第44話 堀川さんの不調を心配して
堀川さんの不調を心配して取り囲んだミキとヤミ。まあ、心配は心配なんだが、ミキとヤミは一条学園の生徒からは絶対の信頼を得ている。そんなミキとヤミが俺をサポートするとなれば、堀川さんもさすがに出過ぎたと考えるだろう。
問題は先ほどから、この俺に、客席からピリピリと肌をさす殺気を向けている奴がいることだ。ここまで威圧が放てるやつとなれば、神に近い奴じゃなきゃ無理だよな?
その殺気の出所を探せば、そこには目が血走った斑がいた。
ヤバい。しかも瞳には、爬虫類のように縦に目を細め、不快な爬虫類の目を模したエンブレムが浮かび上がっている。そして、口角を上げた口元が怪しい動きをした。
て・ん・か・い・?! 読唇術ができるわけじゃないけど……、あれは波紋領域を展開した?!
そう思ったのもつかの間、斑の体はドロドロと溶け始め、周りのクラスメイトや座席、さらに床まで吸収して、表面をボコボコと気泡が蠢く悍(おぞ)ましい塊に、先端がヤツメウナギのような牙を持つ無数の触手を生やした化け物に姿を変えていた。
こんな名状しがたい化け物を、無駄に描写すること0コンマ1秒。その間にも触手は周りの生徒に手を伸ばし、まるで大蛇のように生徒の全身を締め上げ、手足はあらぬ方向に曲がり、頭から丸のみしているのだ。
「ミキ、あれは?!」
「初めて見る神です。いや、あれを神と呼んでいいものか?」
「ミキ、そんなことを考えている場合じゃないぞ、あいつの捕食を早く止めないと!」
「そうですね。このホール全体が奴の波紋領域です。私たちも波紋領域展開しないと」
ミキの発言中に、すでにヤミの瞳にはエムブレムが映し出されている。それは促したミキも同様だ。
「ああっ、早くしないと奴の領域に飲み込まれちまう。波紋領域展開、無明冥獄!!!!」
「波紋領域展開、 極光聖天!!!!」
そして、二人が飛びあがり、思いっきり舞台を踏みつける。
ダダーン!!!!
歌舞伎の大見えのような姿で、音を反響させると二人が闇と光に包まれた。このままだと、二人が混じり合ってしまう。第三の敵と戦うんなら、それぞれの力を相殺させるわけにはいかない。
俺も眼帯を右目から左目に変えた。そして、左手の甲を右目の前にかざす。
「波紋領域展開、虹霓彩境(こうげいさいけい)!!!!」
バン!!!! 俺は右の拳で左の手のひらを叩き、音を反響させる。
光と闇の間に虹色の光彩が浮き上がる。光と闇をさらに浮き上がらせる。
まるで3人が入った表面が虹色輝くシャボン玉が、混沌が生み出した輪郭が滲んだモノクロの世界に、クッキリ浮き上がっていた。
周りを飲み込んだ斑の体は、もう直径5メートルは超える塊になり、そこから生えた無数の触手がシャボン玉を目掛けて殺到する。
そんな触手をミキとヤミは手刀で叩き落としている。じりじりと斑と距離を詰めるミキとヤミ。
「そろそろ本気を出すから!!」
伸びてきた触手を掴み引きちぎるミキ。そんなミキに呼応するようにヤミは数本の触手を纏めて蹴り飛ばした。
「全力でケリつけるよ!! 合わせろよ!! ミキ!!」
「任せて!!」
「「真・戦乙女神!!」」
二人の手の甲のエンブレムが立体的に浮かび上がり、そのエンブレムにそれぞれの眷属のエネルギーが、渦を巻き吸い込まれていく。
そして、虹色の虹彩を纏ったまま、二人の姿は大きく変化した。
ミキはたすき掛けにした羽衣が靡く白い巫女装束姿で、さらにその腕は6本に増え、1対は極光の鉾を構え、一対は極光の神剣を構え、一対は極光の三節混を構えている。
同じようにヤミもたすき掛けした羽衣がたなびく黒い巫女装束姿で、6本の腕を生やし、一対は漆黒の大鎌、一対は漆黒のチェーンソー。一対は漆黒の鞭を構えている。
床からは数メートル浮き上がり、神の力の解放がギアーを一段上げたみたいだ。
こうなると、さらに数と速さを増し襲ってくる触手を、ミキとヤミは圧倒的な手数で切り刻み、歩みを進めていく。まるで迎撃ミサイル、パトリオットだ。あと数歩で斑の本体にそれらの武器が届く!! そんなときだった。
ミキやヤミ、それだけじゃない堀川さん、ほかにも1年の経営戦略コースを中心に数十人のスマホから声が響いた。
「波紋領域、波状展開、六合終焉!!!!」
これは! 斑の声か?! くっ、これって昨日、斑が堀川さんのスマホを触っていたけど……、何かウイルスを仕込んでいたのか?! それに、それだけじゃない。そのあと、ディリリンと電子音が響いた。
絶妙の波長で、最大の効果で音が共鳴している。斑の波紋領域が強化されている。これ以上どこに領域を広げると言うんだ?!
俺が恐れた通り、斑の触手が活性化する。触手が分裂し襲い掛かるとともに、それに加えて、ミキとヤミが切り裂いてぼろ雑巾の様に床に散らばっていた触手が、再びウネウネと動きだし、ミキとヤミを襲う。
後一歩と言うところで、ミキとヤミが押し返された。ミキとヤミの壁のような斬撃をかい潜り、ミキとヤミの手や足に牙を立て、傷付けていくのだ。
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