第40話 俺は昼休みを利用して


 俺は昼休みを利用して、クラスのみんなと学園調布駅の反対にある一条大学に向かっている。なぜかと云うと、部活オリエンテーションは、一条大学の一条文化ホールで行われるからだ。

 わざわざ、俺達高等部が大学まで出向いてきたのは、派手好き、イベント好きの二条生徒会長が、一条学園らしく、度肝を抜くオリエンテーションの演出は、この一条文化ホールでこそ完成形になるという方針だからなんだけど……。まあ、ろくなことにはならないだろう。

 それが証拠にミキとヤミは二条会長に呼び出され、生徒会を手伝うために文化ホールに先に行っているのだ。まあ、「先に行く」と俺に声を掛けた雰囲気は、肝試しの脅かし役みたいな感じだったな……。

 この一条文化ホールは本格的な音響に照明など舞台装置が整備され、ひな壇状になった3000席もある客席が自慢だ。

 西の宝塚歌劇団と人気を二分する東の一条歌劇団の本拠地であり、その劇団員の出身校こそ一条学園高等部芸能科であり、芸能科の全員が所属している歌劇部が部活動のオリエンテーションの目玉であり、その一点だけはミーハーな俺も楽しみにしているのだ。

 高等部の芸能科は、授業内容が芸能全体に比重が置かれていて、すでに芸能界で歌手や女優として活躍する生徒もいる中で、それでも芸能科の少女が一条歌劇団の舞台を踏むことは叶わない。その演技力は高校の演劇部を軽く凌駕しているとしてもだ。

 それはなぜか?

 高校生では一条財閥のイメージを背負うのは未熟すぎるのが一点だ。

 驚くことに、一条財閥がスポンサーとなるテレビ番組やCMなどの広報を担うのは、一条歌劇団なのだ。当然、これらCMなどに出ている芸能人が一条財閥の企業イメージを担うのだ。

 よくある不倫だ、未成年の飲酒に喫煙だ、それに不純異性交遊だと、これらのスキャンダルに足を引っ張られる企業の多いことか。それほどCMにでている芸能人って企業の顔といっても過言ではなく、そんなスキャンダルが起これば、企業の顔に泥を塗ることになり、企業の大きなダメージになるのは必至だ。

 そう云えば、最近、憲法でどこかの国の象徴と言われているアラヒト神の身内が、どうにも怪しげないじめにクレカ疑惑、結婚詐欺に遺族年金詐欺、反社との付き合いに周りが自死と疑惑のオンパレードの彼に入れ込んで、一族にふさわしい箔を付けようと色々と血税を私的につぎ込んだ挙句、その疑惑を説明することもなく、国民の大多数が反対する結婚に着く進んでいるとか……。そのおかげで象徴一族のイメージも駄々下がりで、象徴廃止の憲法改正の声まで上がっているとかいないとか?

 まあ、たった一人のマイナスの印象で象徴一族は泥にまみれたようで……。これって、象徴が泥にまみれたってことは、その国に住む国民に泥を塗り、世界中から嘲笑を受けるってことにならないか?

 それほど象徴のスキャンダルっていうのはダメージが大きいわけで、そうならないように、自分の立場と責任を教育と称して叩き込んだ自分たちの子飼いを企業のイメージづくりに利用するとは、ここでも、一条学園の一条財閥の訓練校としての実体が浮かび上がってくる。強固な一条学園と一条財閥の企業理念が生きているわけだ。


 もう一点、その歌劇部は一学年二〇人総勢六〇人の芸能科に加えて、一般の生徒も参加しているのも好感が持てるところだ。

 特に出演者としてではなく、音響や照明の裏方や、脚本それに演出家などクリエイターとして一般生徒も積極的に関わっていて、高等部での活動では、決してプロとして歌劇団の舞台に立つことがない代わりに、歌劇部は、高校ダンスコンクールや演劇コンクールなど高校生として大会に参加し、華々しい成果を上げているのだ。


 文化ホールに入れば、広い客席には一条学園の中等部と高等部の制服を着た生徒、それから大学の歌劇団の指導者らしい服装をした人もいるみたいだ。三〇〇〇の客席はほぼ埋まっている。

 ざわつく客席の中、俺達一年生はこの中ではVIP待遇みたいで、舞台の近くの席に案内される。って言うか経営戦略クラスは最前列に誘導された。

 この最前列って……、このイベントにミキとヤミが絡んでいるだけに、俺はメチャクチャ嫌な予感がするんだけど。まさかね。

 背中に悪寒が走ったところで、ホール内のライトが突然消えた。

 そして、今度は舞台の上にスポットライトが当たる。そのライトに浮かびあがるのは胸にITIJYOの金文字が浮かび上がる白を基調にしたチアダン風衣装を着た二条会長だ。

「おまえら~、今日は楽しんで、最近遭った嫌なことは全部ここに吐き出して行けよ!! 若いからこそ、やりたいことに全身全霊でぶち当たれ!! 一条の生徒として恥ずかしくない軌跡を残せ!!!!」

「「「「わあああああ~!」」」」

 二条会長の呼びかけに歓声があがる。

 間髪入れずに、七色のサーチライトとレザービームが舞台と客席を縦横無尽に動き回る。

 そして舞台の上に浮かび上がったのは五〇人を超える人影。そして、舞台の上で仕掛け花火が吹き上がり、ダウンライトが舞台を照らす。それにあわせて激しい音楽が流れるとその人影たちがうねる様に動き出し二条会長を飲み込んでいく。舞台にもひな壇が在って、立体的な立ち回り、その後ろには巨大な液晶モニターが……!

 まさに一条学園のステータスシンボル、オリエンテーションの冒頭からいきなり始まったストリートダンスショー。流行りのヒップホップの楽曲か?をバックに、チアダンス風衣装でそろえた数十人のギャル風メークのJKが激しいステップとコミカルなパフォーマンスを繰り広げる。

 とセンターでキレッキレのダンスをするミキとヤミ。

 可愛い女の子の集団の中でも群の抜く容姿と躍動美。さすが一条財閥の広告塔に恥じない二人だ。

 周りの声援も凄い。声援と云うよりオタゲーだ。特に中等部の女子辺りは前に出てきて、舞台にかぶりつき、サイリュウムを舞台向かってに全集中で振っている。


 盛り上がるにつれ舞台と客席とが一体になっていく。二条会長のシャウトに、俺にやたらアイコンタクトを送ってくるミキとヤミ。もっと盛り上げろということか?!

 嫌々手を上げると、もっとという様に両手で煽ってくる。少しはノッってやらないと……、一生懸命踊っている三人に対して冷めた態度だと悪い気がして、少し大げさに俺もこぶしを突き上げていた。

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