第38話 親だけじゃねぇ!!
「親だけじゃねぇ!! このクラスの奴らだって同じだ。相手にするだけ損。気ぃ使って、自分を殺して、自分の感情を抑えて、人に譲って……」
斑の声は怒りに震えている。それに感情が高ぶったのかガタンと大きな音を立てて斑が席を立ったのだ。
その瞬間、クラスに緊張が走った。堀川さんが慌てたように斑の腕を掴む。この怒りが堀川さんにクラス委員を押し付けたクラスの人間に向くと思われたんだが……。
「そんな生き方、――やめろ!!」
斑は机を両の拳で叩きつけた。そして堀川さんに非難の目を向けるのだった。
だか、堀川さんは斑のそんな態度にも動じない。むしろ、強い意志を持って反論した。
「そんなのあなたに決められることじゃない! 私は人の役に立ちたいの! あなたみたいな自分勝手な人と一緒にしないで!!」
「依存されてるのに気付かないのか!! バカが!!」
――? ほーぅ、斑が腹を立てている対象はあくまで堀川さんなんだ。
しかも、堀川さんに向けた一言。依存されていることに喜びを感じる共依存体質であることを指摘しているし、そのことが我慢ならないみたいだ。
社会的に観れば、こういった依存労働と云うのは、依存する側は依存するだけであり、その見返りなど決して期待できない。そんなことは織り込み済みで、依存されることで自己を肯定して、存在意義を求める人間が信じられないことに一定数いるのだ。
依存する側と依存される側、共依存と言われる関係だ。
斑は依存する側を攻めるんじゃなく、依存される堀川さんを攻めているんだ。
確かに、自己中で人を支配しようとする斑にとって、堀川さんの態度や考え方は自分とは正反対でイラつくんだろうけど……。
なんで、そこまで怒るんだ。斑にとって堀川さんも赤の他人の一人だろうに……。
俺の心の疑問の声が聞こえたのか、ミキが俺の肩を突っつく。
「まあまあ、あれって、斑は堀川さんに特別な感情を持っているってことよね?」
「特別な感情? それは恋とかっていう意味?」
「それはどうかな? 昨日の態度を見ると、斑ってストーカーみたいだよね?」
そこはなぜ疑問形? 堀川さんの家にまで押しかけ、他人のスマホを触るところを見ると間違いなくストーカーだよな。俺はミキに向かって軽く同意する。
「堀川さんは斑にとって他人じゃないんだよ」
「他人じゃない? それは恋愛対象っていう意味で?」
「恋愛感情よりヤバイわよ。だって相手に対して情なんてないんだもの。他人とのボーダーラインが曖昧な過ぎてね」
「他人とのボーダーライン?」
「えーっと……、なんて云えばいいかな? 自分と相手との境が曖昧……、ストーカー気質の一つで、ストーキングを受けた被害者が最も困難で危険に陥るタイプの精神疾患ね。
境界型人格障害、ボーダーライン型と言われ、人格の成熟が未熟で、自己中心的。相手の立場になって考えることが出来ないタイプで、そう言った意味で、相手が自分と考えが違うってことに思いが及ばない。同じ考えだから、相手を支配して構わないとするところに特徴があるのよ」
「はあ~、また、境界ですか?」
俺の神性とは言え、境界があるっていうのは、色々大事なことらしい。その神が堕天して現世で境界が曖昧になってために、色々迷惑を掛けているようで申し訳ない。
反省しているところに、トドメを刺してくるのがヤミだ。
「ザギリ、こういうタイプの人が増えているのは間違いなく、あんたの責任だね。神界で起きたことは、いずれ現世の下界で起きちゃうから」
確かに仏教じゃ、神界を常世(とこよ)、現界を常世を写した世界という意味で現世(うつしよ)って言うけどさ……。いやいや、俺が現世に落ちたのって、ミキとヤミが揃って堕天した、そのとばっちりだと云っていたよね!
自分たちの所業は棚上げですか?
「まあ、でも、堀川さんとクラスのみんなとの関係だと、依存労働というボランティアで済む話でもあるんです」
「依存労働?」
ミキの話だと、こんな状態でもクラスの関係だと問題ないと言いたいんだろうけど……。
「ザギリさんの立場じゃわかりにくいかもです? 依存労働って、もともと依存される側から依存する側への一方的な労働の提供であって、依存する側に対価を求める労働じゃないんです。それどころか依存されることで自己のアイデンティティを確立させている状況でもあるし、企業の経営者側とすれば、依存する側の人が別の場面で依存される側になるのがベストです。
そんなふうに依存が順繰り送りで組織の中で完結する環境がベスト。そんなふうに苦手なことを周りの得意な人に任せられるのなら、共依存だって悪い結果じゃないのです」
「俺には難しいことは分かんないけど、クラス役員の選考は出来レースだっていうのはわかるさ」
「そう、でもあなたたち編入組にとっては、仲間内の共依存関係というよりは、生徒会っていう権力者の横暴に取られても仕方ないよね」
「まあ、横暴っていうよりクレーマーかな?」
「へぇー。クレーマーって……、ザギリにも生徒会の親心が分かっているじゃない。今の労働者のメンタルが弱いのは感情労働を強いられているからなのよ」
ヤミが俺とミキの話に割り込んでくる。
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