第35話 こんな住宅街の真ん中で
こんな住宅街の真ん中で、コートにサングラス。俺も十分怪しい。姿が消せるなら、俺も試しにやってみるべきだろう。
『波紋領域展開! 虹霓彩境!』
指を小さく鳴らしてみる。俺を中心に波紋が広がるが……。
あっ、不味い。波紋領域がどんどん広がって行く。俺は慌てて指を鳴らす。波紋が消え周りが元に戻って行く。
うーん。斑はどうやったんだ?
残念ながら、遠すぎて斑がなにをやったのか分からない。波紋を体内に押し届けるイメージ? いや違うな。波紋領域は神の領域なんだから、神と肉体が重なるイメージか……。
分かった。俺の神名って……。
『波紋領域 展開! 籠目狭霧(かごめきょうむ)!』
自分の耳にギリギリ聞こえるぐらいの音を鳴らす。そして、音の広がりを自分の肉体の輪郭に重ねるイメージをする。まさに自分の肉体を籠に見立てて、波紋領域を展開する。
確認のために、自分の手をみると、陽炎のように自分の手が揺れている。
どうやら正解だったみたいだ。3次元のこの世界は変わらず、俺だけが重なりの高次元に存在する。これで他人に見られることはない……。
さて、斑の奴はというと、微動だにせず、2階の窓を見つめている。この雰囲気、怖い……、瞳孔開きっぱなしだし。
透けて見える部屋の中身はいたってシンプル。しかし、壁に掛けられているのは、一条学園の制服だから、この部屋が堀川さんの部屋なんだろう……。
それにしても、斑以外全てが半透明。斑が素っ裸に見えるのはこの際無視して……。いや、堀川さんの服は半透明なんだけど、堀川さん自身も半透明なのは良かったような残念なような……。
堀川の部屋を凝視するって……。
あいつ何を見ているんだ? 斑の活神眼って、俺と違って生物も見ることが出来るのか? それはそれで俺としては羨ましいだけど……。 もっとも肉体を持つ生物は高次元に存在できないと聞いたはずだが……。
誰も俺の疑問に答える者はいない。俺も電柱の影で空気になっていた。
そこから動くことも出来ずに5時間以上、時計を見ると深夜11時を回っている。
そして、やっと斑が動いたのだ。堀川の部屋の電気が消えた。
それを見た斑は二階に飛びあがると、堀川の部屋に壁抜けで入って行った。なるほど、3次元の障害物は通り抜けることが出来るのか。幽霊みたいなやつだな……。まっ、高次元の神の領域に存在しているわけだから、何でも有りだな。
こっちも、透視しているわけだし。
で、部屋を動き回る斑は立ち止まると、なにかを操作しているように見えた。
あのシルエットはスマホを操作しているみたいだ。なるほど、3次元に在る物質は波紋領域内に取り込むことで掴むことが出来るのか……。
斑のおかげで、波紋展開の応用編を体験できた。今後、色々試してみよう。
あれ? 波紋展開って限度があったような……。
大事なことを思い出した途端、体が鉛のように重くなり、頭がクラクラ、眩暈さえしてきた。限界の一歩手前で、斑が部屋から出てきて、塀を通り抜けて来た。
周りを確認していたが、どうやら俺には気が付いていないみたいだ。反対方向の駅の方に向かって歩き出した。
やっと家に帰るのか? また、尾行をつづけなきゃ……。
俺は一歩踏み出そうとして、体のバランスを崩し、そのまま意識を手放したのだった。
頭に衝撃を受けて目を覚ますと、目の前には、黒髪と白髪の超絶美少女の二人が俺の顔を覗き込んでいた。
「うわぁーー!!」
「な、なんなのよ?!」
「てめぇ、起こしに来てやったあたしたちに対して、奇声を上げるとは、いい度胸しているな」
白髪の少女が驚いて後ずさると、代わりに黒髪の少女が指をポキポキ鳴らしながら、威嚇してきた。
「えーっと……、ミキさんとヤミさん?」
胸倉を捕まれながら、次第に頭がクリアーになって来た。
「ここは?」
「あんたの部屋よ」
「俺の部屋……?」
胸倉を掴まれながら部屋を見回すと……。部屋の隅に段ボールが積まれているのが目に入った。
そうだ、ここに引っ越してきて……、それで学校で斑に殴られて……、なんやかんやで斑の弱点を探すために、あいつを尾行していたんだった。それで、あいつが堀川の部屋から出てきて、また、その後をつけようとしたら……。
あれ、俺、そこから記憶がない? どうやってここまで戻ってきたんだ。
「やっと、頭が回り出したか? この役立たずが!」
「ヤミそんなふうに言っちゃだめよ」
ヤミを嗜めた後、ミキが俺の方に向いた。
「ところで、なんでザギリさんは道路の真ん中で寝てたのかな?」
「まったく、麻布ヶ丘まで何しに行ってたんだ?」
二人の問いに倒れる前までのことは思い出せた。
「いや、斑を尾行して、斑が降りた駅が麻布ヶ丘だったんだ。そこで斑が波紋領域展開して、堀川さんの家の中に入って行ったんで、俺も波紋領域展開をして、身を隠しながら何をしているのか見ていたんだ」
そうして、斑が尾行中にしたことを説明したのだ。
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