146.突入

「防御魔術、タイプ全般、展開!」


 高台を降りて、帝都のある程度近くまで接近する。こちらの進軍がバレてるだろうとは言え、あからさまに行くのも何なので岩山や雪に隠れられるくらいの距離までしか近づいていない。

 そこから、ある程度バラバラにブラッド公爵軍部隊が配置された。この後彼らは、頑張って帝都を取り囲む方向に動いていく。

 ので、その前に俺とテムで、できるだけ強力な防御魔術をかけた。発動とある程度の継続分だけだけど、テムがいなけりゃ俺は魔力不足でひっくり返ってたな。確実に。


「これでしばらくは保つ。各部隊の所属魔術師、及び魔力の高い者に補填させれば長持ちする」


 がおう、と吠えながらテムが説明してくれる。人間の俺が説明するより、神獣様のほうが信頼感あるからな。白い有翼獅子の姿は、かなり迫力と威圧感と神々しさがあってみんな膝をついてくれてる。


「だが、あくまでも護りが固くなるだけだ。戦に勝つには人よ、そなたらの力が必要だ! 我は、そなたらの戦いに期待しておるぞ!」


『おおおおおーーーーーっ!』


 あ、兵士みんな調子に乗った。いや、調子に乗ったりテンション上げたりするのは結構重要だけどな。

 ただ、あまり無理をしないでほしいもんだ。テムも言ったけど、俺たちの魔術で護りが固くなるだけで、不死身になるわけじゃないんだから。


「では、よろしくお願いしますね。神獣様、キャスバートくん」


 自分も陽動部隊として出ることを決めているサファード様が、こちらに向かって微笑んでくださった。一応本命部隊なので、よろしくお願いされるのはあれである、ベンドル王帝国大宰相シオン・タキードの身柄、もしくは首。


「任せよ」


「頑張ってきます。シノーペ、ファンラン、頼むね」


「はい! エークちゃん、ビーちゃん、頑張りましょう!」


「ぐわう!」


「みゃ!」


「お任せあれ、でござる。隙あらば自分、シオン・タキードを縛ってみせるでござるよ」


 エークは虎の姿だけど、ビクトールは子猫のままである。……多分、テムとエークが全力で走ったら追いつけないからだけど。

 俺はテムに、シノーペはエークに乗って帝都へと突入する。ファンランは「自分で走るでござるよ」なんて言ってたけど、ひとまずテムに乗せることになった。

 俺の収納魔術にサファード様から頂いた丈夫な縄が入っているので、しっかり使ってもらいたいものである。そのためには、ちょっとでも体力を温存しといてもらわないと。


「余裕があれば、でいいですからね?」


「わふ」


 そのことはサファード様もよーくご存知なので、苦笑するだけにとどめられたようだ。まあ、生きたのを持ってきたほうが後あと周辺国に対して事情説明とかしやすそう、かな。その辺は良くわからないけれど。

 ちなみにその後のわふ、はコーズさんの犬魔獣。主の主代行、なのでこの場にいてサファード様をお守りすることを選んだようだ。頑張れ。

 それはともかく、開戦の合図を出すためにサファード様は、すっと片手を挙げた。


「さて。魔術師、放て!」


「炎魔術、爆炎!」


「炎魔術! ばぁくはつ!」


 その手が振り下ろされると同時に、俺やシノーペを除く多くの魔術師たちが一斉に炎の魔術を放った。どう見ても陽動だけどまあ、効果はあると思う。帝都の周辺で、ざわざわと人がうごめく様子が見えたからな。城壁の外に少しと、あとは城壁の上。


「では、行ってまいります」


「お願いします。各自、突入開始!」


 再び振られたサファード様の手を合図に、こちらの部隊が一斉に動き出した。グルっと回っていく部隊とまっすぐ行く部隊で、帝都を包囲できればいいかな、という感じ。無理そうならその場で停止して応戦、もしくは撤退とその辺りは現場の判断に任せる。

 で、俺たちも出陣である。さて、行くぞ。


「テム!」


「参るぞ!」


「お願いするでござる!」


 テムの首にしがみつく俺と、その俺の腰にしがみつくファンラン。その二人を乗せて神獣システムは、まるで何も乗っていないかのように力強く走り出した。


「エークちゃん!」


「がおう!」


「みゅわ!」


 同時に、シノーペを乗せたエークも走り出す。ビクトールはシノーペの首元から顔を出していて……見なくても分かるぞ、目を丸くしてびっくりしてるだろ。

 そして、さらに。


『わうっ!』


 俺たちを取り囲むように、犬魔獣たちが走る……あーうん、護衛役を買ってくれたんだよね。あと、この環境には慣れてるし、案内もできるみたいだとテム談。

 よろしくお願いします、と先払いでしまってあった生肉をプレゼントしたら喜んでたよ、この子たち。ちょっと待てベンドル軍、魔獣は一応獣なんだから普通に肉食うだろう。今まで何をやっていた? いや、人間も食事とるのが大変だろうけどさ。


「一番近い入り口まで案内せよ。我が護る故、攻撃を気にすることはない」


「わん!」


 俺たちの前を行く一頭が、テムの言葉に答えるように吠える。そいつの後ろを走る俺たちの周囲で、矢と魔術の雨が激しく降り始めた。

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