第32話 駅前の商店街では、

 駅前の商店街では、女に店の店主や道行くおばさんが声を掛けて行く。それにほほえみながら返事をしたり、軽く会釈をしながら堀川は商店街を進んでいくのだ。

 顔見知りの多いところで問題は起こせないないな……、って俺は何を考えているんだ? そんな後先のことなど考えたことなんてないだろ? やる前から言い訳なんて考えるなんて……。


 そんなありえない思考に取りつかれた俺の目の前で堀川はチャラチャラした大学生らしい男たちが声を掛けていた。何なんだあの男たちは? 馴れ馴れしい奴らだ……。

 今日一日、堀川には世話になっている。あの野郎たちをぶっ飛ばしてやるか? ここまでつけて来たことは何とでも言い訳ができる。

待てよ……、もしかしたら、堀川の持っている属性が見られる!


 そう考えて、飛び出して行くのを何とか押しとどめたんだが……。

 俺の予想に反して、堀川は囲まれた男たちと微笑みながら談笑している? 知り合いなのか? いや、真面目な堀川に限って……。

 そんな場面を見て、イライラしている自分に腹が立つ。

 きっと先輩かなにかだろ? そうに決まっている。あいつ誰にでも優しいから、あいつら勘違いしてるんだ。

 それにしても堀川も堀川だ! なんであんなカス野郎に愛想笑いをするんだ? 

 なんかムシャクシャする。


 やっと話が終わったのか、男たちが堀川と離れていく。

俺がホッとしたのも束の間、別れ際に男が堀川の肩を叩き、それに対して堀川も男の胸を叩いている。

 ――?! 馴れ馴れしい! いや俺の時も堀川はあんな感じだった。きっと無意識なんだろうけど、無防備すぎる! 堀川に気が在ると、あいつが勘違いしたらどうするつもりだ?


 俺の中の混沌が男に殺意を抱(いだ)く。押さえろ……。まだ、堀川の属性や神性を確認できたわけじゃない。

 何とか混沌を押さえつけ、また、一人になった堀川の後を付ける。

  

 もう商店街のアーケードも終わりだ。

 そこに八百屋のハゲおやじが堀川の前に飛び出した。さっきの件で堀川に近づきすぎていた俺は、慌てて隣の店に飛び込んだ。そこから、二人の様子を伺う俺。


「百合ちゃん! 今帰りかい?」

「あっ、こんにちは、八百屋のおじさん!」

「相変わらずきれいだね。おじさんが後、二〇歳若かったらな……」

 百合ちゃんだって、馴れ馴れしいこのハゲ、後二〇歳若かろうが、相手にされるか!!

「そんな、おじさんまだまだ若いです。私なんか相手にしないで、奥様を大事にしてあげてください」

 なんだ? このハゲ、奥さんがいるのにナンパか? 堀川いいんだよ。そんなおべんちゃらは

「なに言ってんだい! 百合ちゃんと比べたら、うちの奴なんて月とスッポン……」

 そんな当たり前の事実、今更言うか……。そんな当たり前のことで堀川の気を引こうなんて!


 思わず、堀川と八百屋の親父の前に飛び出そうとしてしまいそうになった俺に背後から声がかかった。

「待たせたね。お兄さん何買うの? 」

 待たされた? いや、別に俺は……。ふり向いた俺は、今自分が置かれている立場に戻された。

 ここは惣菜屋? ショーケースの中からおばさんが俺に話し掛けているのだ。

 そうか、俺は思わずこの店に飛び込んで……。いや、おばさんの相手をしている暇は俺にはないんだ。良い年したハゲおやじが堀川を口説いているんだ!

「何が欲しいんだい? 忙しいだから早くしてよ!」

 なんだ、このババア!! 誰に口きいてるんだ!! 

 俺がキッとババアを睨みつけると、なんとババアが睨み返していた。

「なんだい? 冷やかしい! この忙しいときに!」

「いや……、」

 ここで怒鳴り合っては堀川に見つかって、軽蔑されるな……。

「そこのコロッケを一つ……」

「だけかい?!」

「――フランクフルトも」

「毎度有り! 300円になります!」

 ババアは直ぐに恵比寿顔になって俺にコロッケとフランクフルトを渡してきた。

 300円を出して、代わりにそれを受け取る俺。食べ歩きできるように、テイクアウト用のパックで渡してくれた。

「その制服、百合ちゃんと同じ高校? この辺じゃあまり見ないけど、ひょっとして百合ちゃんの彼氏? そんなはずないよね。百合ちゃんの好みと違うもの……。あれごめん。傷ついた。じゃあ、ケチャップとマスタードは? いる? そう、サービスしといたから」

 客だと分かった途端、マシンガンのような営業トーク。

 俺がなにも言わないうちに、フランクフルトにケチャップとマスタードをたっぷり乗っけていた。

「ありがとう……」

 思わず口から出た言葉がこれかよ。この言葉を吐いたのはいつ以来か……。

 違う違う。このババアから有益な情報を貰ったからだ。


「うん、うん、学生さんはそうじゃなくっちゃね。百合ちゃんもいつもそんな感じ」

 百合ちゃん?! そうだ、俺は堀川をつけてここまで来たんだった。俺はペコリとババアに頭を下げると、店の外、正確には堀川の気配を探った。


 そこでは、断る堀川に無理矢理リンゴを渡した八百屋のハゲおやじから、何とかお礼を言いつつ脱出したところだった。

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