121.のんびり昼食
リコリス様を連れて、のんきに昼食を取る。場所はサンドラ亭、すっかりにぎやかになったテラス席だ。
ああ、ちなみにバート村をいろいろ見て回りたいっておっしゃったのはリコリス様だからな。ブラッド公爵領はドヴェン辺境伯領よりは温暖な気候というところで、どういった暮らしをしているのか見ておきたいらしい。
バート村はだいぶ移住者が落ち着いて、ほどほどに平和である。農家始めた人とか小間物屋始めた人とか、各自でやれることをやり始めているのはうれしいな。後々の税収とか、いろいろ。
ま、それはそれとして、だ。
「神獣様おすすめのお肉、やはり最高ですわ!」
「うむ、気に入ったのならばよかった」
大変上機嫌に焼き肉を食しておられる。いやまあ、育った環境と家がね、食べたいときには食べろってことだったらしいから。
北の領地で戦人の家系なら、そりゃ食えるときに食っておくのは当然だよな。あ、でも野菜も食べてくれ。このほうれん草、うちでテオさんが作ったやつなんだ。
「このタレが肉によく合っているのですよね。実家に戻るときにいくらか購入して持っていったのですが、父上には殊の外お喜びいただきました」
「それは良かったでござるな。ドヴェン辺境伯領であれば、獣の肉は多く保存しているでござろう」
護衛ということで一緒に来ているファンランが、ほうれん草の卵とじを前にこちらも上機嫌だ。そこに入ってるベーコン、ノースボアの肉で作られたやつだな。リコリス様、ベーコンだけ選ぶんじゃない。
で、そのベーコンを口に運んでリコリス様は、どこかで聞いたふうな……多分その上を行く話を教えてくれた。
「父上がノースグリズリーを殴り飛ばしたり、母上が罠にかかったノースボアにとどめを刺したりしております」
「……殴り飛ばしたのか。人が、熊を」
「……さすが、ドヴェン辺境伯というか」
テムはあっけにとられてるけどさ……リコリス様のお父上がまあ、熊殴り飛ばすのは分からなくもない。ファンランだって倒した事があるわけだし、超絶強い人なら可能なんだろう。
で、お母上。どうやってとどめさしたんですか、いくら罠にかかった相手でもきっちり狙わないと毛皮で滑りますよ、剣とか槍とか。
「む。自分は殴り飛ばす、まではいかなかったでござる。縄を使い足を絡め、急所を何度も何度も刺してやっとでござったよ」
そしてファンランは……あ、これ自分の修行が足りてないしまった、って顔してるわ。いやいやいや、お前さんだってかなり洒落になってないから。
つか、倒し方初めて聞いたぞ。あのときはあ、倒せたんだってそっちばっかり気にしてたからかな。
「そのくらいは手間かかってたんだ、あれ」
「なかなか手間取ったでござる。まだまだ、修行が足りんでござるねえ」
やっぱりそうなるよな。基準がちと高すぎるだけに、バート村近辺では戦闘力トップなんじゃないだろうか、ファンランって。
近衛騎士でもあるし、実際すごいやつなんだけど……まあ、縛りも役に立つし、うん。
なんてことを考えていたら……リコリス様がぽかんと、こちらを見つめていた。
「ファンラン、あなたノースグリズリーと戦って勝ったの?」
「勝ったでござる。こちらの貴重書類入れは、その時に作ってもらったなめし革を使っているでござるよ」
ファンランは満面の笑みで頷いた上、ひょいと書類袋を取り出してきた。熊一頭からどれだけできるのかは知らないけれど、少なくとも五枚くらいはあったかな。その一つだ。
「まあまあまあ。しっかりと縫製されていますのね!」
「水が入らぬよう、中袋も入っているでござるよ」
「さすがですわ!」
あ、今度は袋の構成に話が移動した。
これは、工兵部隊の人が作ってくれたやつである。昔からブラッド公爵領で使われていたタイプで、俺は村長ということだしランドに重要書類送るときとかに必要だからって。いやもう、助かりましたありがとう。
「やはり、あのような袋は必要なのだな?」
「うちなんかだと、テムやエークが同行してくれるから大丈夫だけどさ。普通は山賊や野良魔獣とかの危険もあるし、ものによっては他の国が狙ってくるかもしれないからね。しっかりした袋は必要」
「他国の民が狙ってくる場合、袋ごと奪われるやもしれんが」
「このくらいのサイズなら、不可視の魔術は簡単にかけられるよ」
「ふむ」
最悪の事態についてはまあ、俺も微妙に覚えがあるからな。
俺の場合自分の貯め込んだ金とか……王都追い出された時、他人から見えないように魔術で隠していた金を持ってきてくれたのは今ここにいないシノーペだ。彼女くらいじゃないと、見えない魔術だったからね。
「さすがに多くの人や、動くものを不可視にするのは我でも難易度が高いからのう」
「気配消すなら楽なんだけどな」
『はー』
テムでもできない、というか大変なことはあるわけで。
お互いに肉にかぶりつつ、大きなため息を付いた。
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