第28話 一方、斑と堀川百合が出って行った教室に
一方、斑と堀川百合が出って行った教室に、すぐに堀川百合が帰ってきたことで、どよめきが起こった。
「えっ、もう戻って来た!」
「なんで、堀川さん、無事なの? 」
「あの斑にあれだけのことをしたのに……」
「女だから、手加減した?(あいつが? 有り得ないだろ……)」
「まさか~。あいつ、一条のお嬢様でさえ敵認定だもんな」
「どうやって奴の問答無用の暴力を躱したんだ?」
堀川が無事に帰ってきたことに驚きと称賛の目が集まり、クラスメートがひそひそ話す中、堀川は戸口で軽く頭を下げ先生に告げた。
「東大路先生。斑君は保健室で休んでいます」
「そ、そうなの? ありがとう。それでは席に戻ってください」
(そんなこともあるんだ~?)と考えながら、それらの様子を教室の後ろからぼんやりと見ていた俺に、ミキの方から折りたたまれた紙切れが回ってきた。
(これが女子高生たちの間で、授業中連絡を取り合う回覧便ってやつか? ついに俺にも回ってきたんだ。誰から回って来たんだ?)
ミキの方を見る目が「早く読め」とばかりに細められ、顎をしゃくった。
これが、『目は口ほどにものをいう』と『顎で人を使う』という諺は比喩ではなく現実だった!!
しかも、隣のヤミが覗き込んでくるし『一寸先はヤミ』ってか!
そりゃ確かに今は現国の時間ではあるけど……。
まあ、冗談は置いといて、紙片を広げる。
『斑の弱点は朝に違いありません。意外と早く露見しましたが、あの堀川さんが無事に帰ってきたのが何よりの証拠です。斑の様子を見てきなさい。斑がもし弱っているようなら……、
トドメを刺してきなさい!!』
なんて物騒な手紙なんだ。首を親指で書き切るイラスト付きだ。
女子高生ってこんな物騒な手紙をやり取りしているのか?
いや、今授業中だから。
俺はミキの方を向いて、手を広げて抑えてのジェスチャーをする。
すると、手紙を覗き込んでいたヤミが、いきなり手の指をピストルの形にして、俺の背に突きつけた。
いや、KILLするのは斑のはずだが……。
俺はドウドウと抑える手を条件反射で上げてしまった。ホールド・アップだ。
「天野君、両手を上げるなんて、何か急ぎの質問かな?」
東大路先生が俺をみて板書をやめて教壇に手を付いた。
なっ、つい条件反射で……。
「あ・ま・の! 私の授業はお手上げっていう意味かな?」
そこで巻き舌で俺の名前を呼ばないで……。ミキとヤミが……。っと二人を見てみると、二人はノートに板書を書き写すのに大忙しだ。
あーっ、分かりました。ミッションを実行してきます。
俺は両手を上げて立ち上がった。
「すみません。腹が痛いのでトイレに行っていいですか?」
高校生にもなって、何が悲しゅうて授業中にトイレに行かなあかんのや。これ、小学生やったら、周りにからかわれてトラウマもんやぞ。
何人かクスクス笑ってるし……。
「なんだ天野。そんなことか? いいぞ。漏らされても困るんで、行ってこい!」
「はい、ありがとうございます」
はあっ、教室で漏らすってどんな拷問だよ。黙って行かせろよ。お前みたいな一言多い教師がイジメとトラウマを累々と積み上げているんだぞ。いや、俺のことじゃないけど……。
まあいいや。基本生徒思いの良い先生だ。
俺は腹を抑えながら廊下に出た。
さて、朝が弱点なんて普通の高校生だろ。まして、中学の卒業式から高校入学まで合格発表も終わって一番ほっとしているときだし、高校デビューを考えて色々の生活習慣や態度が乱れるときだし……。
いや、あいつに限ってそれはないか?
ところで、保険室ってどこにあるんだ? 適当にぶらついてみるか?
という訳で、職員室のある棟をしらみつぶしに……。さすが、高等部だけで生徒数1200人の大規模学校だけあって敷地も広い。迷いながら職員室棟に着いた時には結構な時間がたっていた。そして、やっと見つけた保健室には斑はいなかった。
まあ、どうでもいいか。朝が弱点なんてあいつに限っては有り得ないだろうし……。堀川さんが無事帰って来たのも、あいつの機嫌がよかっただけだったかもだし。何しろ気分屋みたいだからな。
そう言い訳して、貴重な時間を無駄にしたと思いながら教室に戻り、後ろのドアから目立たないようにこっそり入ったはずだったが……。
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