132.こねこ

 そうしてまあ、精鋭の皆さんがぶっ放し切り裂きまくったおかげでほとんどの魔獣は退治、ちょっぴりが森の中に逃げていった。


「ただいまでござる。大漁でござるよー」


 魔獣使いについては、頬に返り血つけたファンランが男女一人ずつ縛り上げて帰ってきた。女はファンランの肩の上に担がれ、男の方はついてった兵士さんが三人がかりで木材みたいに運んでくる。……まあ縛り方は気にしない。


「さすがは我が部隊、とキャスバートくんですね」


「お褒めの言葉はありがたいですが、とりあえずそれ降ろしてくださいサファード様」


 にこにこ上機嫌なサファード様は、ご自身の剣に鳥魔獣を一頭ぶっ刺したまま笑っていた。いやそれ早く降ろしてください本当に。


「ははは、そうですね。今晩の食事に使わないと、もったいないですし」


「そっちもですが、ぶっ刺してる剣の手入れしないと明日以降の戦に響くんです。サファード様を無事にお返ししないと、メルランディア様とお子様がどれだけ悲しむとお思いですか」


 ここは申し訳ないが、メルランディア様のお名前を使って説教する。俺は剣を使うことはないけれど、工兵部隊の人が自分たちやファンランの道具や剣を手入れしてるところ見たことあるんだよな。ノースグリズリーの解体したときとか、結構傷んだみたいだし。


「ごめんなさい僕が悪かったです!」


「分かればいいです。さ、急いでお渡しください」


 ま、即座に頭を下げてくださるのがさすがサファード様、というところだよね。元王太子殿下とか元宰相閣下とか、何が何でも頭下げなかったらしいし。アシュディさんやマイガスさんが、色々怒ってくれたみたいなんだけどね。


「……で」


 使った剣を整備兵に渡して、予備の剣を腰につける。それからサファード様は、俺の後ろを見てまた笑顔になった。今度は苦笑に近いかな。


「増えましたか」


「増えました」


「増えたのう」


「ふにう」


「みー」


 サファード様、俺、猫テム、猫エーク。そして、最後にか細く鳴いたのは手のひらに乗るくらいのグレーの子猫。言うまでもなく、お腹出して降参したエークのきょうだいである。


「エークのきょうだいなんだそうですが、どうも一緒に育ったきょうだいからのけ者にされてたパターンらしく」


「ああ、それで小さいんですね」


「そのようだな。まあ、こちらにあっさり降参したのもあちらには思い入れがなかったからだろう」


 そりゃ、ろくな扱いされてなけりゃあっさり寝返るよなあ。豹のときも小柄だったけど、猫モードになったらこれだし……腹空かせてたんだろうな、としまっておいた肉出してやったらちょっとずつ食べてたし。


「うにゃうにゃ」


「みうー」


 今もちまちまと食べてるのを、エークがお前大丈夫か、という顔で見守っております。さすがに、これだけちっこいきょうだいを放ってはおけないらしい。


「スパイ役とかではないんですか?」


「特にそういう術式はなさそうだな。念のため、我がいくつか術をかけて調べてみたが問題ない」


「袋持ってきましたよー」


 サファード様とテムが真面目な会話をしているところに、シノーペが手頃なサイズの首からかけられる袋を持ってきた。中に、厚手の布が入ってるけど。


「み?」


「あったかいですよー」


 って、子猫入れかよ。一応魔獣だぞその子、とかいうより前に、広げられた袋の入り口に向かって子猫がよちよちと歩いていった。肉くわえたまま。


「そこにしまうんですか?」


「これだけ小さいと、誰かが踏んじゃうかもしれませんから」


「みうー」


 目を丸くして見つめるサファード様の前で、子猫はちんまりと袋の中に収まった。そうして、肉をちゃむちゃむ食べ続ける。

 あ、エークが頭下げた。うちのきょうだいがお手数おかけします、って感じかな。


「うにゃん、にゃおにゃお」


「エークリールが、済まぬなと言うておる」


「気にしなくていいんですよー。だって可愛いし、エークちゃんのきょうだいだし、降参したんでしょ?」


 うんまあ、さらっと言ってしまえるシノーペがすごいと思うんだけど。

 ……そうだ。この子、使役魔獣なんだよな。なら。


「……使役契約したほうがいいのなら、シノーペがするか?」


「え、いいんですか?」


「その方が契約で縛れますから、情報流出なども防げますね。あと、シノーペさんのところの子ということにできますが」


「はっ」


 ただでさえシノーペが目をキラキラさせたところに、サファード様がうまいこと話を持っていった。というかシノーペ、主に後半が気に入ったかもしかして。真顔でこっちに迫ってくんな。


「ら、ランディスさん、この子かまいませんか」


「いいよ。テム、エーク、どうかな」


「本猫が良いのなら構わぬぞ?」


「にうにう」


 一応、二頭に尋ねてみたら双方とも問題はなさそうだった。後は、当の子猫である。


「うちの子になりますか? 契約魔獣、ということですけど」


「みあ?」


 がじがじかじっていた肉から口を離し、子猫はじーとシノーペを見上げる。そうして、一所懸命首を伸ばして、シノーペの鼻先をぺろんと舐めた。


「ああもう可愛すぎますー! 返せと言っても返しませんからねーベンドルー!」


 うん、契約成立っぽい。ちゃんとした名前考えろな、シノーペ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る