144.帝都
さて、それから。
「抵抗が、あからさまに弱くなりましたね」
「そりゃ、俺たちを帝都に呼び込むのが目的ならそうなるよな」
シノーペと、お互いに頷きあう。
そうなんだよねえ、わかりやすくベンドル軍のやる気がなくなった。魔獣も弱い子たちばっかりでさ、それもそこらで見つけてさくっと契約したって感じの……要は、使い捨て要員にされた子ばかり。
さすがにさくさく殺すのもアレなんで、結界に閉じ込めて契約破棄したり何だりしたわけなんだが、その結果。
「一応、裏は取れたでござるが……気をつけるに越したことはない、でござるね」
「ファンラン、埋もれてる」
「仕方がないでござろう! 懐かれたのでござるから!」
五頭の犬系魔獣が、まるっとファンランに懐いたというか彼女をボスと認めたというか。ちなみにコーズさんの子がナンバー二らしいよ。テムが通訳してくれたから、そこは確かだ。
なお、コーズさんの子は膝に乗っかるサイズの長毛種なんだけど、ベンドルの子たちは豹ビクトールとそう変わらないサイズのずんぐりむっくりもこもこ系である。黒っぽい毛色もあって、ぱっと見は熊に見えなくもない。まあ肉食獣だしなあ。
「とは言え、土地には慣れているし鼻も効くので便利でござるよ」
「それで余計に、ベンドル軍との戦いが楽になっちゃいましたからねえ」
ファンランもシノーペも、さすがに魔獣の扱い方はマスターしちゃってるのでのんきに笑ってるわけだが。
こういう寒い地方に対応した魔獣たちだから、敵の探し方とか進み方とかもう慣れたもんで、だから進軍速度の上がること上がること。帝都の場所知ってる子がいたから、迷いようもないし。
で、まあ少し前に。
「見えました! おそらく、あれが帝都です!」
という報告があって、俺たちはベンドル帝都を見下ろす高台にいるわけだ。
山と山との間、小さな小さな平地にがっしりとした石を積み上げて造られた、城壁。それに囲まれているいくつもの建物を含めた規模は、砦としては巨大な建造物。でも、都市とするならばあまりにも小さな小さな、それがおそらくはベンドル王帝国の、帝都。
「うわあ」
「がっちり造られていますね。この地に彼らがたどり着いてから、死にものぐるいで造り上げられたのでしょう。生きるために」
思わず息を漏らした俺の横で、サファード様は感情の乗らない言葉を紡いだ。……ここまで逃げてきたのは俺たちの先祖やゴルドーリア軍との戦に負けたからだけど、だからといってこれを造った人たちの苦労に思いを馳せない理由はない。
「多くの血が染み込んだ上に、あの都はある。まあ、土台に血を伴わぬ都などまずないか」
「戦にしろ建築にしろ、一からとなると死者は出ますからね」
「地面、固そうでござるからねえ」
テムの言葉にシノーペ、そしてファンランが頷く。なんだよねえ、戦でも死人は出るけれど、大規模な建築ともなると事故はつきもので。バート村がそんな事になってないのは、基本的にもともとあった村の建物を改修とかばかりだったから。
それはまあ、ともかくとしてだ。帝都の歴史を考えるのは、後からでもできることだし。だけどさ。
「……テム。何だか、嫌な感じがすると言うか」
「嫌な感じ。ふむ、我もだ」
いや、その帝都の中央部……多分、王帝陛下のお住まいなんだろうなあというのが見ても分かる造りの建物に、結界が展開されている。そりゃまあ、向こうにも強力な魔術師はいるだろうし。
だけど、あの結界の術式、何か似てるんだよなあ。……俺が作る結界に。
「あー。さすがに僕も何となくわかります」
「おや」
と、ここでサファード様から同意が得られるとは思わなかった。一応親戚ですけども……お互い『ランディスブランド』だから、近いと言えば近いのか。それで気づいてもおかしくはない、か。
「サファード様も分かるでござるか?」
「ええ。帝都の中に小さく張られている結界、わかりますか」
「結界、ですか。確かにありますけど」
首を傾げたファンランに、サファード様がまっすぐ指差してみせた先は推定王帝陛下のお住まい。あ、やっぱり分かってるな、この人。
で、その先をしばし見ていたシノーペが、どうやら気づいたようだ。さすがに俺も気づいてるんだけど、俺やテムが作る結界って他の魔術師が作るのと何か違うらしい。というか、俺がテムの影響受けてるのか何なのか。
「…………あれ。ランディスさんの結界っぽい」
「おや、まことでござるね。ご親戚でもおられるのでござるか?」
「ベンドルにいてもおかしくはないですね。そもそも神獣様が『ランディスブランド』をお側に置くようになったきっかけの戦は、ベンドルとの間に開かれたものですから」
二人の疑問にサファード様は、こうきっぱりと答えられた。ああそうだ、つまりその頃には『ランディスブランド』という呼び方はなかったとしてもこの一族の魔術師が、その力を発揮していたってことだよね。
「ベンドルに与した者もおらんではなかったが……逃げおおせた者どもが今まで血をつないでいた、ということか」
テムの言葉が結論、なんだろう。つまり、これから戦う敵は遠い昔に分かれた、親戚だってことか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます