第33話 堀川は商店街を抜けて

 堀川は商店街を抜けて、高級住宅街の中に歩いていく。そこから5分ほど堀川は一軒の門を開けると中に入って行った。

 堀川が入って行った門の前に立ち、表札を確認する。

 間違いない。ここが堀川の家だ。ぐるっと2メートルの塀が取り囲み、門の上には防犯カメラがある。

 うーん。中がどうなっているのか全く分からん! ここまで来て、収穫無しで返るわけにも……。なぜか俺の中に混沌神がいると覚醒してから、人を超えているから、このくらいの塀を飛び越えるのは訳ないんだけどなあ。

 ここまで、堀川を付けてきて分かったこと……、やたら、周りの人間に愛想が良いことだ。気軽に話掛けられているし、それに堀川が何かしてくれるとかの打算じゃなくて、堀川になにかしようとしている感じの方が強かったみたいだ。

 こんなの人間としてありえないだろ?

 やはり堀川には神言を持っている。それであいつらを従えているに違いないんだ。


 やはり証拠を掴みたい。じゃあ、あれをやるしかないか! 結構疲れるからやりたくないんだけどな。

 俺は左腕に神力を練り上げて行く。左手の甲に八方陣の真ん中に爬虫類の瞳が浮かびあがる。

 そして、手の甲を目先にかざす。瞳がエンブレムを映し出しだす。

「活神眼!!」

 俺の瞳は爬虫類のように瞳孔が縦に切れ長になり、時空に重なる別次元を映し出す。

「波紋展開!! 混沌呪界!!」

 軽く指を鳴らす。これで、俺は波紋領域の範囲を自分の肉体に限定する。

 これで俺は重なり合う別次元の住人になり、俺の世界には人が居なくなる。逆に言えば今俺はこの世界の次元に存在しないわけで、塀を乗り越えてもカメラには写らない。そして、人目にも写らない。

 ハハハッ、一人の女を調べるために奥の手を使うか……。

 なんでここまであの女に固執するのか……。自分に説明できない感情に、自嘲ぎみに笑うしかない。

 俺は軽くジャンプして塀を飛び越え、庭に潜入する。今電気が付いたあの二階の部屋が堀川の部屋に違いない。

 さて、どうするか……。このまま奴の部屋に入っても構わないが、もしかして、奴が神として覚醒していれば、堀川の活神眼で俺の存在がばれてしまう。

 寝静まるまで、ここで時間を潰すか……。


 深夜11時過ぎ、堀川の部屋の電気がやっと消えた。

 俺は二階のベランダに飛びあがり、部屋の中を覗き込む。机とベッドとそれに本棚とチェストがある部屋だ。特に女の子の部屋らしいものも無い至ってシンプルな部屋だ。

 ベランダの窓はカギが掛かっているが、今の幽霊みたいな俺には関係がない。

 部屋の中に入り、ベッドの布団が膨らんでいるのはそこに堀川が寝ているからか? 俺の目に堀川は映らない。生命体のため、別次元では活神眼に映らない。

やっぱり、堀川は神の覚醒者じゃない……。

それでも、念のため、何か堀川の正体に関係あるものがないか物色を始める。

 机の上にはスマホ。まずはこれからだろうな。

「波紋展開!混沌呪界!」

 波紋領域を少し広げて、スマホを領域に取り込む。こうすることで、このスマホは次元を超えた存在となり、俺の管理下に置かれる。パソコン等の電脳世界は時間と距離を超えた世界で、精神世界のシナプスという回路を電子基板に置き換えた世界であり、元々高次元の世界に近い。

 だから、より次元の高い俺みたいな神に近い存在なら同期することなど簡単なことだ。

 俺は、スマホを拾い上げ操作する。まずは電話番号とメールアドレス。ついでに登録されている交友関係やメールのやり取り……。そして、ギャラリーに在る写真や動画も……。

 すべて俺の記憶に取り込まれていく。後は……、このスマホに監視アプリを仕込んでおく。このアプリは、GPSと盗聴器が一緒になっていて、仕込まれた方は、まずこのアプリに気が付かない。それという俺という神が錬成したオリジナルアプリの優れものだ。これで、堀川がいつどこで何をしているのか手に取るようにわかる。

 

「それじゃあ、お休み」

 俺は布団の膨らみに小さく声をかけて堀川の家を後にした。


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