第17話 そう、二年生には会長の器が居ない

「そう、二年生には会長の器が居ない。それなのに……。二人が仲違いしているのは問題なの。その原因があなたなのね?」

 いや、それは違うだろ? 大体、二人がいがみ合っているのは記憶を取り戻したからで、元々宿敵みたいなもんだし。

「原因が俺?」

「だから、やめてほしいの二股!! 二人に聞いたわ。ザギリがいれば何とかなるって。で、その二人の乙女チックな態度を見れば一目瞭然」

 乙女チックな態度? 俺は右腕を組んでいるミキと左肩を押しているヤミを見た。

 なぜか顔を真っ赤にして、俺から距離を取り始めたミキとヤミ。だが俺の心には定番の(もしかして? いや、そんなはずあるわけない)の葛藤も無ければ、何ひとつ訴えるものがない。

うん、好意に鈍感なのは想定通り。これこそラブコメの王道主人公だ。

「そんなわけないじゃないですか!」

「もちろん、冗談だ、真に受けるな」

 俺の反論に間髪入れす答えた二条会長。

 この人からかっているだけだよね。もう、付き合いきれない。

だから、生徒会長の二条さんに向かって正論を吐く。

「二条会長、二人に聞いたんですが、その一年生の風紀が乱れているって、具体的にはどういうことでしょう?」

 すると周りが先に反応した。

「髪の毛を染めているのもいるし、服装も乱れている」

 俺はそちらに向かって口を開く。確かに金髪もいたけど。

「服装が乱れている? どの辺が?(いや、今時の高校生なら普通だろ)」

「どの辺がって、スカートが短いし、スカーフやネクタイも緩んでいる」

「そうそう、ネクタイをしていないのもいるし、ズボンもぴったりしているし」

「なるほど、で校則はどうなっているんですか?」

 俺は当然の疑問を投げかける。こんなところで不満を言わないで、校則を盾に取り締まればいいだけの話だ。現生徒会や風紀委員会でなんとでもなる話だ。


 ところが、なにを言っているとばかりに二条会長が口を開いた。

「一条学園に校則はひとつだけ。只「一条財閥に心臓を捧げよ!」だけだ」

おもっ、重すぎる。なんだその校則は……。 

 言葉に詰まった俺に、さらに追い打ちが……。

「ならば、この一条学園で心臓を捧げる相手は二人だけ! ミキちゃんとヤミちゃんだ。二人が不快に思う服装は全て校則違反なのだよ」

 うっ、クールビューティーのドヤ顔が眩しい。

 目を逸らした先にミキの少し困ったような顔が……。

「ミキは不快に感じるの?」

「ううん……。でも一条にふさわしくないなら……、一年生全員ブートキャンプで徹底的に更生します」

 確か話し合いでって言ってなかったか? ブートキャンプってそれ、洗脳だから。

 ヤミの方を向いて尋ねてみた。

「ヤミはどうなの?」

「別に恰好なんて気にしない。あたしの指示に従わない奴は顔の形が変わるまで殴る」

 ダメだ。こっちはもはや方向が明後日の方に向いている。というか二人とも恰好なんて気にしてないじゃないか!

「うむ。私も二人に激しく同意だ。ブートキャンプの時、上級生を敬う様に徹底的に洗脳してくれ。ヤミちゃん、上級生を敬わない奴は、顔だけじゃなく人の形が変わるまでやってよし」

 二人に同意って、二条会長は一年生に先輩風を吹かせたいだけなのがはっきりした。確かに、年長者に敬意を払うのは企業人としては当然なんだろうけど……。


「ミキもヤミも服装うんぬんはどうでもいいんだな?」

「「うん」」

「じゃあ、境界をはっきりさせよう。俺もわけわからず、ブートキャンプに参加させられたり、顔の形が変わるまで殴られたりするのは勘弁してほしいし」

「境界をはっきりさせる?」

「服装規則を作りましょう。そうですね。誰が見ても不快にならない規範なら、世界一サービスが素晴らしいって言われている一条百貨店の接客マニュアルをアレンジすればいいんじゃないですか?」

「さすが、ザギリです」

「だな。境界がはっきり見えた」

ミキとヤミの賛同は得た。あとは二条会長だが……。

「ミキちゃんとヤミちゃんが賞賛している。凡庸な意見なのに……」

 その凡庸な意見さえ出せなかった生徒会って……。 

「境界をはっきりすることで、一条への忠誠心が一応判別できるな。腹の中まではわからんが……。一条百貨店のマニュアルなら誰からも文句は出ないだろうし……。早速、校則を改訂しょう」

 会長の言葉にみんながパソコンを立ち上げ動き出した。

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