第42話 なに、オーディションだと……
なに、オーディションだと……、やっぱり、何か演技をさせられるのか? 内田ってやつの話ぶりだと流行りのセリフを取り入れつつ格好つけて話す感じか? とは言え、考えを整理するには短すぎる。この調子だとすぐに俺の番まで回ってくる。
俺に合った、今流行りのセリフって……。
まだ、考えが整理できないうちに、とうとう俺に自己紹介が回ってきた。
「最後は、編入組です。無理やり引っぱり出されて不満じゃないですか?」
「僕は天野です。そんなことないですよ。大丈夫、僕、最強だから!」
「なるほど、天野君にとっては町でアンケート取られたぐらいのハプニングなんですね」
なっ、そう返してくるのか、まさか誰のセリフをパクったかわかって、返されるなんて……、しかも、ミキの返しで客席でも誰のセリフか分かった人が出てきたみたいで、クスクス笑う人も出てきた。こうなると、このネタで畳み込むのが正解! カラコンだと言えば、いくらでもごまかせるだろ?!
俺は、右目の眼帯に手を掛けた。
「領域てん……、――グエッ!!」
俺の顔面にヤミの肘がめり込んだ。
「ちょっと、この人は調子にノリ過ぎですね。会長、こんな人はほっといて、そろそろ本題に入りましょう」
「ミキさん。そうですね。さて、今回のオーデションですが、わが一条歌劇部の押しも押されぬ不動のセンター、烏丸京子(からすま きょうこ)さん、それに期待の新人堀川百合さんとの即興劇(エチュード)になります」
「ストーリーは誰もがうらやむ「降って湧いた美少女義姉と美少女幼馴染の修羅場編だ!!」
「「「「「うおおおおおおおっ!!!!!」」」」」
なんだよ?この盛り上がり。それに修羅場編って? ヤミの謎の煽り文句に、客席が異様な盛り上がりを見せる。
その声に答えるように女の子が飛び出してくる。一人は堀川だ、清楚なワンピース姿だ。そして、もう一人、赤い革ジャンにホットパンツ姿の美少女だ。どう見せるかを計算しつくされた立ち居振る舞い。演技のはずだけどそれを感じさせない自然な振る舞いにプロ意識を感じる。
この女性こそトップアイドルの烏丸京子。
この人をこんな風に分析できるのも、俺の周りにミキやヤミをはじめとするSSS級美少女に囲まれているからで、それ以前なら、この人が発する芸能人オーラに飲み込まれ骨抜きにされていることだろう。
それが証拠に、俺以外の4人は早々に即興劇で脱落してしまった。それというのも、オーデションで勝ち上がる条件は1つ、この二人を惚れさせる演技しろというのだ。
とても演技とは思えない毛嫌いする態度を見せられて、心が折れない男はいない。
この美少女を同じ人類と言っていいのか。プロトカルチャー!! アクトレス……、恐るべき人種だ。とまあ、あの侵略者と同じ感想を持ったわけだが……。
「それでは最後の挑戦者!! 天野ザギリさん。もはや、何分演技が続けられるかなりつつありますが……」
「ザギリ用の設定はこれだ」
ミキとヤミが紹介すると巨大モニターに設定が映し出された。
なるほど、「再婚相手の美少女義姉(烏丸京子)と美少女幼馴染(の修羅場」ラノベでありがちな設定というか王道だな。
設定がモニターに映し出された途端に雰囲気が変わった烏丸さんと堀川さん。すっと、烏丸が俺の前に飛びだしてきた。そして、堀川さんは俺の横そっとに寄り添ってくる。
烏丸さんが俺の顔をまっすぐに見つめてくる。
「あなたが、お母さんが言っていたザギリっていう人。聞いてたのと違ってさえない風貌ね!」
このセリフにどう絡んでいいのやら? 相手はプロなんだから烏丸さんに設定を説明させるべきだろうな。
「いや、あなたは誰なんです? いきなり、さえないって言われても……」
「何よ? あなた、お父さんに聞いてないの? あなたのお父さんと私のお母さんは再婚の話が進んでいたの。でも、あなたのお父さんが仕事中に交通事故で病院に担ぎこまれて、私とお母さんが警察に呼び出されて、病院にいたのよ。
だけど、さっき、息を引き取られて……」
そういうと、烏丸さんはツーッと涙を流す。それは本当に悲しみに沈んでいるようで、俺自身がこのシナリオに引き込まれていく。
「ウ、ウソだ。今朝はピンピンして会社に出かけたんだ。それなのに……」
「なに、動揺してるのよ。叫びたいのはこっちなんだから!! あんたのお父さんって死に間際に、お母さんにあなたのことを頼むって……。冗談じゃないわよね。なに勝手なこと言ってるのって感じ」
「――」
絶句するしかない。普通なら相手の剣幕に恐れて謝るべきなんだろうが、そこは相手の感情に鈍感になっている俺だ。
「なに、黙っているのよ」
「悪い。だけど、こっちから頼んだわけじゃない。親父が迷惑かけたことは謝っとくけど、そっちには迷惑はかけない。俺だけで何とかするから」
「そんな強がり言っても、高校生がどうやって一人で生きていくのよ!!」
「他人に心配されることじゃない」
そこで、俺の隣にいた堀川さんが俺の腕をとったのだ。あっ、そうか幼馴染と一緒に家に向かって帰っているシチュエーションだったけ。
「天野さん。そんな言い方はないと思う。おじさんの最後を看取った人に……。でも、おじさんはほんとに死んだの?」
今にも泣きそうな顔で、俺の方を見た後、今度は烏丸さんの方を見て尋ねたのだ。
この役はあて役だな。元々おせっかいな堀川さんは、この役に没入してしまう。だとすれば、斑のような態度をとればいいんだ。勝ち筋が見えた。
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