第12話 あった!! わたしたちと同じクラスだ!!

「あった!! わたしたちと同じクラスだ!!」

「おっ、ほんとだ」

 二人の声に経営戦略クラスの所をみると、確かに有った! 名簿の一番上だ。

「俺が経営戦略クラス?!」

「なんで、そこで疑問形?」

「もっともな疑問だな、だが、あたしたちの因縁から云えば、三人揃うのは必然だろ」

「三すくみ、三位一体、もはや腐れ縁?」

 そういうこと? 俺に決断力があるとは思えないんだけど……。


「取り敢えず、教室に行こうよ」

「そうだな。もうここに用は無いしな」

 ミキの言葉にヤミが応える。さすが内進組、どこに教室があるのか分かるんだ。もちろん、どこに在るか知らない俺は彼女たちにいそいそと付いて行くしかない。

 で、校内を歩き回った挙句、教室に着いたのは9時ジャスト。なんで、中等部の方に行くかな~。船頭が二人いる航海の危険を、身を持って知った瞬間だった。

 この二人が舵を取ったら、一条財閥といえど危ないんじゃないか?

 

 閉じられたドアの前で躊躇している俺の背中をミキが押し込む。そのタイミングでヤミがドアを開けた。

 後ろ弾?!

 無理やり前方に押し出された俺の目の前には担任と思われる女性が一人、どこにでもいそうな顔に俺は既視感を覚えたが……。

「後ろにこの学園の有名人を侍らせて 初日から遅刻? 随分なご身分ね? って、あれ、昨日、ゲゲゲの鬼太郎ヘアーで廊下に倒れていた人だ。確か天野君じゃない?」

 まあ、俺の容姿は特徴的だからね。一度みたら大体覚えているか?

 それにしても、昨日廊下で声を掛けてきた女性が担任とは……。

「その様子じゃ大丈夫みたいね。時間も時間だから講堂にいくわよ。クラス全員が入学式に遅刻ってわけにもいかないから」

 クスクス笑いながらそう云うと、東大路先生はクラスの方を向き直る。

「ほら、廊下に整列して。一条さんたちは前に出ないといけないから、天野君はその後ろ、あとの人は天野君に付いてきて」

 そう言って、雅先生は先頭を歩いていく。


講堂では各クラスが既に整列して座っている。我が経営戦略クラスは一番中央の場所だ。


そして、厳かに入学式が始まった。

校長や来賓の偉い人の話が寝不足の俺には子守唄のようだ。でも、真正面で寝るわけにはいかない。必死であくびを噛み殺し聞いた話は、どれもこれも一条財閥の自慢話と社会に通用するスキルを身に着け、一条財閥に必要とされる人材となるようにという訓示だった。

そして、新入生代表はミキだ。

その凛とした態度、一分の隙も無い美しさは彼女の優秀さがオーラとなって溢れ出ていて、さっきと違って近寄りがたい雰囲気だ。

さすが、一条財閥の令嬢。これがカリスマというものか?


 そこで、同じ顔をしたヤミが振り返って俺に小声で話しかけてくる。

「ミキのやつ、大分気張ってやがる。あたしだって、その気になればあの程度の振る舞いは楽勝だからな」

 そこで、対抗意識をださないでください。近くでオーラを出されると思わず土下座しそうになりますから。

 まあ、そこで意識が引き戻され、ドギマギさせられ入学式は終わったわけだ。


 そして、教室に戻り適当に席につくと、東大路先生は自己紹介を始めた。

「私の名前は、東大路気無子(ひがしおおじ きむこ)私が生まれた日に、父がニンニクのたっぷり入ったラーメンを喰っていたばっかりに、私を産んだばかりの母は、病室での感動の対面にも関わらず、ニンニク臭をまき散らす父に言い放ったのだ。

「キムコ、この子の名前はキムコです!!」

 拳を握りしめたながら話した東大路先生は、生徒たちの同情的な視線に冷静さを取り戻したのだ。

そして唐突に教壇からクジを取り出した。

 クジ?!

「君たちは、経営者に必要なものは決断力だと聞かされているだろう。だが、それは違う。機械(タイミング)、いや出会いだ。人と人だけじゃないぞ、書物やモノやアイデアやだってちょっとした出会いだ。成功に偶然の出会いなどない。だったら、自分でいい出会いを手繰り寄せなければならない。

 という訳でクジだ。私は昨夜、10時前まで掛かってみんなのために作っていたんだ」


 昨日遅くなった原因がクジの作成? 昨日、同情した俺の気持ちを返してくれ!!

 俺のそんな萎えた気持ちとは裏腹に、黒板に座席表を張りつけ、東大路先生の熱弁は続く。

「この中に、将来のライフパートナーやビジネスパートナーがいるかもしれん。諸君!! 心してクジを引け!!」

「「「「おーーっ!!」」」」


 で、クジの結果、俺は一番後ろの席のど真ん中、その両側にミキとヤミがちょこんと座っている。

「このクジによる座席、運試しだけじゃないな。あたしらの席はクラスを見渡す一番後ろの席」

「ヤミそうですね。みなさんの様子が手に取るように分かる指揮者の席なんて、運だけでなく器も試されているみたいです」

 この二人の会話、悦に入っているところ悪いんですが、その間に俺がいることを忘れてませんかね? 俺には全く無縁な立場なんですが……。

 ――腐れ縁というやつですか? 先生、キムコでこの腐敗臭を消臭してもらえませんかね?

「出会いそのものに善意も悪意もない。たとえ、善意や悪意を持って近づいてきたとしてもだ。だから、出会いを生かすも殺すも君たち次第だ」

 東大路気無子先生、素晴らしい教訓をありがとうございます。

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