110.実際のところ
「完成でござーる!」
やっほい、と拳を振り上げたファンランの足元に、見事に縛られた王帝陛下が転がって……はいないな。ちゃんと座ってた。
まあこう、基本は変態的なあれなんだけど縄とドレスが見事に調和してたり、何なら背中に翼っぽいものまで作ってある。どれだけの長さの縄使ってんだよ、というかよく残ってたな。
「これは何だ! 王帝に対し、不敬であるぞ!」
「敬意を表して、芸術の粋を極めた縛り方にしたでござるよ?」
さすがに王帝陛下も怒ってるけど、ファンランは何で怒ってるのか理解できない……フリだろうな、あれ。
転がしてないだけ、一応敬ってるっぽくはあるんだけど。
「飾りまでついておるのう」
「器用ですねえ」
テム、シノーペ、そこは感心するところか? ああ、まあいいけど。
それはそれとして。エークが抑え込んでいるメティーオがまだジタバタしてるようなので、一応声をかけてみる。エークも人の言葉は分かるし、メティーオもそうなんじゃないかな、と思って。
「メティーオ。お前さんの主がこうなってるんで、お前さんもおとなしくしてくれるかな?」
「きしゃ? ……きゅう」
おお、ちゃんと聞いてくれた。ちらりと王帝陛下に視線を向けて、くわっと目を見張って……それから、しゅんとおとなしくなる。
メティーオときゃうきゃう、にゃうにゃうといくらか会話したところで、エークが降りる。二頭揃ってちょこん、と座る姿は可愛いな。でかいけど。
だが、俺とは違う意見の人も当然いる。この場合……王帝陛下がそれだった。
「メティーオ! そなた、妾の魔獣としてのプライドはないのか!」
「きしゃ! しゃああ!」
自分の主に怒られて、メティーオは必死に首を横に振っている。そんなんじゃないですー、と言ってるのはまあ、分かる。というかテム、多分お前さんはメティーオの言葉も分かってるんじゃないの?
「自分はご主人様の危険を回避できるなら何でもします、と言うておるの」
あ、やっぱり分かってるし。メティーオは、こちらの言うことを理解した上で信用できるに足る相手だと見込んでくれた、ってことかな。そうでなきゃ、あいつが暴れたほうが多分早い。相手がファンランだ、というのはさておくけど。
「主を見捨てるような、非情な子じゃないってことでしょうね」
「使役される魔獣として、主の安全を第一に考えるのはメティーオのプライドじゃないかな。ね」
「きゅあ」
シノーペの言葉に続いてそう聞いてみると、メティーオはこっくんと大きく頷いた。ふむ、こいつは王帝陛下自身の使役獣でいいみたいだな。
たまにあるんだよな。他のやつが使役してる獣を借りて使って、それで自分の力だと思い込んでるやつとか。
まあ、魔獣貸してもらうというか頼んで頑張ってもらうってのは俺たちとテムやエークの関係、みたいな感じだけど。
ふむ、とこちらは納得したんだけど、当の王帝陛下は納得できてないみたいだ。
「何でそなた、敵に懐いておるのだ!」
「きゅあ、しゃああああ!」
あ、また何か言ってる。かなりお怒りの王帝陛下に対し、何やらメティーオが必死な気がする。
……結界にかかってる、ベンドル軍の攻撃がまたひどくなってきた。ファンランがこっちにいるから、数を減らしてないせいか。あ、いや今、一か所減った。ゴルドーリアの部隊が、頑張ってくれてるみたいだな。
「……メティーオ」
このことはテムも分かったみたいで、その声が低くなる。瞬間、結界全体に魔力が注がれて強化された。壊れかけた部分も、完全復活してる。
「よもやそなた、この状況を理解しておるのか?」
「きゅい」
「なるほど。誰かは分かっておるか?」
「きゅきゅん」
「分からぬか。まあ、致し方あるまい」
メティーオに簡単な質問をして、ふむと納得して。そうしてテムは、王帝陛下にぶっちゃけた。
「えーと、クジョーリカであったか。そなた、おそらく配下のどれかから生命狙われておるぞ」
「は?」
「いや、いきなり言われて専制君主が納得すると思うか? それ」
思わずツッコミを入れた俺、間違ってないよな?
どういう育てられ方とか教育受けたのかとかわからないけれど、少なくともこの王帝陛下は自分が世界のトップに立つのは正しいことだと思ってるようだし。
「む、納得せんか」
「自分の部下が反乱の意思持ってるとか、そういう考え方ないと思うぞ。自分は世界で一番偉いから、他の者は自分に仕えて当然だなんて思ってそうだし」
「そうではないのか!?」
テムに思いっきり具体的に説明してみたら、当の王帝陛下が目を丸くしておられる。あ、やっぱり。
「そうじゃないから、ベンドルはわざわざ軍を出してゴルドーリアの王都を占領しようとしたんでしょう? で、失敗した」
「というか。そなたの近くにベンドルの兵がおるようだが、この状況で誰も救いに出てきてはおらぬのう」
シノーペ、そしてテムが追い打ちかけてきた。特にテムの言葉には王帝陛下も「……あ」と気づいたようだ。そうだよね、さっきからファンランが縛ったりしてたし。
「そ、それは妾の力を信頼しておったから!」
「それでも、自国の長が危なくなったら出てくるものでござろう?」
必死に反論しようとした王帝陛下の言葉にかぶせるようにして、ファンランがずばんと斬り捨てた。
その間にも、結界の外からの攻撃は……続いているところは必死に頑張ってるけど、地味に数が減っていっているな。よしよし、と考えていると、あれ。
「ふむ。ベンドル部隊、撤退を開始したみたいですね」
「だね。攻撃の位置が後ろにずれてきてる……テム」
シノーペの指摘通り、ベンドル部隊は後退を始めていた。結界への攻撃は続いているけれど、その位置がゆっくりとこちらから遠ざかっているからな。
そしてそれとは別に、極端に魔力の高い場所が一か所。おそらく、脱出のための見せ魔術を放つつもりだろう。
王帝陛下を、放ったらかしにして。
「任せよ。どうせ、あれを理由にして別の戦力を送り込んでくるだろうからな」
「ですよねー」
王帝陛下他の守護は、テムにお任せする。俺は魔力の高い場所に狙いを定めて……よし。
「炎魔術、タイプ長距離射出、指向性付与、花火!」
思いっきりド派手に、見せ魔術の方向性を変えるためにこちらから魔術を撃ち込んだ。
弓なりに落下した俺の炎魔術は、着弾と同時に見せ魔術と同調する形で派手な爆発を起こす。花火、なんで派手に見えるだけでそんなに殺傷能力はないけどね。それに、こちら側に影響が少ないように指向性もつけてみた。
どばん、ぱんぱん。ぱぱぱぱあん。
「ファンラン、エーク、こっちまで撤退!」
「承知でござる! メティーオ、主についてくるでござる!」
「おおおおろせえええええ!」
「きゅい!」
爆発音に紛れて大声で呼ぶと、ファンランはしっかり聞き取ってくれて……あ、王帝陛下を肩に担いだ。そのままエークと、そして素直についてくるメティーオも一緒に後退してくる。
とりあえず、『敵のど真ん中』からファンランたちと、そして王帝陛下の回収には成功した。ゴルドーリア部隊は、どれだけがんばれたかな。
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