117.作戦会議かっこ内密

 さて。

 部隊長さんが退室し、執務室にいるのが俺、テム、エーク、シノーペ、ファンランとなったところで俺とテムは、神魔獣について説明した。


「神魔獣、でござるかあ……」


「テムさんと同じくらい強いんですか……」


「うむ」


 まあ、さすがに二人とも考え込んでるのは仕方がない。これまで、テムの実力を上回るような相手なんて出てこなかったからな。

 ちなみにエークは本体おやの知識にあったのか……腰を抜かしている。まあ、さっきから床の上だったし、特に問題はないんだけど。


「そなたらはかつての王都から共におる故、我もマスターも信頼しておる。故にこのことを伝えたが、他の者には広げるでないぞ?」


「テム殿の信頼には応えるでござる!」


「お任せください!」


 テムが信頼してるから伝えた、とはっきり言ってくれればこの二人は大きく頷いてくれた。そりゃあな、神獣の信頼を得ることができたわけだから。……この信頼を損なうようなことになるとなあ……そんなことしないと思うけどな、二人とも。


「……エークリール。人の言葉は未だ話せぬが、他の獣にも伝えるでないぞ?」


「うにゃっ!」


 エークも大きく頷いた。表情を読み取りにくい猫なんだけど、ものすごく必死さが伝わってくる。ま、分かりやすく次ないだろうからね、エークの場合。

 というか、獣に伝えても駄目なのか。まあ、メティーオは当事者だからともかくとして、あんな感じで人の言葉理解できる魔獣もいるかも知れないし……文字書けたりしたら大変だもんな。うん。


「それで、テムさん。神魔獣の覚醒とか何とか、そういうのってできるんですか?」


「不可能ではない、と思うが……正直なところ、無茶ではあるな」


 で、シノーペの提示した質問へのテムの答えは、微妙? というか、無茶の基準がどこにあるのか。


「神魔獣とは、ぶっちゃけてしまえば超強力な魔獣だ。その存在を生成するときに、大量の魔力を消費する」


「テムがこちらに来た時にもかなり魔力使った、なんて話あったっけ」


「我が顕現したときは、多くの魂が身体を失って漂っておったからな。それらが救いを求めた故、我は神に遣わされた」


 神獣は神様の使いだから、触れる身体ではあるけれど本来は魔力だかなんだか、らしい。そうでもなきゃ大きくなったり小さくなったり、なんてことはできないよな。

 すると、魔獣であるエークやメティーオも同じようにできるわけだから、身体は魔力でできているとか言ってもおかしくないのか。なるほど。

 ……だから、大宰相シオンは王帝陛下を始めとした多くの民を犠牲にして、メティーオを神魔獣にしようとした。


「テム殿。人の魂を魔力に換算した場合、どれほどの効率なのでござるかね? 魔術師に魔力を使わせたりするのと比べたら……でござるが」


「一番効率が良いのが魂だ。人の持つ魔力というものは、その者の魂から導き出される力であるからな。それをうまく使いこなせるものを、人は魔術師と呼ぶ」


 ふとした疑問を、ファンランは的確に言葉にする。そして、テムは至極当然のように頷いた。

 魂の力が魔力で、それをうまく使いこなせるのが魔術師。


「つまりテムさんがランディスさんを始めとした『ランディスブランド』を好んでおられるのは、その魂が好みだから、ということですか?」


「うむ、実にそのとおりだ。個人差はあるが概ね、良い性格の者が多い。マスター・キャスバートがどうかは、そなたらが良く知っておろう?」


「ええ、もちろんです!」


「ランディス殿は良い御仁である故、人が自然と寄ってくるのでござるよ。自覚はなくとも、でござる」


「え」


 おいお前ら、何でそういう話になるんだ? 別に俺の性格がどうとか……という話になるのか、これって。

 いや、性格悪い自覚はないから、マシっちゃマシなんだろうけどさ。


「……まあ、人様に好意を持ってもらえるのは悪くないよ。元殿下とか元宰相閣下とかがアレだっただけでさ」


「比較対象が大概といいますか、ランディスさんのこと嫌ってる人ってそのあたりくらいじゃないですか」


 思わず本音を漏らしたけれど、考えてみたらそうだな……あとヨーシャとか、そこら辺からくらいしか露骨に嫌われた記憶はあんまりない。


「ま、あとはおそらくベンドルの大宰相シオンだな。あれが一番大物、であろう」


「ゴルドーリアの元宰相は小者……でござるな。間違いなく」


 テムの言葉にツッコミを入れようとして失敗して、ファンランがぺろりと舌を見せる。あーうん、それこそ比較対象が大概だね。

 さすがにうちの元宰相閣下は、国王陛下やらを犠牲にしようとまでは考えていなかっただろうし。

 ……そういうところを指して、テムは嫌味たっぷりに大宰相シオンを『大物』と言ったわけだ。ものすごく、苦々しい顔で。


「自国であろうが他国であろうが、民を無駄に犠牲にしてまで己の欲求を満たそうとする大馬鹿者だ。我がマスターと仲良くなられても困る」


「ああうん、絶対仲良くなりたくないな」


 もちろん、改心してくれれば考え直さなくもないけれど、多分無理だよなという予感がする。

 というか……王帝陛下やメティーオと仲良くなれそうな今、倒すべき敵はそいつだと意味もなく確信していた。

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