第34話 俺はサングラスにコートで

 俺はサングラスにコートで斑を追っかけているところだ。

 まったく、なんで変装までして斑を追っかけているのか? 浮気調査じゃあるまいし、こんなことで、斑の正体や弱点が分かるとは思えない。

 大体、あの姉妹、悪乗りが過ぎるって……。


 そんな愚痴を言いながら、斑につかず離れず付いていく。どうやら、駅の方に行くようだ。よく考えると俺は斑の家を知らない。このまま電車に乗られると……。まあ、探偵ごっこも終わりだな。

 斑が改札の中に入って行くところを見て、追跡を諦めた。そんなタイミングでスマホが震える。

 なんだ? スマホを覗き込むとSNSのメッセージが入っている。

「コートの内ポケットを確認せよ」

 コートの内ポケット? なんだ?と思ってコートの内ポケットをまさぐると、一条財閥関連の企業ではあらゆるサービスがフリーパスになるという伝説の一条ブラックカードが入っていた。

 こ、こぇ~っ! これ、どれくらいの価値があるんだよ? ショッピングもキャッシュも上限がない、政財界の一握りの人間ぐらいしか持てないカードじゃなかったけ……。

 それが証拠に、カードを改札でかざした途端、職員が恭しく礼をして、専用通路の方に誘導してきた。

 なんか、VIP用にそういう通路があるって都市伝説聞いたことがあるけど、今は斑を見失わないようにする方が先決だ。

 俺は軽く手を振って、心遣いは無用と拒否しておいた。

 このカード、スゲー、改めて一条財閥の凄さを思い知る。このカードでアッと言う間に地球の裏側まで間違いなく行ける。

 まあ、斑がどこに行くか見当もつかないが、所詮、通学圏内。そう考えて、斑が乗った車両の一つ後ろの車両に駆け込んだ。


 そこから、5駅目の麻布が丘駅で降りた。それにしても、斑の行動がおかしい。駅に止まるたびに、外を気にして、一旦降りようとしたかと思うと、また、すぐ電車に乗る。

 家に帰るんじゃないのか? そして、その不審な動きは駅に降りた後も続くのだ。時々立ち止まり、人に隠れるように右や左に進路を変える。

 誰かの後を付けている? こんな発想が出るのは、俺自身が斑を付けているからだが……。

 そう考えて、斑の先に視線を向ける。するとそこにはクラスの女子が……。

 あれは確か斑の席の隣の堀川さん。まさか、堀川さんの後をつけている? 理由が分からん! あいつがこそこそする理由がいっちょも分からん!

 あの短絡的な思考の持ち主が、堀川さんには言いたいことも言えず遠慮するのか? 

 まさか……、自分のお花畑脳を、頭を振って打ち消す。いずれにせよ、尾行する理由がもう一つできた。堀川さんを斑から守るという理由が……。


 俺の想像はその後の斑の行動で確信に変わっていく。商店街で堀川の振る舞いに斑に動揺が現れる。

 堀川さんが商店街で大学生に声を掛けられる。八百屋の親父に声を掛けられる。

 普通に知り合いに声を掛けられているだけに見えるのに、その度に、斑は感情を抑えているのが丸わかりだ。

 分かり易すぎるぞ斑。そのイライラは嫉妬という感情だ。

 

 それで堀川は家の中に入って行った。堀川の家は結構お金持ちなんだろう。この辺りは一条財閥の各企業の重役が住む高級住宅街で有名だ。まあ、俺には一生縁のない場所だけど。

 高い塀に囲まれた家は、こちら側からは中を伺い知ることもできない。周りの家の塀も壁のように高いし、塀の上にはあちこちに防犯カメラがある。

 尾行もここまでだな。斑も帰るしかないだろう? こちらに戻ってくる前に、俺の尾行がばれないように少し斑から距離を取らないと……。この辺りは碁盤の目のようになっているから、そこを曲がって向こうに出るか……。

 堀川の家の裏側をぐるっと回り、先ほどとは反対側に出て来た俺の目に、ジョ〇ョの中二病的ポーズを取る斑が目に入った。しかも、かざす手の甲には神の紋章が……。

『活神眼?!』

 さらに指を鳴らす動作がーー。

『波紋領域展開?』

 斑の姿が消えていく。――? 何をするつもりなんだ!


『活神眼!』

 俺も右目の前に左手の甲をかざし、虹彩に紋章を写し込む。

 そして、瞳に捉えた斑は塀を飛び越え、向こうに消えていくところだった。

 ちっ、障害物で奴が塀の中で何をやっているのかわかりゃしない。しかし、活神眼では、無機物だけを映し出し、生物を写しだすことは不可能だったんじゃなかったか?!

 あっと、俺の活神眼は無機物を透視できるんだった。

 俺は左目の眼帯を外す。両目で見ることであらゆるものが半透明で、高次元の存在しか俺の目には実像が写らない。

 そんな俺の瞳に映るのは、塀の向こうの庭木に隠れる斑だ。

 あいつ、何がしたいの? 理解に苦しむ。それにしても、あいつ、波紋領域を自分の肉体の器にぴったり合わせている。器用なやつだ。あっ、そうか! ああすることで、他人の目に映ることはないわけだ。

 いや、それが斑の限界とか……。波紋領域を周りに展開できず、自分の内にしか領域が展開できないのかも知れない。

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