06.帰郷にお供が付きました
アシュディさんたちの食事が終わったところで、マイガスさんが俺に向き直った。非番のマイガスさんはともかく、アシュディさんまでお酒を頼んでどうするんだこの人ら。
「……キャスバート。今後、どうするつもりだ?」
「故郷に帰ろうと思っています。一日猶予をやるから王都から出ていけ、と宰相閣下に言われてまして」
どうする、と言われて答えはこのくらいしか出ない。部屋の荷物はシノーペのおかげもあって全部収納したし、仕事場に置いてあった荷物もアシュディさんが持ってきてくれたからこのまま行けばいい。幸いへそくりやら何やら、で資金はそれなりにあるからな。
「それが良いな」
「そうねえ。キャスくんのお顔、見られなくなるのは残念だけど」
「すみません。本当なら、テムにも挨拶して行きたかったんだけど」
マイガスさん、そしてアシュディさんは俺の返事に納得……はしてないみたいだけど理解は得られたようだ。
結局、テムに会うことないまま城から放り出されたのが心残りだなあ。でも、宰相閣下は俺が近くにいることすら不満だろうしな。
田舎に帰って、もう誰もいない実家を片付けて、その後は……ま、適当に考えよう。魔術師としてのお仕事探せば、何とかなるかな。そうでなければ、実家の庭で畑でもやるさ。
そんな事を考えてたら、シノーペが動くのが視界の端に見えた。あれ、と意識をそちらに移すと、妙に何かを決意したような表情になっている。
「……団長、先程のお話ですが」
「オーケー。今日付で休職届受理しておくから、とっとと行っちゃいなさいな。ちょっと待ってね、今月分のお給料先払いしたげる」
「は?」
え、なにいきなり休職? シノーペ、どうしたんだ……と思う間もなく。
「あの、シーヤ団長」
「……休職扱いにしとくぞ。理由は一身上の都合、でいいか?」
「よ、よろしくお願いするでござる」
「へ?」
何でか、ファンランも休職を申し出ていた。いや、このタイミングで二人とも、どうしたんだ?
「あの、どうしたんですか」
「シノーペちゃんね、おうちブラッド公爵領の外れなのよお。でもここしばらく帰れないし、それにお城の偉いさんがアレだしねえ」
「ブラッド公爵領?」
アシュディさんの言葉に、あれっとなった。
ブラッド公爵家は俺と同じ『ランディスブランド』の一系統で、テムに王都の守護を頼んだ初代特務魔術師の末裔らしい。テムの協力を得られた見返りというかなんというか、で当時の王女の一人を妻に迎え、公爵の位をもらったとか。
そんなわけで、ブラッド公爵領には今でも『ランディスブランド』の家系が多い。俺もその一人で、だから実家はブラッド公爵領内にあるんだよな。両親は共に亡くなっちゃったんで、空き家が残ってると思うんだけど。
でも、シノーペも故郷一緒だったんだ。そんなこと、話したことなかったからなあ。
「俺の実家も一緒ですよ」
「そうでしょ。だから、ちょうどいいから一緒に帰ってあげてほしいの。ここに来るまでにそうしたい、ってお話があってねえ」
「よろしくおねがいしますね、ランディスさん」
「は、はあ」
多分、それ以外にも理由はあるんだと思う。けどまあ、あんまり深く掘り下げてもなあと考えて、そこは聞かないことにしよう。近衛騎士を休職して帰省する、ってのがちと大げさだとは思うけどな。
で、故郷が同じだったらしいシノーペはいいとして、もうひとり。
「ファンランはどうしたんだ?」
「じ、自分は一度、王都以外の土地にも行ってみたかったでござる! それに、ランディス殿の御身も心配でござるし」
え、何で俺?
いやまあ、任務が任務だからあんまり王都から出たことない、ってのは分かるんだけどさ。でも、俺の身が心配だってのはよくわからない。単に、『ランディスブランド』嫌いの王太子と宰相が俺を王都から叩き出したかっただけ、って状況だろうに。
「ファンランの心配も分かるぜ。キャスバートを王都から放り出しただけで、あの二人が納得するわけがないからな……てめえらのやらかしを隠すために、刺客使ってもおかしくねえ」
「そこまで馬鹿だとは思いたくないけど、馬鹿だものねえ」
「え、やらかしなんですか、あれ」
俺の疑問に対して、二人の団長はかなり深刻な顔をしている。いや、でもあの二人、ちゃんと国王陛下から許可取ったって言ってたしなあ。あっちが権力使って、ちゃんと手続き踏んで俺を追放しただけで。
「まあ、ブラッド公爵領までは王都から時間かかるだろ。普通に考えても、道中は警戒したほうがいいに決まってる」
「そうそう。せっかくなんだからあ、この二人を一緒に連れてっちゃって? ね?」
う、マイガスさんもアシュディさんも身を乗り出してこっちに迫ってきてる。それぞれ違う方向に迫力あって、とても首を横に振れる状況じゃないって。
「よろしくお願いします、ランディスさん!」
「よろしく頼むでござるよ、ランディス殿!」
そして、当の二人も同じように顔を近づけてきてる。ああもう、可愛い子と迫力の団長から頼まれて、俺が断れるわけないだろうが。
「よ、よろしく、お願いします」
だから俺は、そう答えるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます