20.一緒に行きましょう

 そのまま、サファード様とセオドラ様は俺の家までついてきてくれることになった。馬車の先導にセオドラ様、横にサファード様がついてくださっている。何というか、こっ恥ずかしいな、おい。


「ランディスのお屋敷は、いつでも住めるようにしてあるからね。キャスバートが帰ってくるって聞いて、姉上がお掃除の指示を出してたから」


「あ、そう言えば実家の管理してくれるって言ってましたね。小さい家なのに、申し訳ないです」


「気にしなくていいよ。王都を護る重要なお役目のために、君は家を離れたんですから」


 お二人からそんなことを言われて恐縮至極。というか、管理って泥棒入らないか見回りくらいかな、と思ってたんだけど……いや、合鍵お渡ししたけどさ。どうせ、貴重品なんて大したものないし。


「毎月人を入れて、窓を開けて空気を入れ替えたり庭の手入れもしたりしているの。今回はキャスバートが戻るって分かってるから、お花を生けたりしてるかもしれないわね」


「ブラッド公爵という方は、気遣いのある方でござるなあ」


 はあ、とファンランが感心したように声を上げる。あーいや、多分に誤解があるよな、これって。


「まあ、ランディスの家は親戚ってこともあるけれどね」


「身内に優しく外には厳しい、がメルの行動基準ですから。ですが、今回のことで王太子殿下に関しては見限ったようです」


 サファード様とセオドラ様の言われるとおり、メルランディア様は身内にはかなりベタ甘なんだよねえ。

 この場合の身内、というのは親戚と自分の配下と領民ということになるかな。俺は『ランディスブランド』の一人で、メルランディア様から見ると遠縁の親戚であり領民、ということになる。

 そもそも、『ランディスブランド』の始祖とも言える魔術師ランディスブランドがゴルドーリアの王女様を妻に迎えて興したのがブラッド公爵家の始まりで、だからゴルドーリアの王家も親戚と言えば親戚なんだけど……さすがに遠すぎるからな。


「そうすると、今後はどうなさるのでしょうか? 領内だけでも大変かと思うんですが、王都の護りがなくなったことが知られたら……」


「北のベンドル王帝国が動くでしょうね。うちは近いですから、常々警戒は怠っていませんが」


 シノーペの不安げな言葉に、サファード様が少しだけ深刻そうな声で答える。

 ベンドル王帝国、現在は北の小さな国なんだけど昔々は世界制覇の一歩手前まで行っていた軍事大国、らしい。今でもその時の栄光を取り戻すことが国是らしく、国境地帯ではたまに小競り合いが起きている。

 そして、彼らが世界制覇できなかった理由の一つが、今俺の目の前でごろーんと転がっている神獣だったりする。一応、当事者だから話は聞いたんだよね。


「何だ。あやつら、しつこいのう」


 その連中が未だに元気なせいで、テムは微妙に不機嫌である。まあ、自分の協力もあって北の寒いところまで叩き出した相手が、またこちらを狙っているとなるとなあ。なお、テムは寒いところは苦手。


「まあ、『ランディスブランド』の地に入ってくることは我が許さぬよ。マスターの故郷でもあるしな、領主とも協力するつもりではある」


「神獣様にそう言っていただけるとは、ありがたいことです。長きに渡り、赤い髪と赤い目をつなげてきたかいがあるというものですよ」


 テムがブラッド公爵家への協力をあっさり表明してくれて、サファード様もほっとしてるみたいだ。

 赤い髪と赤い目、『ランディスブランド』の特徴って結構目立つんだよな。アシュディさんのように名乗れなくても、ちょっとでも赤っぽい色だったりするのはだいたい遠い親戚。……栗色の髪のシノーペは違うんだっけ。


「そうそう。屋敷に戻った後で、ブラッドの家にも顔を出してほしい。キャスバートだけでなく、神獣様や他の皆も」


 と、不意にセオドラ様がそんなことを言ってきた。ブラッドの家ってつまり公爵邸か……いや、戻ってきたんだから当然、ご挨拶には行くつもりだったんだけどさ。


「姉上がぜひ、これまでのキャスバートの働きに対してお礼を言いたいようだ。それと、王都の情報を欲しがっている」


「ああ、そういうことでしたら」


「もちろん、情報提供は存分にするでござるよ」


「私もぜひ、ご挨拶したいです」


 俺もだけど、ファンランもシノーペもセオドラ様の申し出にはありがたく乗ることにする。実家から公爵邸までそう離れているわけじゃないから、馬車は家に置いていくことになるかな。……テムは猫姿になってくれれば、ここの人たちを驚かすこともなさそうだし。


「我も、『ランディスブランド』の地で世話になるのだから領主に挨拶するのは当然であるな。シノーペ、毛づくろいは入念にな」


「あ、はい、お任せください!」


 ……割とそれ以前の問題な気がしてきた。ま、考えてみればサファード様もセオドラ様も、獅子姿のテム見て驚かなかったしなあ。

 ブラッド公爵領ってゴルドーリア王国の北側にあって、魔獣もそこそこ出てくることがある。だから、大型の獣は見慣れているといえば言えるんだけど……ま、まあサファード様たちが一緒にいてくれるなら、テムを魔獣と間違われることはないか。

 そもそもテムの毛皮、虹色できらきらしてて綺麗だしな。

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