148.わかりやすく怪しい

 城壁の中、つまり帝都という街の中は閑散としていた。

 ……厳密にいうと、そもそもの人口が少ないようだ。住居はほとんど見当たらなくって、広い道に沿って建っている建物は大体が倉庫みたいだな。出入り口が開放されている倉庫の中身はソリだったり、大型の武器だったり。

 ああ、魔獣の檻もやたら多い。中の魔獣たちはすでに契約済みのものたちだから、しばらくおとなしくしておいてくれな。


「わかりやすく誘い込んでるよね」


「わう!」


 シノーペたちと別ルートを進みつつ、周囲を警戒する。気配遮断結界を展開しつつ、奥へ奥へと進んでいこう。いやまあ、どうせバレてるんだけどさ。せめて、今どこらへんを動いているのかわかりにくくしてやりたいじゃないか。

 犬魔獣たちは、相変わらず俺たちの警護を買って出てくれてる。……俺たち、じゃなくてテム、か。いいんだけどね。


「うむ、案ずるな。誘い込む、ということは我らに中央まで来てもらう理由があちらにある、ということだ」


「そこまでは生かしておく、ってことかあ」


 まっすぐ、王帝の住まいまではいかない。あちこち寄り道して、色々壊していくものがあるんだよな。

 バート村を始めとしたブラッド公爵領には、基石に陣を刻み込むことで発動が容易になる結界を展開してある。どうも、ベンドル帝都にもそういった基石があちこちにあるんだけど……これらは、用途が違った。




 王都に入ってきてすぐ、それを見つけて俺は冷や汗をかいた。知識にある中で、最悪の文様をそこに見つけたから。


「いやー。どう見ても大量殺戮用だよねえ、これ」


「帝都の民をまるっと神魔獣の贄にする気だな、あの愚か者め」


「縛るだけでは飽き足りぬ、でござる」


「生かして捕らえる気はあまりないですねえ」


 それを見て、全員の意見は大体一致した。シオン・タキード、ここでぶっ潰す、と。

 で、結界用の紋もそうなんだけど、こういうのは一か所だけ刻むわけじゃない。効力範囲を取り囲むように、あちこちに刻まれているはずだ。多分、帝都をぐるっと取り巻くように。


「じゃあ、私とエークちゃんで壊してきます。ファンランも来てくれれば、大丈夫よね?」


「敵兵は任せるでござる」


 というわけで、その場所から二手に分かれる事になったわけだ。ただし、テムから注意事項がひとつ。


「ああ、すべて消すでないぞ。たまーに性格の悪いやつがおってのう、『ひとつの陣をすべて消すことで別の魔術が発動』などというふざけた真似をやってくることがある」


「ぐあーう」


「うむ、エークリール。そなたの本体をかつて使っていた魔獣使いのことだな」


 ということだそうだ。エーク、お前性格悪いやつに使われてたんだなあ。昔の主といい、ヨーシャといい。

 テムの下僕になって助かった、とエーク自身は心底思ってるようで、だからこうやって従ってくれてるんだけど。


「では、てきとーに破壊してきます。エークちゃん、ビーちゃん、テムさんの気配は分かるね?」


「がう!」


「みー!」


「自分はてきとーに縛ってくるでござる。ランディス殿、テム殿、さくさくと先に進まれよ」


「うむ、頼むぞ」


「ちゃんと来るんだぞ」


 とまあ、そんな感じで別れたわけだが。




「てきとーに破壊して来ましたー」


「ご苦労であるな、シノーペ」


「いえいえ」


 本気で人がいないのか何なのか、さくっと合流できた。

 ……いや、人がいないわけではないらしい。


「ああ、少ない家の中に人の気配を多く感じたでござる。おそらく、家から出ぬよう上が命じたでござるね」


 ファンランが、そのあたりもさっくりと調べてくれたらしい。器用なんだよなあ……敵をあっという間に縛るところも含めて。

 というか、多分一般人であろうその人たちを家に閉じ込める形にして、それで帝都全部を大量殺戮用の陣で囲んで。


「つまり、自国の民を神魔獣復活の贄にするわけだ。国を滅ぼしてまで、ろくでもないものを呼び起こす大宰相の考えが我にはわからん」


「気にすんな、テム。同じ人間でもまっっっっっったく分からないから」


「ランディスさんと同じです。何考えているんだか」


「……縛るなら首、でござるかな?」


 すまん、テム。人間の考え方じゃなくって、大宰相一人の考え方なんだ。それがわからないのは、実に正常だと俺は思う。

 聞けるなら本人に聞いてみたいけれど、教えてくれるかな。その前にファンランの言うとおり、首でもきゅっと縛ったほうが世界のためだろうな。


「まあ良い。そもそも理解できぬのなら、理解しようとする努力が無駄だ。そのような時間があれば、我らは先に進む」


「そうだな。……ああ、あれか」


 会話しつつも進んできた俺たちの前には、渋い色の木の扉がそそり立っていた。高さ、人の二倍はあるかな。ほんの僅か開いていて、人は余裕で通れる。

 結界はこの中にあって、……多分、王帝陛下はそこにいる。シオン・タキードもおそらく。


「じゃ、いくか」


 さすがに、ここから先テムの背中に乗ったままっていうのは何だし。だから俺は降りて、自分の足で進むことにした。

 シノーペもファンランも、後に付いてくる。

 さて、この先に何が出てくるやら。

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