116.作戦会議かっこ大まか

 王帝陛下のことはセオドラ様におまかせして、俺たちはバート村に戻ってきた。

 シノーペ、ファンラン、それから駐留部隊の部隊長さんに来てもらって、ざっと状況を伝える。まあ、ベンドルの大宰相が相変わらずゴルドーリアへの侵攻を狙ってるぽいってくらいだけどな。

 シノーペたちはともかく、駐留部隊の人たちにはさすがに神魔獣のことは言えない。神獣であるテムの力に拮抗するような存在が出てくるかもしれない、というのはあまり広めたくないし……ファンランなら縛る目標にしそうだけどさ。


「でまあ、そういうわけなんでうちにも何か指示が来る、と思うんだ」


「ランディスさんとテムさんがおられるのですから、当然来ますよね」


 シノーペは、自身が言ったとおりもう当然のことだと思っている。たしかに、俺はともかくテムがいるんだからこういろいろと、指示が来るのは分かってるんだけどね。


「我は、マスターに従うまでだぞ」


「ふにゃー!」


 うにゃーん、とソファの上で伸びている猫テムは相変わらずマイペースだ。その側、床の上できりっとおすわりしている猫エークは背中の翼を目一杯広げて、大きく鳴いてみせた。


「おお、エークはやる気のようでござるな。もちろん、自分も存分に働かせてもらうでござるよ」


「それはものすごく期待してる」


 ファンランは、えらく表情が明るい。まあそりゃな、敵が来たら存分に縛れるもんな。……なんて考えて気がついた。

 いつもいつも最前線に突っ込んでいって、ほとんど怪我もなく敵の隊長やら何やら縛って帰ってくるんだよなあ、ファンラン。

 近衛騎士の一員に選ばれたくらいだから当然強いんだけど、それどころじゃなかったかもしれない。いや、何で今頃気がつく、自分。


「駐留部隊の方も、一応そのつもりで準備をしておいてくれると助かります」


 …………ファンランの強さは今更なんで置いといて、部隊長さんにもそう声をかけた。

 まだまだ人の少ないバート村は、自分とこで自警団を作るのも少々手間がかかる。というか、まずは村での生活をある程度安定させないとな!

 そういうことで、領主様のご厚意で派遣してもらった部隊にそのままいてもらっている。力のありそうな人に武器の使い方や守り方を教えてもらったり、壁の修繕方法とかを伝えたり。


「それは任せとけ。まあ俺らの場合、敵を倒すよりは村を守るほうがメインになると思うが」


「それでお願いします。メルランディア様もサファード様も、そんな無茶な指示は出してこないでしょうし」


「ま、神獣様と村長に結界張りまくれ、あたりが妥当なところですよね」


 部隊長さんの言う通り、出てくる指示はそんなところだと思う。ただ……神魔獣絡みになれば多分、俺とテムは出ていかざるを得ないだろうけれど。その時はしっかり、部隊の皆さんに村を守ってもらいたい。

 ……あー。すっかり仲良くなった、と思ってたけどそういえば部隊長さんとか呼んでるから、名前知らないや。ごめんなさい、今更聞きにくいです。


「後は、ファンランに間諜を探して縛りまくれとかな」


「それでは普段と変わらないでござる。もっとも、遠慮なくやらせてもらうでござるよ?」


 思わずファンランに話を振った……ら、おやと思う答えを返された。普段と変わらないって、縛る相手がいるってことか? つまり敵。


「まだいるの?」


「ここ数日は『降参するので食事くれ』と申す者どもが多くて、正直つまらんでござる」


「ああ、時折ベンドル兵が自分で武装解除して出てきますね。程々に食事取らせて、ランドに送ってます」


 俺の質問にファンランと、そして部隊長さんが答えてくれた。まだいたのかー、大変だなあベンドル兵。

 てか、考えてみるとその人たち多分、大宰相シオンの命令で来てるんだろうし……うん、事実上国のトップ取ってる人から命令されたらどうしようもないわ。捕まえるというか、王帝陛下じゃないけど保護する形になっちゃってるなあ。

 旧王都からの移民さんもかなり来てるらしいけれど、それに加えて投降ベンドル兵抱えて大丈夫かな。というか。


「あー、前にもいたよね。多いのか?」


「今のところ、前回の者ども以外に十八名で打ち止め、でござるかな?」


「ちょっと多いか。潜入任務だよね、その人たち」


 確か、前にバーベキューで釣られたのが五人。今のところ合計二十三人、ということになる。

 ただ、潜入任務としては多人数だと思うんだけど目的を考えるとなあ。その数で、テムかエークを捕まえられると思ってんのか。ゴルドーリア舐めてるだろ大宰相。


「ふにゃあ、ふにい」


「エークリールはこまめに見回っておるようだが、投降した者以外特に怪しい者はおらぬようだ、と言うておるな」


「エークちゃん、この姿だと外をうろうろしてても怪しまれませんからねー」


 そして、エークは頑張ったから褒めて、とばかりに胸を張る。通訳してくれたテムも、そしてすっかりお世話係みたいな感じになったシノーペも、満足げに笑っている。


「そっか。エーク、偉いぞー」


「うにゃああああん」


 よーし喉をごろごろしてやろう、そのうっとり具合はどう見ても猫だぞお前。

 てそうか、黒猫がうろちょろしててもおかしくない田舎だよな、ここ。それに、エークを知ってる人は何の疑問も持たないだろうし、知らない人には背中になんか付いてるけどただの黒猫だろうし。

 よしまあ、何をおいても村の安全を守るのが第一だ。ベンドルの大宰相が何かやらかしてくるなら、それこそ俺とテムで結界作って弾き飛ばすくらいはやるけどさ。

 でも、今やれることと言ったら。


「……周辺に気を配りつつ、村の安全を守ってほしい。それで、お願いします」


『はい!』


「任せよ」


「にゃあい」


 まあ、そんなもんだと俺は思う。

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