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「雷魔術! タイプ落雷、行け!」
『ぎゃあああああ!』
分かりやすく司令官っぽい人が見えたので、そこを目掛けて魔術をピンポイントで落としてみた。当人と周囲にいた数名だけが見事にぶち当たり、倒れる。
「ふむ。マスター、微調整がうまくなったな」
「実戦が一番の訓練ですね。特にキャスバートくんの場合は」
のんきに結界を展開しているテムと、数名をズンバラリンして戻ってこられたサファード様の会話は戦闘中とは思えないものだ。ま、この二人じゃなあ。
「基本、実戦と縁のない仕事でしたから。風魔術、タイプ真空!」
こちらに接近してくる敵兵が見えたので、足を狙って魔術を撃つ。倒れた後は、他の人におまかせ。
まともに実戦するようになったのは王都を追い出されてからだけど、何かあっさり慣れてしまっている自分がちょっと怖い。ま、農民でも泥棒や山賊殴り殺したりしてるご時世だしな。農具の扱いをいろんな意味で覚えるのが田舎の風習、というか。
「と、結界強化します。何だかんだで攻撃は喰らってますから」
「我がやっても良いのだが」
「俺がやるよ。結局、人間同士の戦いだし」
「そこに首を突っ込んだのは、我の意思なのだがな」
テムの申し出を丁寧に断って、結界に魔力を流し込む。テムの結界やテム自身と、俺の魔力は相性が良くってすぐ馴染む。『ランディスブランド』の特性なんだろうけれど、今のテムは俺の魔力じゃないと拗ねる……なんてシノーペが言ってたなあ。
サファード様は、剣を取り替えていた。あーまー、人斬りまくってたら血とか油で使いにくくなるもんなってどれだけ斬ってるんですか。
「サファード様、あまり前線に行かれては……」
「兵士の後ろで命令だけしているような夫を、メルは望みませんから」
「サファード様ご自身には防御の魔術をがっちりかけてますから、大丈夫ですよ」
涙目の副官さんの肩を、思わずぽんぽんと叩く。メルランディア様と生まれてくるお子様のためにのんびりしていたいお人が、戦場に来たら自分が剣を交換しなきゃならないくらい暴れ回るんだもんなあ。
配下としては、一番後ろでおとなしくしててほしいよな、うん。でもそうしてくれる人じゃないので、防御魔術をしっかりかけまくって怪我がないように気をつけるしかないわけよ。
ちゅどどどどどーん!
「ん?」
「おお、上じゃな」
何か降ってきたのを、結界が受け止める。上空で爆発したのは……炎魔術か?
真上を確認すると、鳥魔獣の群れがこちらに向けて何かを降らせている。それが結界にぶつかって爆発を繰り返しているわけだ……爆弾か、魔術か火薬かは分からないけれど。
この辺はバッチリ結界があるけれど、戦場にあんなものを降らされちゃかなわない。もしかしたら、味方を巻き込むこと覚悟でやるかもしれないからな。
だったら、さっさと片付けよう。
「風魔術、タイプ真空、乱舞!」
真空の刃を、上空に大量に作り出した。それを、鳥魔獣の群れに飛び込ませてめちゃくちゃに暴れさせる。直撃すれば切り刻まれ、そうでなければ風の影響を受けてバランスを崩す。
「ぎゃあああ!」
「くわあああ!」
「……炎魔術、タイプ射出、シュート!」
そして、爆弾目掛けて炎の弾を撃ち出す。ばん、ばんばんと破裂音がして、上空でさっきの花火のような光がいくつも広がった。というかえらく誘爆してるじゃねえか、魔獣にどれだけ持たせたんだよ。
「我らがおらねば、効果的な攻撃ではあったな」
「通常の魔術師が展開できる結界であれば、防ぎきれなかったかもしれませんね。では、行ってきますか」
「サファード様!」
テムはやっぱりのんきだし……あれ、万が一ここに届いてもなんとかできる自信があるからだろうけれど。
サファード様は副官さんが止めるのを無視して再出撃しようとするし……いや、少しはおとなしくしてても誰も怒りませんから。
なんてことを考えていたら、テムがふと後ろを振り返った。あ、口元から牙が見える。
「サファードよ。後ろに出たほうが良いやもしれんぞ」
「おや」
テムがそういうってことはつまり、後ろから『ベンドルの援軍』が来てるってことだ。……遅れてきたとも言うかな?
次の瞬間、後方遠くに土の壁がどんどんとせり出し、すぐに弾け飛んだ。何かがぶつかって、その衝撃で壊れた感じだ。
「……ああ、射撃を土壁で受け止めた?」
「そのようですね。キャスバート君」
「はい。防護結界、行きます!」
サファード様が俺の名を呼ぶのにかぶせるように、後方にも結界を展開する。一応最初から張っておいたけどさ、薄くなってたみたいだ。
もしくは、敵援軍の攻撃が強いものか。
「ぐわう!」
「よかろう。あちらはそれなりに強者のようだ。魔獣エークリールの力、とくと見せい」
どうやら、後者だったようだ。虎エークが吠えたのは、自分が出るという意思表示。それをテムが許可した次の瞬間、コウモリの翼を持つ黒虎が地面を蹴り、飛び上がった。
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