118.作戦会議かっこ結論

「ベンドルという国そのものはともかくとして、大宰相シオンを潰すことを最終目的として良さそうであるな」


 テムは、すっかりシオン・タキードを敵と認識していた。いや、味方だの中立だのと認識する材料が皆無だしな。

 というか最終目的って……俺が決められることじゃないんだよ、人間社会ってそういうものなんだから。

 ただ。


「たかだか一村長の権限じゃどうしようもないけれど、何となく公爵ご夫妻はその線で話を進めてる気がするんだよね……」


 王帝陛下とセオドラ様、なんだかんだで仲良くなってるみたいだし。あと、リコリス様も。

 そうすると、サファード様がリコリス様に持っていってもらった報告書の中身もそういう方向性で書かれてるんじゃないかな、って気はするんだよね。

 もっとも、このあたりは俺の勝手な推測だけど……あんまり間違ってない気がする。


「まあゴルドーリアにしろ他の国にしろ、ベンドルの国自体は残しておきたいんじゃないかって思うんだ」


「都一つ潰すのにもいろいろ面倒があるのに、国となったらね……難民の数が違うでしょう」


 俺の意見に、シノーペが同意してくれた。

 そうなんだよね……ブラッド公爵領はベンドルとの国境地帯にあるからって、思ったより移住者が少ないそうなんだ。ドヴェン辺境伯領なんて、もっと少ないらしい……そりゃそうだな、うっかりしたらいきなり戦場だ。さすがにそんなことはないと思うけど。

 でも、いきなり人口が増えたら衣食住税金治安その他諸々、いろいろ大変なことになる。王都の移転、からの王都外への移住だけでも国全体結構わちゃわちゃしてるらしいのに、これがさほど大きくないだろうとは言え国一個、ってことになるとなあ。

 だったら、どうにかしてベンドル王帝国自体はそのまま残したほうがいいと思うんだ。一応のトップである王帝陛下は、今のところご無事だし。


「しかし、北の山の中から南に移り住みたい民も多い、と自分は思うでござる」


「そもそも、それが目的で続いてきた国だもんなあ。ベンドルより、ゴルドーリアや他の国のほうが暮らしやすい環境だし」


 ただ、ファンランの意見も分かる。ベンドルは、向こうの言い分で言えば『南の領地を追い出されたので、北の寒い土地で復活を考えてきた』国なわけだ。旧王都の『神なる水』はなくなったようだけど、それでも暖かい土地に住みたい人はいるはずだ。


「どっちみち、ある程度の移住者は受け入れないといけないだろうね」


 仕方ないよな、うんと自分に言い聞かせるつもりで俺は、そう言った。

 ゴルドーリアだけじゃなく、しれっと傍観に徹している他の国々にも受け入れてもらうようにしてもらえるとありがたいんだけど、これは国王陛下のお仕事だな。そういえば後継者問題、どうなってるんだろ。国の端っこからじゃわからん。


「うむ。それに、神魔獣の顕現の折に食われることがないよう、大宰相のみはとっとと潰すに限ると我は思う」


 テム、そこをついてくるか。

 神魔獣が出てくるときに、多くの人の魂が食われる……というのはさすがにな、駄目だ。そうならないようにするには……まあ、テムの言う通りか。

 首謀者たるシオン・タキードを倒して、そもそも呼び出させないようにするしかない。うっかりしたら、王帝陛下やメティーオがいなくなっちゃうかもしれないし。いや、それですまないけどさ。

 さて、それをどうするかなんだけど。


「最悪の事態を考えると、こちらからベンドル領内に攻め込んだほうが良くありませんか?」


「まあ、それはそうなんだけど……だから、一村長が判断できることじゃないから!」


 シノーペ、分かるよ。ぶっちゃけ、俺が国王ならその判断を取る可能性は十二分にある。何しろ、先に向こうから侵攻してきたわけなんで周辺国への言い訳も立つしさ。

 ただ、寒いところへの侵攻だから装備とかも寒冷地仕様のやつを揃えないといけないし……あー、確実にドヴェン辺境伯とメルランディア様にメインの軍を押し付けられるな、これ。

 あと、最大の問題はあれだ。


「それこそ、帝都あたりでシオンが俺たちを待ち受けていてさ、『我がベンドルの民よ、王帝陛下の勝利のために魂を捧げよ』とか何とかやりそうじゃね?」


「……ありえるでござるな……」


「ついでに、こちらの人たちも巻き込みますよね、それ」


 ですよねー。

 シオンにしてみたら、生贄と言うか犠牲者が多いほうが嬉しいだろうし、まあ確実に狙ってくるだろう。

 といっても、向こうが出てくるのを迎え撃つにしても状況は一緒か。さて、どうする……というところで、テムがにゃあと鳴いた。


「まあ、そのあたりは我が全力で結界を張れば多少は妨害できよう。というか妨害してやる」


「にゃおん」


 さすがは神獣、自信満々にそう言ってのける。腰抜かしたのが回復したエークも、ぼくもがんばりまーすという感じで声を上げた。


「結界で妨害できるのか?」


「要は魔力を吸い上げるわけだからな、魔術を防御する結界の応用ぞ」


 ふむ、なるほど。

 魔術の防御ってのは、魔術で作られた攻撃力を防御するのと直接向けられてくる魔力攻撃の防御、だいたい二つに分けられる。ただめんどくさいので、俺にしろテムにしろ他の魔術師にしろ基本はその両方を防御するようにこちらの防壁を構築するんだよね。

 で、魔力ってのは魂の力ってことらしいから……向こうが人の魂イコール魔力を吸い上げるのを、その結界で妨害すると。


「そういうことなら、俺も展開したほうがいいよね」


「私も協力します。それに、アシュディ団長や魔術師団の皆さんにも協力してもらえれば」


「そもそも魔力の吸収をできぬよう、自分は全力で嫌がらせしたいでござる!」


 俺とシノーペの言葉を、テムはゆったりと頷いて受け取ってくれた。あと、ファンランの願望も。


「うにゅう……うにゃ?」


「ファンランの嫌がらせと言えば、拘束に決まっておろう。エークリール、そなたも力を貸すがいい」


「にゃあ!」


 ……もしかして、大宰相まで縛るつもりかな、ファンラン。あとエーク、無理だけはするなよ。

 というか、マジで国王陛下とかメルランディア様やサファード様のご指示しだいだからね、この作戦会議の内容!

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