05.システムと相性バッチリ

「んで、アシュ。ファンランの分しか払わねえぞ」


「分かってるわよお。シノーペちゃんの分はアタシが持つわ」


 ちゃっかりサンドラ定食三つを注文したアシュディさんに、マイガスさんが視線を固定した。それぞれの部下の分はそれぞれの団長が払うってことか。……俺、マイガスさんにおごってもらったんだけどいいのかなあ。

 それはそれとして、だ。


「キャスバートの後釜、宰相がねじ込んできたんじゃねえのか」


「今朝、キャスくんの辞職と一緒に紹介されたわよ。ヨーシャ・ガンドル、宰相閣下の遠縁の魔術師」


 彼の質問にアシュディさんは、うんざりした顔で答えた。あーうん、俺もその人は知ってる。

 ガンドル姓で宰相の親戚なのは分かってたし、魔術師としての実力が確かなのも。少し前に、採用試験の結果振りかざした宰相が俺に向かって威張り散らしてたもんなあ……『ランディスブランド』の名前にしがみつく貴様より、ずっと立派な魔術師だって。

 でも、実力だけじゃどうにもできないもんってあるよな。シノーペが出世できないみたいに……これは宰相のせいなんだけど。


「『ランディスブランド』じゃないと、王都の結界は張れても弱いものねえ」


「あ、そんなこと言ってたなお前ら」


「はい。一度、テムに協力してもらってテストしたことありますから」


 その、『実力ではどうにもできないもん』をアシュディさんが指摘してくれる。その場にいなかったマイガスさんの言葉に、俺は素直に頷いた。


「『ランディスブランド』名乗れないくらいうっすーいアタシだと、システムちゃんってばちっとも本気出してくれないのよ? もー、キャスくんラブなんだからあ」


「私も見てましたけど、完全にランディスさんじゃない魔力ですねてましたもんね、システムさん」


 王都の結界を展開するために俺、『ランディスブランド』という血統が必要になる。……という言い伝えなんだけど念のため、そうじゃない魔術師が結界をはろうとしたらどうなるか、というテストをしたことがあるんだよね。

 アシュディさんのランダート姓は、遠い昔に『ランディスブランド』の主流から分裂した家系だ。今ではいろんな家系と混ざり合ったんで、『ランディスブランド』名乗れないんだけどね。

 で、テストした結果が……王都をがっちり守れるような結界を張るのは無理、と出た。俺と遠縁の親戚、ということになるアシュディさんで駄目なんだから、本気で親戚でも何でもない人だと……ま、分かるよな。

 にしてもテスト結果、ちゃんと書類にして提出したんだけどなあ。どうせ読んでないか、あの宰相。


「……あの、よろしいでござるか?」


 おっと。

 完全にこの話を知らないファンランが、いぶかしげな顔をして挙手してきた。というか、もしかして突っ込みどころはそこじゃなかったりするか。


「皆様方のお話を聞いていると、まるで結界を張る装置に意思があるかのように聞こえるのでござるが」


 あ、そこか。と考えるより早く、俺たちは全員答えていた。


「あるよ?」


「あるわよ?」


「ありますよ?」


「俺は直接見てないんだが、あるらしいな」


「はえ?」


 うん、ぽかーんとしてるファンランの反応はこの場合正解だよな。だって、結界展開システムの実際のところ見たことあるのって、歴代の特務魔術師と国王陛下と……あとテスト手伝ってくれたアシュディさんとシノーペ、くらいだもんな。

 ファンランは問題なさそうだ、と考えて俺はぶっちゃけることにする。というか多分、言っておいたほうが今後の王都のためにも良いような気がするし。


「装置というより、王都を守ってくれる神獣が王城の地下にいるんだよ。その子がシステムっていう名前なんだ。俺はテムって呼んでくれ、って言われてるんだけど」


「システム殿、でござるか」


「うん。俺や過去の『ランディスブランド』は、定期的にテムに魔力を提供することで結界を張ってる。むかしむかし、ゴルドーリア王家や初代の特務魔術師とそういう契約を交わしたんだってさ」


 テム……神獣システムの存在は、表沙汰にはなっていない。セキュリティの問題とか、あと周辺国にそれが知られたとして絶対に文句言ってくるから、とか。

 ま、他の国ってテムが張れるレベルの結界展開するのに魔術師を大量配置してるそうだからな。それをこの国はテムと俺だけでやってたわけで。今日からできないけど。


「本当はあんまり人に言うもんじゃないんだけど、アシュディさんとシノーペは協力してもらったしマイガスさんは人に漏らすような人じゃないから、テムにも許可はもらったんだよね。……ま、ファンランも大丈夫だろ。テムに会えたら、謝っとかないとなあ」


「なんと……そういうことでござったか」


 テムからしてみれば、俺が信頼できる相手なら話していいよってことだったんだけど。

 で、話を聞いてくれたファンランは少し考えて、それからひとつ頷いた。


「つまり、特務魔術師が『ランディスブランド』でなければならない理由とは、その神獣システム殿が『ランディスブランド』と契約を交わしておりかつ、その方々を好んでおられるから……ということでござるかな」


「そうみたいねえ。あと、魔力の相性もいいみたいよ」


「ランディスさんの魔力をもらってシステムさん、ものすごく元気になってましたからねえ」


 ああ、そんなことをテストの直後に言ってたな、二人とも。

 しかしそうすると、今後どうなるんだろうな……テム、絶対怒るよなあ。

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