145.作戦

 敵本陣であるところの帝都を前に、俺たちは作戦会議を持った。

 ……といっても、数がそう多くないしな。あと、サファード様のお言葉が全てを表してるというか。


「どうせ、向こうはこちらをお待ちかねです。ですからこちらも、堂々と向かうことにします」


 だよねー。

 俺たちが感じ取った帝都内の結界については、一応各部隊の隊長さんと所属魔術師には知らせた。何かあったときのために、各自対処しろってやつだ。

 俺やテムから、『結界の中に魔術やらなにやらを封じ込めておいて、時間とともに放出する』なんてやり方を教えておいたのでしっかり頑張ってくれることだろう。ま、その上からこっちが結界かけるって方法もあるけど、規模の関係で消費魔力がでかいから。


「神獣様やキャスバートくん、シノーペ及びファンラン両名には別働隊として、大宰相シオンを狙ってもらいます。向こうもそれを望んでおられるでしょうし、多分僕たちが同行しても足手まといになると思うんですよね」


「まあ、数がおったところで我とマスターが結界に封じれば良いだけだ。面倒なのは、神魔獣を蘇らせようとするシオンの所業だけであろう」


「そういうことです。その所業の場に僕たちがいれば、まあ餌にされるのは目に見えてますからねえ」


「俺たちスルーして攻撃しかねないですよね、確かに」


 サファード様もテムも全力でぶっちゃけてるのを、部隊長さんたちは目を丸くしつつ聞いている。相手がそういうやつだってこと、さっき説明したよね?

 何しろ、俺たちがゴルドーリアを出たところを狙って王帝陛下をお持ち帰りするやつだからな。そのくらいのやり方、当然やってくるだろう。


「ええ。ですが、こちらの動き方もおそらく考慮済みでしょう。事実上、国一つを動かす人物ですし、敵の動きをそのくらいには読めるはずです」


「で、ではどうすれば……」


 しれっと、こっちがめっちゃ不利ですよ発言をしてのけた公爵配偶者に、恐る恐る部隊長の一人が質問を投げかけてくる。うん、それを命じるための作戦会議だよね、ここは。

 そして、サファード様が提示されたやり方とは。


「そうするとですね。僕たちのできることはずばり、一刻も早くキャスバート君たちをシオン・タキードのもとにたどり着かせることです。あちらの推測より早ければ、少しはこちらに有利になります……本当に少し、ですが」


 俺たちを刺客として送り込み、本隊はそのための陽動作戦を取る、という方法だった。しかも、かなり時間との勝負ということになる。正直なところ、作戦会議やってる暇があったら俺たちが進んだほうがいいんじゃないか、ってレベル。

 ただ、この作戦には最大の問題がある。それを、当事者たる俺が示してみよう。


「それで、俺たちが負ければ終わりですが」


「神獣様が同行されるのに負けたりしたら、どのみちこの世界で勝てる者はいないですねえ」


 おう、全力で打ち返されてきた。

 そうだよな……前の戦では、テムがゴルドーリア軍や俺たちのご先祖様と協力してどうにか勝てた相手、なんだけど。

 今はまだ、神魔獣は目覚めてないというか復活してないというか。で、シオンはそれを復活させてこちらを潰そうとしてるわけで。


「神魔獣の登場前にシオン・タキードを潰せれば良し。でなければ我々は全力を以て、神魔獣と対峙します。……後続のゴルドーリア本軍が間に合ってくれれば、何とかなるかも知れませんが」


「そこまで引き伸ばすのは、正直面倒でござる。さっさと片付けたいでござるねえ」


 なんでこう、本音が全力で出てくるのやら。いや、建前で戦ができないのは分かってるけどさ。

 で、本音をうまく飾る言葉を使って我らが神獣システムが、大声を張り上げた。獅子の姿だから、迫力あること。


「ゴルドーリアの王の出る幕なぞ、我とマスター一行がことごとく潰してくれよう。しかし、そのためにはブラッド公爵の元に集いし者よ、そなたらの助力が必要だ。我に力を貸せ、我らと民のために」


『は、ははあっ!』


「ふにっ」


「みい」


『わうん』


 神獣の言葉に人と、そして魔獣たちもが一斉に頭を垂れる。もちろん、俺たちも……いや、そうしなきゃいけない気がしてさ。

 結局のところ、人間のわがままに神獣を巻き込む事態になってしまった、ってことだし。それで、ちゃんと引き受けてくれるテムに俺たちは、頭を下げて感謝しなくちゃならない。


「……よい。楽にせよ。我は人に頭を垂れさせるために、ここまで来たのではないからな」


「寛大なお言葉、ありがとうございます。神獣システム様」


 許しを得てほう、と息が漏れる中、サファード様がテムに礼の言葉を述べた。「気にするな」とだけ答えてテムは……あー、なんで俺の脇腹に額を擦り付けてくるかな。これ、猫の仕草だろ。


「我は、我がそばにいてほしい人の力となり幸せな暮らしを得るためにここまで来た。それは皆も同じことであろう?」


 でも、そのテムの言葉に皆は一様に、大きく頷いた。

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