109.物理的に確保

「くおおおおおおおおおおおおん!」


 衝撃波を発射した次の瞬間、メティーオが突進する。それを、エークの衝撃波が迎え撃つ。


「ぎにゃああああああああああう!」


「ぎゃんっ!」


 威力がほんの少し、エークのほうが上らしい。弾き返された衝撃波はメティーオを直撃、もんどり打って倒れる。まあ、勢いは殺しきれないからそのままエークに突っ込んでくるんだけど。


「しゃあっ!」


「ぴい!」


 そのごろごろ転がってくるメティーオに、タイミングを合わせてエークが爪付き猫パンチ……虎パンチなんだろうけれど、ともかく一撃をかました。見事に首筋に入ったから、メティーオの悲鳴も分かる。痛いよな、そこ。


「これ、メティーオよ! 妾の獣が、敗れることは許さぬぞ!」


 王帝陛下は、どうにかちょっとした岩陰に身を寄せてメティーオを叱咤している。というか、自分の使ってる魔獣なんだから負けるな頑張れ、って言ってるんだよな。メティーオに通じているかどうかはともかくとして。


「……ん?」


 ふと、王帝陛下の周辺になんとなくいやーな気配を感じた。結界の向こう側にいる、護衛部隊からのものだと思うんだけど。

 俺が気づいたということは、魔力の気配なんだと思う。俺が彼女にかけた防御魔術じゃなくて、まるで彼女を攻撃するような。

 あれは、と声を上げようとした俺より早く、シノーペが口を開いた。


「テムさん。王帝陛下、保護したほうがよくないですか?」


「シノーペ、そなたもそう思うか」


「はい」


 彼女は彼女で、何か気配を感じていたようだ。『捕まえる』じゃなくて『保護する』って言ってるあたりが、特に。


「やっぱり? 何か怪しいよね、護衛部隊と偽装魔術師」


「結界をぶち割りたい部隊はまあ、分からなくもないんですが。結界内に入っている連中、王帝陛下助ける気全くなさげなんですもん」


「そうであるな。あれは護衛というより……監視、万が一の処刑用部隊とも見える」


 シノーペの言ってることには、何か納得した。

 王帝陛下と同じ結界の中にいる連中、さっきの魔術師とかもそうなんだけど王帝陛下を守ろうとする意思が見えない。近づいたらメティーオとエークの戦闘に巻き込まれるから、というなら魔術師なんだから王帝陛下に防御魔術でもかければいいじゃん。俺みたいに。

 でも、それをしない。するつもりもない。魔術をかけるつもりなら、こっちが気づくより先に放てばいいだけだ。

 つまり、少なくともあの魔術師たちは、王帝陛下を守るためにいるんじゃない。テムの推測が正しければ、ベンドルの誰かの命令でいざというときに王帝陛下を……で、こっちのせいにすればまあ、ベンドルが侵攻してくる理由づけのひとつにはできる、と。

 それなら、よし。一番手っ取り早い保護方法を、俺は取ることにした。


「ファンラーン! 王帝陛下、縛っていいぞーーーーー!」


「任せるでござるうううううう!」


 さっき部隊の気配が消えたところより少し奥から、ファンランの声が聞こえた。

 エークは……あ、メティーオに首筋に噛みつかれてる。鷲の頭だから歯はないと思うけど、くちばしで噛みつかれるのって別の意味で痛いよな。


「……は?」


 あーうん、王帝陛下、ぽかんとしてるのは分かる。いきなり、自分を縛っていいぞとか叫ばれてもわけわからんだろうし。

 それから、他にも潜んでいたらしい魔術師たちが一斉に魔力を高めてきたのに気づいて、周囲をきょろきょろ見回す。


「そ、そなたらいつからそこに?」


「あ、いかん」


 魔力の使われ方に気づいたのか、テムが詠唱なしに結界を発動する。狙いは王帝陛下、彼女を取り囲むことで危害が加えられることを防ぐわけだが。


「がああおうううううう!」


「ぎゃああああっ!」


 と、エークがまたも衝撃波を放った。ただし、自分に噛み付いたままのメティーオにではなく、潜んでいた魔術師たちの方に。


「あ、魔術防御結界!」


 よくわからないけれど、とりあえずエークたちを囲むように結界を展開する。あの魔術師たち、エークにも攻撃を仕掛けてきた……いや、あれもしかして、エークにもだけどメティーオにも?

 だってメティーオって、王帝陛下が使役してる魔獣だものな。主である王帝陛下を狙ってるっぽい連中なら、そりゃ使役獣にも攻撃するよなあ。


「エークリール! そのままメティーオを確保しておけ!」


「ぐわう!」


 テムの指示に、エークは任せろと言う感じで吠えた。シノーペが「後で怪我見てあげるからねええええ」と叫びながら結界増強しまくってるのはまあ、わからんでもない。というかマジで助かる、結界と魔術使いまくってるからちとしんどいんだよね、俺。


「しば、縛るとはどういうことだ! 妾を、ベンドルの王帝、世界の帝クジョーリカに対し、不敬であるぞ!」


 でまあ、状況を多少把握できたらしい王帝陛下が叫ぶ、その背後に。


「王帝陛下故、芸術的に縛って差し上げるでござるよー!」


「ひ、ひいいいいっ!?」


 しゃきーん、と縄を構えたファンランが出現した。ここまでどれだけお片付けしたんだろうな、こっちの部隊の人たちに後で報告書もらおう。

 それから王帝陛下、すみませんが身柄を保護させていただきますね。いやはや、ファンランの手際、めちゃくちゃ良いな。うん。

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