第30話 困ったように斑は

 困ったように斑はパンと堀川さんを交互に見ていたが、堀川さんと目が合うと、おもむろにパンの袋を開け、迷惑そうにパンを頬張りだした。


 なんだ、斑って押しに弱いんだ? って、これは弱点と云えるのか? それよりなにより、斑の雰囲気は最悪なのに、なぜか二人の会話が成立しているのに腹が立つ。

 いやいや、こんなにイライラするのは俺が腹が減っているからで、こっちは二人の命令で斑を張っているのに……、せめて、張り込みの時は上司がアンパンと牛乳を差し入れてくれるのが常識じゃないですかね!

 俺はここに居ないミキとヤミに心の中で抗議する。でも、そんな抗議も二人には届かず、二人が教室に帰って来たのは、昼からの授業が始まる1分前。

 結局、俺には誰からの差し入れもなく、そのまま、午後の授業が始まったのだ。


 午後からも、斑と堀川さんは机を引っ付けて、教科書を見せているが、斑が堀川さんに心を開いている感じはなく、相変わらず窓の外をぼーっと見ているだけだった。


 グーーーッ!!

 そんな時、教室に鳴り響く腹の虫。

 そうだよ、俺だよ! 昼抜きにされて、空腹の限界を迎えた俺の腹が盛大に鳴ったんだよ。両側で笑い転げているミキ、ヤミ。こいつらに堀川さんの爪の垢を煎じたお茶を差し入れたいと、割と本気で思ってしまったのだ。


 そして、空腹を抱えながら、やっと放課後を迎えたのだ。

 

 過酷な一日だった……。

 一日を無駄に過ごした感が凄い。斑の監視など意味がない。こんなことで弱点が分かるなら、誰でも世界チャンピオンになれることを悟った自分に気付く俺を客観的に見つめる自分がいた。いや、俺、何人登場した? ナルシストじゃないんで……。


 もう、帰ろう……。 

 そんなことを思う俺の視線の先には斑が居て、なかなか席から動かない斑の視線の先には堀川さんがいる。

 あれ? 実は奴はもう……。


 バン!!


 虚無感の漂う俺の背中を叩く奴がいた。

「はい、差し入れ。まだまだ、張り込みは続きそうだから」

 そう言って、目の前にアンパンと牛乳を差し出したヤミ。まさか、空腹の少年の胃袋を掴みにくるとは……。


「はい、変装道具。学校の外なら活心眼を使ってもいいです。だって、使わないと斑の元になっている神の正体がわからないと思うから」

 今度は、ミキがサングラスとコートを差し出してきた。

 これは? と思う間に、眼帯に手を掛けられ、右目に掛かっている眼帯を素早く左目にかけ替えた。そして、サングラスを掛けてくれた。

 近い近い! しかも、左手はヤミが強く握ってくれている。

 これはアースアイに紋章の刻まれた手をかざせないように抑えているんだろうけど……。

 そんなことはしないって。活神眼は時と場所、そして相手を選ぶと決めているのだ。それに、非生物を透明化させるイレギュラーを起こす左目は、眼帯によって封印されてしまっているのだ。

 さらにアイテムとしてロングコート、眼帯の上からレーバンのサングラス、そして指貫グローブ……。これって誰のコスプレですか? 

 二人から受けるプレッシャーに俺の任務はさらに遂行されることになったのだ。


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