131.獣のたたかい

「うにゃああああぐわあう!」


 グレーの豹に対抗してか、エークが大きくなる。有翼の黒虎に変じた魔獣を見て、豹魔獣が一瞬怯んだ。

 けれど、その後ろから数頭、同じ形をしたやつが出てくる。あー、大量にいるのか。まあ、確かテムが苦戦した魔獣の分体こどもなんだから、たくさんいてもおかしくないんだけど。あ、何か一頭だけちょっと小柄なやつがいる。

 一応、確認とっとくか。


「エーク。きょうだい?」


「ふに、きしゃー」


 こっくんと大きく頷いて、エークは最初に出てきた一頭の首にかぶりついた。別の一頭が豹パンチアタックしてくるのを、翼を広げて横殴りにする。意外と丈夫なんだ、あの翼。


「テム、聞いてた?」


「うむ」


 馬車の中からテムがひょこっと顔を出したので、聞いてみる。エークの言葉、テムなら理解できるからな。


「エークリール曰く、本体おやは同じだが向こうは作りが雑、だそうだ」


「つまりシークリッドだっけ、の分体か……作りが雑って」


「育成方法が雑というか、要は食事内容などだろうな」


 ああうん、そういうことね。エークはなんだかんだでゴルドーリアで育ったみたいだし、ベンドルで育った豹たちとは食ったものとか環境が違うってことだ。

 エークが虎でむこうが豹なのは……考えるのはやめておこう。どうせどっちも大きな猫だし、魔獣だし。

 というか、多数のきょうだい相手にエーク、ばったばったとなぎ倒してる。一応、防御魔術上乗せしておくか。


「がおおおおおおおううう!」


 豹三頭の首を捻り、一頭の顔面を翼で殴り、別の一頭を前足で思いっきり引っ掻いて、エークは吠える。あ、豹魔獣たちがビビってわずかに後退りした。


「元は同じだが、生きる道が違う。これらは我に任せよ、そうエークリールは言っておる」


「……そっか。任せるよ、エーク」


 テムに訳してもらった言葉を受け取って、俺は素直に従うことにした。というかさ、防御魔法で防いでるけど上の鳥魔獣がうるさいし。

 周囲にあるものを使って、鳥の数を減らそう。


「土魔術、タイプ、枯れ木!」


 立ち枯れた木、落ちている枯れ葉や枝。土の恵みを受け、いずれ土に帰るんで土魔術の範疇なんだってさ、これ。王都に出て、アシュディさんから教わったことのひとつだ。

 ま、それはともかくとして、枯れ木枯れ葉枯れ枝、それらを礫というか杭というか、とにかく飛び道具として森の中から撃ち出す。枯れ葉だとダメージは小さいけれど目くらましになるし、枯れ木なんてもんになったら大ダメージが期待できる。

 ただしあんまり広範囲には使えないけどね。意外に疲れるからな、これ。


「ぎゃあああああ!」


「げふっ!」


「ひゃいん!」


 枯れ木が直撃して墜落するもの、枯れ枝が羽に絡んでもがくもの、あと枯れ葉で目隠しされて味方とぶつかるもの。ふう、なんとかうまくいったっぽい。


「弓部隊、撃て!」


 鳥魔獣たちの混乱を見て、部隊長さんが命じた。大量に放たれた矢は、回避する余裕のない魔獣たちを次々に射抜いていく。魔術食らって高度下がってるもんな、よしよし。


「墜落した魔獣に、念のためとどめを刺せ! 逃げるものは放っておいていい、向かってくるものを狙え!」


『はっ!』


 部隊長さんが、的確に指示を出していく。

 こいつらは……エークのきょうだいも含め使役魔獣だから、ダメージを受けたとしてもマスターの命令には基本的に従う。それがこちらへの攻撃命令であれば、死ぬまで。

 だから、攻撃してくるやつはちゃんととどめを刺さないと、余計な損害が出てしまう。

 逃げる魔獣は……そういう命令を受けてることはあまりなくて、大体エークみたいにマスターとの契約が切れちゃったというパターンである。なので、特に放っておいても問題はない。

 もうひとつ、契約が切れた魔獣の行動パターン。


「ぴゃー、ぴいい」


「ぐる?」


 さっき出てきた中にいた、小柄な豹魔獣。そいつはひょこひょことエークの前に出てくると、ころんと腹を出した。

 あ、こいつ降参したぞ。他の豹魔獣たちはさっさと森の中に消えていって、今ここにいるのはエークに倒されたやつとそのちっこいのだけ。

 エークに腹出してるので、決定権はエークが持ってるよな、これ。


「エーク、どうする?」


「ぐ、にゃあ……」


 いや、どうしましょうって顔されても困る。あと、そこの落っこちてきた鳥魔獣うるさい、と思ったらシノーペが「うるさいです」と丸焼きにした。……晩ご飯のおかずになるかな?


「ぴゅいい、ぴい」


「………………にゃ」


 あ、エーク、あきらめたっぽい。がっくりと頭を落として、それからとことこと近づいていって。


「ぐわう、がうがう」


「ぴ、ぴゅいい、ふにゅ」


 何やら、会話を始めた。交渉、ということだろうか。テムに視線を向けると、何か呆れ顔っぽい。


「……あー。我とマスターに忠誠を誓うのであれば助けてやらんでもない、という感じかな」


「あー……」


 エークの主はテムだから、テムに忠誠を誓うのはいいんだけど。何でそこに俺まで入るのか、ちょっと聞いていいか? エーク。


「え、猫増えたんですか?」


「増えたみたい」


 能天気に喜んでるシノーペが、ちょっと羨ましいのであった。あと、焼鳥の数が増えてる。

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