第41話 やがてビートを刻むドラムが
やがて、ビートを刻むドラムが最高潮に達し、決めポーズを取る中、曲が終わった。
額に玉のような汗をかき、顎先から滴が垂れる二条会長が、同じようにほほを上気させたミキとヤミを伴って、舞台の最前列に出て来た。巨大モニターに映ったやり切った表情はそれだけで絵になる3人だ。
その他のダンサーたちは舞台袖に戻って行ってしまったみたいだ。
そんな中、二条会長が再びマイクを取った。
「ストレス解消できた? 楽しんでもらえた?」
「「「「「うわあぁぁぁぁあー!!!!」」」」
みんな歓声を上げ、拳を振り上げる。もちろん俺だって。
「応援ありがとう! こっちもテンション上がって、思わず大事なオーデションの募集をシャウトしちゃった。えへっ!!」
舌を出しながら頭をコツンと叩く。
「もう、会長って、本当は内緒のイベントだったのに……」
「いいじゃん。みんな、ノリノリで、手が上がったんだから」
ミキとヤミが話すんだけど、内緒のイベント……、手を上げる……?
その疑問は直ぐに解消された。
「じゃあ、歌劇部の秋の文化祭の舞台に立つオーディション参加者を発表するよ」
「会長~、ワクテカですねぇ」
「選考基準は、やる気のあるやつだよな?!」
「ヤミちゃん。もちろんよ。演技力が必要なのよ。アピールしているのがこちらにビンビンに伝わってくるようでなくっちゃね」
「なるほど! じゃあ、オーディション当選者は?」
ミキがそう言ったところで、ダダダダダッとドラムの連打だ。所謂、当選発表とかに時に鳴るやつだ。
アピールしたもん勝ち?! 会長がシャウトで募集した?! ノリノリで手を上げた?! それって嫌な予感しかしないんですけど……。
ドラミングのタイミングを見計らって二条会長が口を開く。
「やっぱり、野郎が多いわよね。芸能科の女の子と文化祭で共演できるし、それがきっかけで仲良くなれるかだもんね。じゃあ!!まずは上級生から、内田信也、井沢陽介、後は内進組、新入生の秦浩二、秋山健一この辺りはこのイベントの内容、知っているからね」
二条会長が名前を呼ぶたびに歓声が上がり、男たちが舞台に飛び出して行く。けっこうなイケメンで、手も振る動作も様になっている。訳知りの目立ちたがり。ひょっとしたら常連なのかもしれない。
「ねえ、会長、このイベントの趣旨も知らないで、なりふり構わず拳を振り上げていたバカにもチャンスを!!」
「確かに!! ヤミ、素晴らしいです。手を挙げてアピールしてましたからね。マンネリを打破する新しい風も必要です!!」
そこの双子、それ棒読みだから……。
「確かに、予定調和の世界にイレギュラーが華を添えるわけですね」
「「サプライズ!!!!」」
いや、そこの双子、サプライズでも何でもないから、何を企んでいるか大体わかった。お前らそれは出来レースって言うんだ!!
「じゃあ、最後の5人目は、何も知らない編入組の中で一番目立っていた人にお願いしよう!!」
(うわぁ~、ヤバい。これは嵌められた、絶対……)そんな言い訳が悪魔のような三人娘に通用するはずもなく。
「「アマノザギリ君!! 君に決めた!!」」
俺に向かってビシっと壇上から指さしてきた。何だよ、そのセリフ?!俺はポ〇モンじゃねえぞ。
「一条家のお嬢様からご指名とはなんという幸運!! さあさあ、早く壇上に上がってきて」
そんな幸運要らねぇし……。周りからは嫉妬の目に、一部憐みの目を向けられているし……。哀れみの視線の連中は、これから何が起こるか知っているんだ。
どっちにしてもいいことはなさそうだ。
「アマノ君!! 早く上がってきてください。それともお迎えが必要ですか?」
二条会長の声とともに、舞台袖からチアダンの衣装を着た女の子数人が舞台から降りてこようとしている。
いやいやいや、これ以上目立つと立場が悪くなるので勘弁してくれ。
舞台から降りて来た女の子たちが差し出す手を申し訳なく思いながら断わって、俺は渋々舞台に上がったのだ。
舞台には先に名前を呼ばれた四人が整列していて、俺を値踏みするような視線で睨んでくる。敵愾心満々な嫌な雰囲気だ。そんな中、二条会長に促され、俺はその四人の隣に加わった。
「まずは五人に自己紹介をしてもらいましょうか?」
そう言って、二条会長が俺とは反対側の男にマイクを向ける。
「僕の名前は内田信也っていいます。三年間アピールし続けて今回初めてチャンスが巡ってきました。オーディション対策はバッチリです。「全集中の呼吸でレディーパーフェクト」で頑張ります」
「僕は井沢です。……」
なに、オーディションだと……、やっぱり、何か演技をさせられるのか? 内田ってやつの話ぷりだと流行りのセリフを格好つけて話す感じか?
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