第15話 ちょっと待てって。俺の話が先だろ

「ちょっと待てって。俺の話が先だろ!」

「いちいちうるせえんだよ編入組。まずこいつと一条さんたちがどうして親しいか聞くのが先だろ? 万一、もしかして、絶対ありえないけど、特別な関係だとしたら、俺達の方が立場が悪くなるからな?」

「あん?特別な関係ってなんだって言うんだ?」

「ほら、幼馴染とか別れた奥さんの子どもとか……」

「義姉妹ってやつ?」


うんうん、ラブコメには有りがちな設定だねって、そんなわけあるかぁ! 

「いや、昨日、公園で偶然知り合った。偶々、俺の下宿先が一条たちの家の近くだった」

 勝手に設定されても困るので、俺も色々隠して言い訳をする。

「まさか、君が捨てられた子猫を拾うところを、偶然、一条さんたちが見かけたっていうオチか?」

この斑ってやつは相当ラノベを読み込んでいるな。実はオタクだったりするのか?


「うん、それだったら、お嬢様たちがお前に声を掛けたのも納得できる」

 それにさっき後ずさった女の子、自分の居場所を確保しようとシャシャリ出てくるな。

 あの二人がそんな玉かよ。こっちはいきなり殺されかけたんだ。でも、そんなふうに思われているならそれを利用しない手はない。

「いや、公園で迷子になっていた女の子の家を探していたら、いきなりあの二人に不審者扱いされて、危うく警察に通報されるところだった。まあ、お母さんも探しに来ていて、運よく通報される前に真相がわかって助かったんだ。一条さんたちも謝ってくれたし」

 口から出まかせを言ったんだけど、案の定、斑は信用してくれた。

「そっか、そういう知り合い方もあるか。そこで一条さんの蹴りが入って……、ところで、天野、今日は何回目の入学式なんだ?」

はあっ、何回目の入学式って? 確かにミキとヤミは、あのアニメの女の子たちに負けず劣らず変わった奴だけど……。

こんなありそうもない話を信じるなんて、斑、お前オタク確定な。でも他の奴らはそんな話では納得しない。

「お嬢様たちが謝るって?! 悪いのはお前の怪しげな恰好だろ!!」

 なんだよ。女、自分の居場所の確保に必死だな。でも、話自体は信じたんだ?


「そうだな、そんなことでもないと一条のお嬢様たちがお前と知り合うなんてありえねぇ」

「お前を疑った後ろめたさで、いやいや一緒にいるだけだぞ」

「ふざけんな、偽善者!!」

「うぜェー!!」

「一条のお嬢さんは誰にでも、いや動物にだって優しいからね」


 あの二人、俺には優しくないからそんな恥ずかしい勘違いはしない。フラグも立たんわ。

 しかし、ここまで非難されるとは、話は理解しても納得はできないってやつか。


 まあ、俺がここまでしゃべること自体、自分でも驚きだわ。相手の悪意を跳ね返せるって云うのは、ここまで傍若無人になれるもんなんだ? 冴えない、人見知りする、自分に下卑するラブコメ主人公が突然饒舌になる話なんてありえないって思っていたけど、実は、俺と同じ能力を持っていたりして……。

 俺だって初めてだぞ。こんなに饒舌にしゃべったのは……。


 それにしても、いい加減面倒臭くなってきたな。別に相手をする必要なんてないんだから、使うか波紋領域展開。領域の中には生物は入れないってことだから、俺だけがこの場から動けばそれで、こいつらから逃げられるんじゃねぇ? 使った後、疲れ方が半端じゃないけど……。

 こいつらの相手をしていても、前ほどは心が疲れるわけじゃないんだけど、時間の無駄だし。

 この不毛な尋問と時間を天秤にかけ、時間が大事、結論が出た俺は右手を眼帯に掛けた。

 そこに、生徒会の仕事に行っていたミキとヤミが教室に戻ってきたのだ。


「ザギリさん、まだいますか?」

 ミキが教室に入って来た瞬間に、俺の周りの人垣が割れる。

「一条様(さん)」

 周りが声をかけたんだけど、ヤミはお構いなしに俺の所までやって来た。

「ザギリ、ちょっと手伝ってくれないか? ってお前、ちょっと何しようとしてんの!!」

「いや、これは……」

 最後まで言い訳させてもらえなかった。俺が眼帯を捲り上げようとしたことが気に食わなかったみたいで……。

 バシーーンーー!!


 見事に右ほほにモミジの後が出来た。さらにネクタイが締めあげられる。

「あんた! バカなの?! バカでしょ! こんなところで波紋領域展開なんて!!」

「「「「波紋領域?!」」」」

「ヤミ、いい加減にしなさい!! みんなもわけが分からなくて困っているでしょ」

「あっ、そうか? ザギリ。こんなふうに生徒会でミキと意見が合わないわけ!! 緩衝材としてのあんた、役に立つでしょ!!」

 俺を緩衝材って。確かにあのプチプチはイライラした時に持ってこいですけど……。

「ザギリさん。そういうわけなの。生徒会室までご同行願うわ」

 ミキはそう言って俺の腕をとる。ヤミはヤミで肩を組んでくるし。この体制って有無を言わさない昨日と同じですよね。

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