79.魔術
「マスター。そなたは背後に集中せよ」
全身からきらきらと光の粒を撒き散らしながら、テムが俺に言ってきた。
後ろの部隊にはシノーペがいるけれど、それでも俺が行ったほうがいいわけか。なるほど、テムは前方を任されてくれるわけだ。
ならば、お願いすることにしよう。
「分かった。テム、旧王都側は頼んだよ」
「任せよ。サファード」
「僕も背後側に気をつけますね。君には、王都側の指揮をお願いします」
「は、お任せください!」
「え、サファード様こちらですか?」
って、おいおいおい。いやまあ、旧王都防衛は見た限りなんとかなりそうなんだけどさ。テムがあちらに集中するなら、防御はまず完璧だし。
だからといって、サファード様がこちらに来られるのは……あ、敵を斬りたいんだなそうなんだな?
「本命の方は、終わりかけていると見て良いと思います。神獣様があちらを見ておいでですから、我が軍や旧王都軍には大した損耗はないでしょう」
「ですねえ」
ああやっぱり。
旧王都側についてはサファード様もそうお考えのようだし、取り替えたばかりの剣を手にぶら下げているからやっぱり斬りたいんだな、この人。さっさと片付けて、メルランディア様のところに帰りたいんだろう。
「ランディスさーん、助けてくださーい! こっちは結構大変なんですよー」
一方、後方部隊からシノーペが半泣きで声を投げてきた。いや、お前さんも今がっつり土魔術で敵兵にアッパー食らわせまくっただろうが。馬や魔獣がひっくり返って、乗っていた兵士たちが地面に投げ出されているぞ。
「とりあえず、結界を魔力で強化するから! あと、今の魔術連打できる?」
「あれくらいならいけまーす!」
「進行妨害できるから、よろしく!」
「おまかせでーす!」
……半泣きだったはずなんだが、すっかり機嫌を直したな。シノーペの能力は王都守護魔術師団でも高かったんだし、大丈夫だと俺は思ってるんだよな。まあいい、ひとまず結界の強化をしてと。
「魔術師もいますね。サファード様、防御魔術かけておきますんで程々にお願いします」
「ありがとうございます。エーク君が参戦してくれましたから、なんとかなるかもしれませんが」
「……副官さん、そりゃ苦労しますよ……防御魔術、タイプ物理、魔術及び遠距離攻撃回避、強化」
止めても止まらない我らが司令官殿に、がっつり防御系の魔術をかけておく。物理も魔術も、あと遠距離からの攻撃は反らせるようにしておいた。
俺は魔術師で、直接戦闘の技量はまあないに等しい。だから、サファード様についていくとお荷物にしかならないんだよね。なので、ここで状況を見て援護するのが一番サファード様のためになるだろう。
「ぐわおうううう!」
それと、サファード様がおっしゃった通りエークが参戦してくれたのがこちらにとっては大きいだろう。テムとガチでやり合った魔獣の分体、つまり子供で何だかんだで能力は高い。何しろ、今のひと吠えで十人近くが吹き飛んだもの。
「おのれ、魔獣が!」
「ぐわあああう!」
さすがに、相手側にも魔術師がいて即対処してきた。エークの吠え声は、要は風魔術だと思うんだよなー……だから、魔術系を防御すれば影響は軽減される。
「ぎゃおう!」
「うわあっ!」
「ひっ!」
そして、エークの方も即座に対処した。つまり、魔術師を直接爪と牙で攻撃したわけだ。何しろ、翼で飛べるからな。俺やテムの防御魔術で、それなりに防御力が上がっているせいであっさりと三人ほどを切り裂き、噛み砕く。
「よし、これでいくか」
その間に俺は、さっくりと敵の数を減らす算段を立てた。もちろん、部隊の兵士たちは頑張ってくれてるし、今サファード様二人ズンバラリンしたけど、結構来てるんだよな。ほんと、どこから湧いてきた、あんたら。
それはともかくとして。
お目当ては、俺たちが旧王都を狙うベンドル軍を後ろから奇襲するための隠れ蓑にしていた、丘。今はちょうど、援軍として俺たちの後ろにいるベンドル軍の足元に広がっている状態だ。
「土魔術。タイプ硬化、衝撃。範囲指定」
その丘に焦点を合わせ、魔力を流し込む。丘の土を固くして、そこに衝撃を与えればどうなるか。
「サファード様、後退してください!」
俺の呼びかけにサファード様が目を見開き、こちらを見る。自分の言葉を補佐するように俺が手で後退して、というふうに合図したら頷いてくれて、自軍に後退を命じた。
ベンドル軍の方は、空に舞い上がったエークが牽制と囮を買って出てくれている。そうして効果範囲内に、味方の者はいなくなった。
「……発動!」
がががががっ、と激しい音がして固くなった土に無数のひびが入る。あちこちが崩れ、穴が空き、落とし穴状態になってベンドル兵が足を取られたり落下したりとひどいことになった。いや、やったの俺だけど。
「ぎゃあああ!」
「あ、足がっ!」
「うわ、来るなあっ!」
見事に混乱したベンドル軍に対し上からエークが、そして目の前には態勢を立て直したこちらの軍が襲いかかる。これで多分、後ろは終わりだろう。俺とシノーペで、その手伝いをするために魔術を撃ち込めばいい。
「シノーペ、やるよ!」
「いきまあす!」
丘を崩したせいで、土なら山程ある。その塊を手にとって、俺とシノーペは同時に土の弾をどんどんと撃ち始めた。
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