第16話 そうやって、二人に引きずられて

 そうやって、二人に引きずられて廊下まで来たわけなんだが……。後ろの方では唖然としながらも、さっきの取り巻き達の声が聞こえる。

「なんですの一体?」

「あのお二人の意見が分かれるなんて!」

「緩衝材って言っておられたわ。あの天野っていうやつは二人のストレス解消の道具なんでしょ。思いっきりビンタしてたし」

「そっか!! 納得。仲の良いお二人でも喧嘩することはあるだろし」

「そっか、そっか。そういう時のための人材か~」

 背後で聞こえる罵詈雑言。

 お前ら、なに意気投合してんだよって、そんな訳あるか~! 

 でも、社内団結のためにはそういう人材も必要なんだよな。まあ勝手に解釈していろ。

 だが、俺は断じて違うからな。


 そんなことより、今の状況だ。

「生徒会室に行ってどうするの? 俺、生徒会の役員でもないし」

「別に構いませんよ。私が生徒会会長になったら、あなたを庶務に任命しますから」

「ミキさんが生徒会長?」

「ああっ、カリスマ性ではあたしも負けるからな。中学時代もミキが会長であたしが副会長だった」

「会長と副会長? 二人で」

「そう、だから現生徒会長に頼まれて、生徒会に挨拶に生徒会室に行ったんです。そしたら、一年の風紀が乱れているって」

 そうだね。ほとんどが内部進学組だとしても、生まれ変わるなら最高のタイミングだ。高校デビューって言葉もあるぐらいだし。

「まあ、それであたしらの責任でシメようって話になるわな」

 そういう話になるんだ? さすが武闘派、元闇の神。

「でも、わたしはまず説得だと思うの。話し合いが大事でしょ。暴力じゃなにも解決しないわ」

「それが甘いっていうんだよ。ミキ! 光の神のくせに不良たちが怖いのか?!」

「はっ、なにをバカな!! 力なき正義は絵に描いたおっぱいですわ」

 いや、それをいうのなら、絵に描いたもちでしょ? そんなもちは食欲を満たさないけど、絵に描いたおっぱいはそれなりに需要があります。

 ってミキさんも大人しそうな顔して、そんなツッコミ言うんだ。見た目と違って頭湧いてる?


 本当に二人が言い争いをしている。

 まあ、その辺のちょっと目立ちたくなったガキなど、二人が出るまでもなく眷属がちょっと暴れれば問題は解決するんだろうけど……。

 まあ、正義にも武闘派はいる。剣聖とか戦いの神とか。でも、どちらも出したら、お互いに争って、俺の部屋の前住民みたいにこの学校から誰もいなくなったりしないか?


 そんな言い争いを聞きつつ、不毛な思考をしていたら、生徒会室の前に立っていた。

「生徒会長、解決策を持ってきました」

 そう言ってドアを開け、俺は部屋に押し込まれた。そして、怪訝そうな瞳を向けてくる数人の真ん中に座る女の子。

 きりっとした顔立ち、艶のある長い黒髪。

 できる! いや勉強が……。一目見て分かった。この人は頭がいい人だ。しかも美人。ミキとヤミが女神なら、こちらは神が創りたもうた最高傑作。確かさっき入学式で挨拶をしていた生徒会長。俺みたいなパンピが一条学園の雲の上存在に会えるとは、キムコ先生!これが出会いと云うものですか? 

そして名前は確か……。

「二条日巫女(にじょう、ひみこ)と云います。あなたが天野君?」

 切れ長の鳶色の瞳が俺を射抜く。

 これは辛辣な言葉が来る。でも、大丈夫。どんな悪意も俺の心にダメージを与えないのは先ほどの教室で確認済み。

 どんな言葉の刃が飛んでくるのか? 身構えた俺に向かって……。

「二股の最低男!!」

「――!!」

 二股って誰と誰に? 

「黙り込むとところを見ると図星みたいね? ミキちゃんとヤミちゃんは私のいとこ。最近は会っていなかったけど、仲の良い双子だった。雰囲気も似てたし。意気投合もしてたしね。

 それで、一年生の服装が乱れていることについての意見を求めたんだけど…。

 でも、今日会うと雰囲気はまるで正反対。口に出せばお互いいがみ合っているし……。わたしの後、この二人には生徒会長と副会長をやってもらうつもりだったのに。これじゃー学校の運営も難しいわね」

「この二人が生徒会役員? 会長に次の会長の人事権があるんですか? 普通こういうのって立候補とか選挙があるもんなんじゃ?」

「一条学園では違うわ。会社の経営と一緒よ。人事権は執行部にある。誰でもできる立候補なんてありえないでしょ。まして従業員に投票させて決めさせるなんて馬鹿げたことするわけないじゃないの」

「そんなんだ?(さすが一条財閥の訓練校。民主主義って云うのは会社組織には無用なんだ。そらそうだよな。会社組織って恩賞と奉公、いわゆる封建社会で成り立っている。

働きによって給料をもらうのは当然、社長を従業員の投票で選ぶなんてありえないよな。

民主主義や平等主義をこの国は皇家や企業に持ち込もうとするから、やる気のある人を排除しようとするし、施しを貰う感覚で給料を貰うから、皇家や企業が弱体化するんだよ。この国の一人あたりの生産性って先進国最下位らしいから)」

と政府のやり方に憤を感じた心の声は無視されて、会話が進んでいる。

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