこから魔力なり魔術なりをぶっ放してくる予兆でしかないだろ。実際、魔力貯めまくってるし。
「防御結界!」
「重ねるぞ!」
「魔術師! 防御結界、展開!」
俺の結界にテムが重ねてくれて、さらにサファード様の命令で他の魔術師たちも次々に結界を重ねまくる。紡ぎ終わったそこに、神魔獣がぶっ放した魔力の光がちょうど着弾した。
「がっ!」
「重ね、重なれ!」
衝撃で、魔術師や兵士たちが後方に弾き飛ばされる。俺たちも足元がやばかったけど、テムが即座に結界をもう数枚重ねてくれたので何とか耐えた。……今ので、最低五枚は吹き飛んだな。
そんな中、王帝陛下の呟いた言葉がひどく大きく聞こえた。
「おのれ、シオン・タキード」
ゴルドーリアを偽の王国、と呼んだ神魔獣。でも、その声は間違いなく大宰相シオンのものだった、と王帝陛下も認めている。
それって、つまり。
「神魔獣の中におるな。同化したのか、単に食われたのかは分からぬが」
テムの言葉の通り、だろう。俺たちや王帝陛下、メティーオが逃げ出した以上、神魔獣をああやって構築するためには他から魔力を取ってくる必要がある。
その中に、シオン自身がいたんだろうな。意図的にそうしたのか、うっかりそうなったのかは聞いても教えてくれそうもないし、考えないようにする。
「食われたにしても、意識保ってる時点で化け物でござるよ」
「ファンラン!」
ついファンランが呟いた気持ちもわからなくもないけれど、その元をつい最近までとても頼りにしていた人がここにいるんだよな。だから俺は思わず、彼女の名を呼んで止めさせた。
「む。申し訳ないでござる、王帝陛下」
「いや、構わぬ。正直、妾もそう思った」
ファンランもそこで気づいてくれて、頭を下げてくれる。って王帝陛下、思っていてもあまり言うものでは……ああうん、多分それ理解した皆思ってるだろうけどさ。
と、その声に気づいたのか神魔獣が僅かに首を傾げた。そうして、一言。
「くじょーりか、美味そウ」
「いや速攻で喰らおうと考えるな!」
反射的に地面を殴る。土魔術はその場にある土を動かして攻撃するのが基本だから、これもやつが食らう魔力の対象とは……多分ならないな。ちょうど真下からアッパーっぽく生やした土の柱、まともに顎に食らってるもの。
それでも、思わず前足を地面から離したくらいで耐えきるのはさすがだと思うけどさ。
「どれだけ魔力足りないんですかあ!」
その姿勢になると四足獣でも腹が見えるから、そこにシノーペと一部の魔術師が雷魔術を撃ち込んだ。下半身のバランスを崩して、人間で言うところの膝砕け? みたいな感じになる。
「というか、攻撃方法が魔力の無駄遣いだと思いますよ、僕は!」
「同感だ! メティーオ!」
「くおおおおおおおおおおうああああああ!」
更にそこへ、サファード様が振った右手に呼応した矢の大群とメティーオの衝撃波が叩き込まれる。いやもう、今ここにいる俺たちの心は変なところで一つになっている、よな。
やつはここで潰す。魔力なぞ、食わせてなるものか。
「巨大でござるが、縛る相手として不足はないでござるねえ! ふはははは、これで捕らえるでござるよ、神魔獣とやら!」
ついでに言うと、ファンランが振り上げた縄はいつの間にか網の形になっていた。それいつやったんだ、お前?
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